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テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌2

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 完全に物理法則を無視した質量だ。人の体から出てきておいて、その体積を遥かに凌ぐ大きさ。とっくに原理うんぬんという話ではないのだが、理不尽なものを感じる。
「どーすんだよこれ……!」
 とても太刀打ちできそうにない物と対峙し歯噛みしながらも、鍵を構えることはやめない。どうしたの、と背後から聞こえてくるアニスの声。それに応えるティア達の様子からも、自分以外にこれは見えていないのだとわかる。
(なんでだよ、さっきまでは見えてたじゃねーか!)
 他の面子からの助力が期待出来ないとなると、この場は逃げ出す他ない。しかしそれができるのかはまた別の話だ。瘴気集合体は体から伸びた触手をぴしりと地面に打ち付けながら、じりじりルーク達の方へ近寄ってくる。とてもじゃないが、黙って逃がしてくれそうにはない。
 背筋を汗が伝った、それを感じた時だった。チリッ、と体表の毛が逆立つような感覚が走り、

 ──────────ズドンッ!!

 世界が真っ白になり、鼓膜を劈く重低音が突如響き渡った。内臓を直に殴るような振動が身体を貫き、轟音でツンと詰まった耳が元に戻る頃、ようやく今のが落雷だったと理解した。強い閃光に奪われた視界が戻ってくるまでに数秒を要し、状況を確認しようと視線を上げると、落雷の前まではなかったものがその場に顕現していた。
 丁度ルークの頭上だ。紫色の球体、と言えばいいのか。直径は二m程、その表面は水面に油を落とした時にできる虹色のような模様が揺らめき、パリパリと小さな雷が走っている。落雷の原因はこいつだとルークは直感した。
 敵か、味方か。
 この状況で敵が増えるなど身の毛もよだつが、しかし正直味方であることを期待できる見た目でもない。人や動物ではないことは確か。魔物、なのだろうが今まで見てきたどの魔物とも違いすぎる。そもそも生物なのかも怪しい。
 先の落雷で、地面はまだ帯電しておりパチパチと音がする。瘴気集合体は紫の球体を警戒しているのか、前進を止めていた。ルークの背後にいるティア達は、突然の出来事に驚いてはいるが無事なようだ。
「ルーク、大丈夫!?」
「ああ、そっちも平気か!」
「もうやだ〜! なんなのこれ〜!?」
「こっちが聞きてえよ!」
 帰りた〜い! と喚くアニスを余所に、ルークは再び瘴気集合体に向かい合う。やはり、この球体も皆には見えていないらしい。
(……ってことは)
 瘴気集合体、もしくは。と思い至った時だった。
『──────逖エ豌』
「しゃべっ……!?」
 た、とルークは頭上を見上げる。音の発生源は間違いなくこの球体だった。しかし、口はもちろん目も鼻も見当たらない。一体どこから音を発しているのか……。
『螟ゥ蜻ス繧呈戟縺」縺ヲ蜃ヲ縺』
(な、何言ってんのか全然わかんねえ……)
 音の繋がり方から、これがただの鳴き声ではない事はわかる。何かを話しているはずなのだが、その内容が理解できない。謎の球体が謎の言葉を話す摩訶不思議な事態に唖然としていると、球体が表面に纏う電気がパリッと音を立てた。
『蜴サ縺ュ』
 刹那。また視界が真っ白になる。今度はドンドンドンと立て続けに三つ。そのひとつひとつが先の雷より大きく鳴り響いた。
 息が詰まる。強い振動に、心臓が一瞬脈を乱した。臓腑が冷え、ぞわぞわとした感覚。体中の毛を逆立てる静電気……だけではない。人の身で抗うことを許さない天地の力、それに対する畏怖だ。はっきりと、死を間近に感じた。
 いまだ皮膚の表面をバリバリと電気が駆けている。それが落ち着くのも待たず、ルークは閃光に怯み思わず瞑った瞼を、恐る恐る開く。
「……い、ない」
 預言士の男は変わらず、ルークの目の前の地面に倒れている。しかし、その頭上にいたはずの瘴気集合体が、影も形もなく消え去っていた。気付けば謎の紫の球体も姿を消している。預言士の周囲の地面が黒く焼き焦げている以外、全てが落雷の前に戻っていた。
「なんだったんだ……」
 まだ早鐘を打っている心臓を感じながら、ルークがその光景を茫然と眺めていると後方のざわつきが耳に入ってきた。ルーク以外には瘴気集合体や球体が見えていなかったのだから、彼らにとっては突如四度の落雷に見舞われたとしか認識できていないはずだ。それもこんな屋内で。その戸惑いはルーク以上だろう。
「凄かったな……みんな、怪我はないか?」
「ええ、私は平気……」
「うぁーん、まだ耳が変だよ〜」
 ルークは仲間たちの元へ近付く。それに気付いたガイが預言士の方を見ながら声をかけた。
「ルーク、そっちはもういいのか」
「ああ……今の雷のせいか、消えちまった」
「消えた?」
 ガイの視線がルークの腰に移る。そして「本当だ」と呟いた。
「透明に戻ってるな」
 言われてルークも自らの腰元へ視線を落とす。右手で腰から提げた光透石を取り上げると、手のひらの色を透かして見える程透明に輝いていた。この場から瘴気が消えた証拠だ。ティアもルークの手のひらを覗き込む。アニスは相変わらず、耳抜きが上手くいかない己の耳と格闘していた。
「も〜あの雷なにー? 譜術ぅ?」
「だろうな。こんな屋内で、自然現象じゃないだろう」
「だとしたら一体誰が……あんな威力、大佐でも出せるかどうか──────」
「精霊だ」
 声の出処を、ティアがぱっと振り返る。ルークからは、ティアの肩越しによろめきながら鉄格子から出てくる男の姿が見えた。追いかけて出てきた騎士が慌ててその肩を支えようとするが間に合わず、大柄な男性はどさりと地面に膝をついた。
「大丈夫ですか!?」
「イ……ト………いや、あの雷。まさに鳴神。となれば……」
 駆け寄ってきたティアの呼び掛けも無視して、男性は地面に向かって何事かを呟いている。苦しげに息をする男の背中は丸まっているが、それでも大きい。傍に跪くティアが子供のように見えた。
「これは…………ぃき、の……」
 そう言ったかと思うと、次にはぐ、と唸って男の体はがくりと力を失った。突然力が抜けた大男の体の重さを騎士が支えきれず、そのまま地面に倒れ伏した。ティアが一瞬狼狽えるが、すぐに大きないびきが聞こえ、ほっと息をついた。
「ルーク、この人」
「ああ。やっぱそうだよな」
 ガイとルークが頷き合うのを見て、アニスが首を傾げる。
「なに? この人知ってるの?」
「知ってるっつーか……多分、俺らの探してた人だ」
「えっ」
 この熊みたいな人? とアニスはごーごー爆音を立てながら眠る男性の顔を覗き込む。髭で毛むくじゃらになった顔面は、見れば見るほど熊に見えてくる。アニスは込み上げる笑いを耐えきれず、少し吹き出していた。
「こりゃしばらく起きないな」
「ま、まあなんにせよ応援呼ばなきゃだし一度ここを出ない? みんなはアルビオールで来てるんでしょ?」
「ああ。待てよ、いまノエルに連絡する」
「あ〜ん助かる〜♡」
 ルークが胸元から通信機を取り出し、スイッチを押す。
「…………あ?」
 しかし、通信機はうんともすんとも言わない。
「なんだ?どうして……」
「……あーそうか。さっきの雷でいかれちまったんだな」
 ガイの一言でアニスの眼差しが一気に氷点下に下がったのをルークは背中で感じた。