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テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌2

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 自力歩行可能な人と捕縛した預言士、残る男手で抱えられる子供だけを連れ、ルーク達はザレッホ火山を脱出した。瘴気の気配は消えたことから第七音素の行使も問題ないと判断し、ティアと治癒術士の騎士だけはその場で残る人々の治療にあたった。
 火山から出ると、ノエルがすぐさま人影に気付きアルビオールを寄せてくれた為、街まで徒歩で戻るという最悪の事態にはならずに済んだ。
 神託の盾騎士団に協力要請をして、アルビオールに往復してもらうことで火山にいた人々は全員救助出来た。その数、五十四名。大教会を一時的な避難所として治療が行われた。かなり危険な状態の人もいたが、助け出した人達はなんとか一命を取り留めた。
 性別、年齢はもちろん、身なりも三者三様。バラバラすぎて、どういった謂れの集まりなのか想像し難い。どうして、どうやって火山へ行ったのか。意識を取り戻した者から事情を聞くも、皆記憶が曖昧で成果は芳しくなかった。
 問題の預言士の男はまだ目を覚まさない。しかし、騎士団の調査により身元は割れた。ダアト教会に勤めているローレライ教団の詠師。勤務態度も非常に真面目で敬虔な教団信者であるが、ここ最近突然出勤しなくなり、連絡も取れず行方を晦ましていたらしい。
 火山での様子から、かなり深く瘴気集合体に冒されていることが予想される男に、ベルケンドで治療を受けさせた方がいいのではとティアが進言した。預言読譜の容疑者であることから、神託の盾騎士団側は男をダアトから出すことに渋ったが、人命に勝るものはないというトリトハイム大詠師の言葉で、ベルケンドへの男の搬送が決まった。
「……というわけで、アニスちゃんはそのベルケンド搬送に同行することになりました!」
「へぇ、大変だな」
「え?」
「は?」
 ティアとアニスが上層部への報告を終えて宿の部屋に帰ってきた頃には日もとっぷり暮れていた。深夜と言っていい時間帯、眠気も相まって適当になったルークの返事をアニスは聞き流しはしなかった。
「そこは『じゃあ俺達も行くよ。そうしたらアルビオールが使えて楽だろ? 俺も可愛いアニスと一緒にいれて一石二鳥だしな』って言うとこじゃない?」
「どこの誰だそんな事言うやつ」
 ルークの取りつく島もない態度に、アニスは「ぶ〜!」と不満をぶつける。
「でもルーク、ベルケンドへは一度寄った方がいいと思うわ」
 アニスの肩を持つような発言をしたのはティアだ。ルークは恨みがましく、アニスは期待に満ちた眼差しをティアに向ける。
「そうだな。直してもらいたいものもあることだし」
 更にガイの擁護も重なり、優勢になったアニスはふふん、と憎たらしい顔をルークに向ける。
 “直してもらいたいもの”とはディスト作の音素増幅装置だ。ザレッホ火山で起きた雷で、アルビオールの通信機同様故障していたらしい。通信機はガイでも少し弄ったら直せたが、こちらはそうはいかない。またディストが激昂するだろうが、ないと困るのも事実なので正直に言って修理してもらうしかない。
「でもすぐには出発出来ねえぞ。まだダアトでやっておきたいことがある」
 最大の目的だった、意識集合体の話がディケ博士からまだ聞けていない。火山から救助した後、気持ちよさそうに眠りこけ目を覚ます気配がなかったからだ。今頃アンが傍について介抱しているだろう。明日、再び教会に赴き様子を見に行くことになっていた。
「大丈夫だよ、一日二日出発が遅れたって船で行くより早いもん。…………それに、私もやらなきゃいけないことがあるし」
 アニスが突然トーンダウンして、虚ろな目で床を見つめる。ティアがその肩に手を置くと、互いに目を見合わせてはぁ、とため息をついた。
「???」
 二人がそんなふうに気落ちする理由が思い当たらないルークは首を傾げるばかりだ。それを知ってか知らずか、アニスはうっ、と濡れてもいない目元を拭う振りをして顔をあげる。
「でもでも! 明日の夜には終わらせるし! だからルーク様、約束のアレ……忘れないでくださいね!」
 悲劇のヒロインばりの大袈裟な動作で身を返し、廊下に繋がる扉に向かって走る。
「あっ、おい!」
 ルークの呼び止めには応じず、アニスは勢いそのまま扉を開き廊下に出て、扉を閉める直前に顔だけ覗かせ
「絶対だからねっ!」
 と念を押して出ていった。パタパタパタ……と足音が遠のいていくのを聞いて、ガイが肩を竦め笑う。
「嵐のようだったな」
「……いつもの事だけどな」
 それより問題はアニスの言う「約束」だ。例の高そうなレストランのディナーフルコースになんとやら、というやつの事だろう。このままでは明日の夜本当に奢らされそうだ。
 元々強(したた)かだったアニスはもうすぐ18歳を迎える頃になり、処世術も磨きがかかったようだ。まだあどけなさは残るものの、それすらわざとなのかもしれないと思える。
 こんな風にアニスに振り回されるのもルークにとっては久しぶりだ。顔には出さないが、懐かしさと合わせて少し嬉しさも感じていた。
 とはいえ、奢る奢らないとなると話は別だ。とりわけ懐に余裕がないというわけではない。むしろバチカルを出てくる折、潤沢に軍資金を持たされたので余裕はありすぎるほどにある。
「協力してもらったのは本当だしな。一食奢るくらいしてやっても良いんじゃないか?」
「あー……うん」
 歯切れの悪いルークに、やけに渋るな、とガイは首を捻る。考えを口にするか一瞬迷ったが、ルークはぽつりと呟く。
「……今持ってるのは俺の金じゃねえんだよな」
 それが聞こえたティアとガイは目を丸くした。ルークは首元を左手で掻きながら続ける。
「伯父上から預かった金って、つまり税金だろ。それで俺が偉そうに奢るのってなんか違えなって」
「…………!」
 ガイがまるで我が子が初めて立ったのを目撃したような顔をしてルークの頭を撫で回す。
「……!…………!!」
「……お前さぁ……」
 何かを堪えるようなガイの表情から、言葉にならない、というガイの気持ちは伝わってくる。わしゃわしゃ撫で回される頭をそのままにルークは足元を睥睨する。自分の成長をこんなにも喜んでくれること自体は嬉しいが、その表現方法が完全に犬か子供に対するそれなのがどうにも受け入れ難い。乱れた前髪の隙間からちらり、とティアの方を盗み見るとフッ、と小さく笑ったのが見えた。
「確かに──────」
 静かに語りだしたティアの声に、ルークは耳を向ける。
「……それはまだ民衆の血税かもしれないけれど。これからの貴方の活躍に対する前払いだと思って受け取っていいんじゃないかしら」
 いつもの落ち着いた語り口。その言葉はルークの耳になんの引っ掛かりもなく滑り込んできた。隣のガイも頷き、ひとつルークの背中を叩いた。
「受け取った期待の分働けばいいさ。今は有難く頂戴しとけ」
 そういうもんかとルークは頬を掻く。ふと頭に故郷バチカルの光景が過ぎった。そして、
(早くナタリアとアッシュの手掛かり、探さねえとな)
 バチカルに置いてきた婚約者と、行方知れずのままの半身のことを思った。