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テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌2

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3 気高き星の意志


 翌朝。
「赤毛の剣士殿はここかな!!」
 けたたましく開いた扉の音と共に飛び込んだその声で優雅な朝食の時間は途端に崩れ去った。
 宿のラウンジに併設されたレストランでのんびりコーヒーを啜っていたルーク達は怪訝な表情で宿のエントランスをのぞき込む。声の発生源は探すまでもなく、すぐに解った。
 盗賊の押し入りにあったような顔をしているオーナーの目の前、やたら図体のでかい男が腰に両手を当て、爛々と瞳を輝かせて周囲を見回している。筋肉質な腕が印象的で、見るからに硬そうな茶味がかったえんじ色の頭髪は熊、あるいは獅子のたてがみを彷彿とさせる。
「やめてくださいパパ! 恥ずかしいです! ご近所迷惑です!」
 遅れてやってきて大男の足に飛びついたのは小柄な少女。あれはアンだ。
「オーナー! ひとつお尋ねよろしいかな!」
「へ、へいっ!?」
 足に引っ付くアンのことはものともせず、ズカズカとカウンターに近付く男に対しオーナーは完全に縮み上がっている。大男の声は見た目通り大きく、そこそこ距離があるルーク達の位置まで一言一句はっきり届いた。食事をしていた他の宿泊客たちまでざわつき出している。その中でルークが席を立った。
「ルーク」
「ちょっと待ってろ」
 自分も行こうか、と見上げるティアを手で制す。彼の尋ね物が自分であることは疑いようも無い中、事を静観しているわけにはいかなかった。レストランを出てロビーのカウンターに向かって歩くと、大男がルークに気付き「おお!」と声を上げた。
「剣士殿!」
 男がカウンターから離れルークの方へずんずん歩いてくる。その後ろでオーナーがあからさまに胸を撫でおろしたのが見えた。
「いやいや! お会いできてよかった!」
 満面の笑みを浮かべルークの目の前までやってきた男は両手を広げ歓待の意を全身で示す。背丈で言えばジェイドよりも低いが、こうして対峙すると男の恰幅の良さは威圧感すらある。
「どーも」
「いち早くお礼を申し上げたく無礼を承知でお訪ねした次第です! なんでも行方不明になっていた私をわざわざ探しに火山まで来てくださったんだとか!! 何故かその辺りの記憶は全くないんですがね!」
 がっはっはっ! と男は豪快に笑う。声のボリュームに気圧されて軽く仰け反るルーク。その時、困り顔のアンと目が合った。
「パ……博士! お礼もですけど、まずはきちんと自己紹介するです!」
「おお、そうだったそうだった!」
 アンに促され男はひとつ頭を下げて名乗った。
「不肖ながら考古学者を名乗らせていただいております、ディケ・ウェストンと申します。此度は小生の為にご尽力頂き、感謝申し上げます」
 ディケの謝辞に合わせてアンもぺこりと頭を下げる。次にぱっと上がった顔は少女らしく可愛い笑顔だった。それを見たルークも自然とはにかんだ。
「もう体の方は平気なんですか?」
「ええ、すっかり! 今朝方も同室の殿方と世間話をしていましたら『そんなに元気ならもう大丈夫ですね』と看護師先生に言われ出てきたところです!!」
「あんまりうるさいから体(てい)よく追い出されただけです」
 アンの嫌味も気に留めずディケは笑っている。立ち話ではなんだからとルークは自分達が使っているレストランのテーブルに二人を案内した。改めて自己紹介している間にホールスタッフが気を回して座席を増やしてくれたが、ディケの大きな体を収めると四人がけのテーブルは少々窮屈だった。ティアの膝に乗るミュウもディケの巨体を不思議そうに見上げていた。
「して、皆さんは意識集合体についてお調べだとか」
 注文したブラックコーヒーが届くのも待たず、ディケは本題を切り出してきた。
「そうなんです。実は──────」
「どこからお話ししましょうか! いえ、まず彼らについてはどこまでご存知ですか? 隣言解読本、旧星遊記、ユリア・ジュエの弟子達の手記……もしやダザンの書も既にご覧でしょうか!」
 ディケが喋りだして即座に「しまった」とルークは思った。
「どの書籍も巷に出回らない物なので実際目にするのは苦労したんですよ! 私が持っていたのは写本なんですが、隣言解読本は原本を読んだら解釈が数箇所違ってきまして。その上で最近気付いたのですが、特に旧星遊記の三章八節に記されている彼らの発現条件というのが大変興味深い内容で───────」
 ディケは聴く側の反応などお構い無しにフルスロットルで弁論を始めてしまった。彼の口から飛び出す台詞は八割方ルークの頭を素通りする。止める術を求めるように向かいのティアを盗み見ると彼女もルークと同じように困り顔でこちらを見ていた。その隣ではアンがテーブルに届いたオレンジジュースを実に美味しそうに飲んでいる。
「───────それより気になるのは今世間一般的に周知されている意識集合体という名称で、彼らにそう名付けたのは創世暦前三百年頃に生きていた────────」
 そうこうしている間もディケの口は止まらない。なれば、と自らの横を向くとそこに座っていたはずのガイの姿がなかった。
(……は!?)
 なんということだろう。まさか一人だけ逃げるとは。
 してやられたとルークが狼狽しているとレストラン入り口から店内に入ってくるガイを見つけた。逃げたのであれば逆に出ていく背中を見ることになるはずだが、そうでないことにまたルークは混乱した。
 颯爽と店内のテーブルの間を縫って歩き、こちらち戻ってくるガイを目で追っていると、それに気付いたガイがルークに対して、右手に持った紙片を掲げ見せてきた。なんだ? と目を凝らすとガイは得意げに笑ってみせた。
「ディケ博士」
「ん?」
 盛り上がっているところすみません、とガイがディケの胸元にその紙片を差し出した。反射的に受け取ったディケは折りたたまれた紙をペラリと開く。
「…………これは!」
「オルフェ博士からの言伝です」
「そういやそんなもんあったな」
 ルークは今の今まで存在を忘れていたが、ガイはこれを取りに部屋に帰っていたのだ。
 ベルケンドでディケのことを教えてくれたのがオルフェという女性だった。紹介状だ、と言って渡してくれたのがあのメモ書きだが、あの非常に簡素な内容の紙切れが彼の暴走を止める程の効果を持つのかは疑わしい──────
「間違いなく我が女神の筆跡!! なんと、皆さんは彼女とお知り合いでしたか!!」
 ──────などという心配は必要なかったらしい。効果は絶大、ディケはしばらくメモの残り香を堪能した後、オルフェの「素人さんなのでやりすぎないように」という言葉を忠実に守って話してくれるようになった。