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テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌2

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「アスカについてお知りになりたいということでしたな」
「陽光のアスカですね! アンも、アスカとルナのお話は大好きです!」
 目の前のオレンジジュースを大事そうに抱え、床に届かない足をぷらぷらさせながらアンが声を弾ませる。こんな子供も知っている名前なのか、とルークは自分の無学を恥じた。
「アスカの名は今や暦にも残っておりませんから、ご存知ない方も多いですね。彼はレムに連なる、第六音素の意識集合体とされています」
「え……意識集合体って、ひとつの音素にいくつも居るんですか?」
「これも学者によって見解の異なる部分なんですがね」
 ルークの質問に対し、ディケはニコニコと笑って受け答える。テーブルに備え付けられた紙ナプキンを一枚取り、そこに自前のペンで何か書き始めた。
「第一から第七まで、それぞれを司る意識集合体がいます」
 上から、シャドウ、ノーム、シルフ、ウンディーネ、イフリート、レム、ローレライと順に名前が並んだ。ルークも耳馴染みのある名前達だ。
「そして、この他に存在している意識集合体が何体か。彼らは複数の音素を操ることで主たる意識集合体の補佐的役割を果たしていると考えています」
 イフリートとレムの間、右列にアスカの名が書かれた。
「アスカは第六音素と合わせ、第五音素も扱う意識集合体です」
 へえ、とルークが零すとディケはまた満足気に頷いた。
「その見た目は大きな鳥の姿をしていて、翼は虹色に輝き体は眩い黄金の羽毛に覆われていると言われています」
 やはりあの時見たままだ、とルークは思う。
「そしてよく対で語られるのがルナです。どちらも第六音素の意識集合体ですが、ルナは月、アスカは太陽の性質を持つ為、誰よりも近しいのに相反する……そんな二律背反が人々の創作意欲を駆り立てるようで様々な戯曲や小説に登場しますね」
 ルナの名前はアスカの下段、レムとローレライの間に書き足された。
「ルナは第六音素と第一音素を扱う意識集合体。……ああ、ローレライは第七音素の成り立ちが少し特殊なので、完全に独立した存在ですね」
 ローレライの名前はぐるぐると丸く囲まれ、ルナとシャドウの名前が線で繋がれた。
「ルナの存在で、音素は第一から第六まで循環していることが解りまして……いや、この話は少し脱線しますな。失礼失礼」
 ディケが一度ペンを置き、テーブルの上で手を組む。
「あとアスカについて、と言いますと……ああそうです。彼ら精霊は、」
 そう言っておっと、とディケは言葉を切った。
「すみません、つい癖で」
「クセ?」
 何のことか気付かなかったルークが聞き返すとルークの正面に座るアンがディケに代わって答えた。
「博士は意識集合体のことを愛と敬意を込めて“精霊”と呼んでいるです」
 ふふん、と何故か自慢げに胸を張るアン。対するディケは「こらこら」とアンに言うと、バツが悪そうに頭をかいた。
「他の学者連中にはガキっぽいと馬鹿にされるので、外ではあまり使わないようにしておるんですが……」
「きっと皆さんは気にしないです」
 ね? とアンがルークに満面の笑みを向ける。素人のルークとしてはどちらでもよいのだが、専門の研究者にしてみれば呼称ひとつでも大きな争点になるのだろう。
「いいですよ、精霊で」
 そっちのほうが意識集合体より言いやすい。何よりアンの期待に満ちた無邪気な笑顔が首を横に振らせなかった。ディケは恐縮です、とひとつ頭を下げた。
「では改めて。彼ら精霊は世界各地にあるセフィロトにそれぞれ縁があるんですが……あ、セフィロトについては大丈夫ですか?」
「はい、一応。惑星の音素が集中して、記憶粒子(セルパーティクル)が吹き上げている場所……ですよね」
「そうです。セフィロトは全部で10箇所。そのそれぞれを精霊が守護していると考えています」
「守護?」
 一息つくように腕を組み、これもまた意見の分かれる部分なんですが……と前置きしてディケは続ける。
「セフィロトは精霊の住処、精霊が生まれた場所がセフィロトになった、そもそもセフィロト自体が精霊なんだ……なんて様々意見があるわけですが。私はセフィロトを通じて音素の循環量を調節するのが精霊の役割だと考えているんです」
「なるほど……ローレライが地殻で第七音素を作り出していたのと同様に、ですね」
「そう。その事実が明るみに出たことで、この説はかなり有力視されています」
 ローレライの名前が出た時、ディケの表情が一瞬陰った。しかし、瞬きすると同時に元の陽気の塊のような笑顔に戻ってしまったので誰も言及しなかった。
「まま、こんな感じでまとまりのない研究状況なのですが、そんな中でも共通認識として確立しているのがセフィロトと精霊の組み合わせです」
 はた、と何か思いついたような顔をしてディケは隣のアンに目配せする。
「じゃあアン。アスカが護るセフィロトといえば?」
「元ホド大陸、第八セフィロトです!」
 挙手と共に間髪入れず答えたアン。正解! とディケが指を鳴らす。
「ホド大陸……」
 小さく呟いたのはガイだ。それを知ってか知らずか、ティアが訊ねた。
「大陸は崩落しても、セフィロトは変わらず残っている。アスカは今でもそのセフィロトを守護しているのでしょうか」
「私はそう考えています。大陸の崩落で精霊も共に消滅するとは考え難いので。……とはいえ、それを確認する術も持たぬ身ゆえ、断言は出来ないんですが」
 はあ、とディケはため息をつく。
「彼らの存在を示唆する文献はいくらでも見つかるのに、その存在を実証するものが一切無い。我々の研究の苦しい所なんですよ」
 ちら、とティアとガイの視線がルークに向けられる。若干の気まずさを感じながら、ルークは極力平静を保ち口を開いた。
「やっぱり、その……精霊を見たって人はいないんですか」
「ええ。少なくとも、新創世暦に入ってからは記録がありません」
「……」
「それでもやはり諦めきれず、セフィロトを巡って先日も…………はっ」
 キッ、とティアの眼差しがきつくなったのを感じとってディケは声を詰まらせた。
「精霊を見たいがためにザレッホ火山に」
「い、いえ……いや、はい、すみません……軽率でした…………」
「今、一般人のセフィロトへの接近は禁じられています。もどかしいでしょうが、ご理解ください」
 二回りは歳下のティアに対し、大きな背中を丸めてハイ、とか細い返事をするディケの姿からは世間の厳しさが伝わるようだった。