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テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌2

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「グランツ謡長!」
 その一声を聞いてルークはまた来た、と思った。声の出処を向くと一人の若い男が手を挙げて駆け寄ってくるのが見えた。服装から神託の盾騎士団員と分かる男はティアしか目に入らないらしく、ものすごくいい笑顔でルークとガイの間を通り抜けティアの前に立ち止まった。形式に則った敬礼を交わすが、ティアの鉄面皮と男の笑顔の落差が場を冗談のように見せていた。
「ご帰還されたと聞きまして探しておりました!」
「ご用件は」
「今夜こそお食事をご一緒させていただきたく!」
「お断りします」
 では、とティアが挨拶もそこそこに踵を返す。慌てて彼女を追って歩き出すルーク達。取り付く島もなく一刀両断された男は「残念だなぁ」と言いながらだらしなく笑っていた。これっぽっちも堪えていないのがわかる。
 今のような光景を見るのは教会に着いてからこれで五度目だ。初めて目の当たりにした時はルークも驚いたがこう度重なると嫌でも慣れる。男が誘い、ティアが断る。男側は年齢層も幅広く、身分も騎士団員、士官候補生、司祭など様々だったがいずれの会話も十秒もてばいい方という短さだった。ティアの男達のあしらい方から、日常的に繰り返されてきたのだとわかる。男側も断られる前提で声をかけて来ている節すらあった。
 こういうやり取りを楽しむ女性も存在するのだろうが、ティアがそういうタイプでないことは知っている。その証拠に、ただでさえ早かったティアの足取りはもう一段ギアが入ったように速度を上げていた。
 いよいよ周りが見えなくなっている。どうしたものかと思っているとガイがルークの肩を掴んで立ち止まらせた。そしてティアとの距離が少し開き始めると、大きめな声で呼びかけた。
「ティアー、護衛対象を置いてけぼりにするのはさすがにまずいと思うぞー」
 はっとティアが振り返って歩みを止めた。開いていた距離の分ティアが駆け足で戻ってくる。
「ご、ごめんなさい」
「とのことですよ、主」
「は? いや……別に俺は」
 あえて茶化して場の空気を変えようというガイの気遣いに咄嗟に対応できないルーク。ティアは恥ずかしそうに目を伏して顎近くの毛先を指でいじっていた。髪が長かった頃は見せなかった仕草に、なんとも言えない不思議な心地がする。ルークがじっとティアの手元を見ているとまたガイが口を開いた。
「にしてもモテモテだな。いつもああなのか?」
「そんなんじゃ……みんな面白がってるだけよ」
「そうか?ティアは美人だからな。わからないぞ」
 またそういうことを……とティアはガイから顔を背ける。その頬がほんのり赤くなっていたような気がした。ガイの方は何も無かったような顔をして笑っている。
(天然ジゴロ……)
 内外問わず女を誑し込むガイの言動は健在か。それなりに慣れているはずのティアでさえこうなのだから凄いものだ。それで困るのは他でもないガイ本人なのだが。
「……懲りない奴だな」
「? 何がだ?」
 これが無意識なのだからまたタチが悪い。彼が患う奇妙な病のせいでそういった場面にまだ立ち会ったことはないが、ガイが本気を出して落とせない女は果たして存在するのだろうか。
「それで。あと何ヶ所回るんだよ」
 話を変えようとルークが言うと一瞬ティアがムッとした気がした。
「次で最後よ」
 冷たく言い返されたように感じたが、そうされる理由が解らないルークは特に気に留めなかった。
「そうしたらアニスのことを探しましょう。付き合わせて悪かったわ」
「いや……」
 ルークが返事をする前にティアは歩き出してしまう。逆戻りまではしていないが、また少し怒っている。しかし何がティアの機嫌を損ねたのか全くわからない。ほうけているルークにガイが小声で話しかけた。
「バカだなお前も」
「何がだよ」
「ああいう時は多少、やきもちを焼いてみせるべきなんだ」
「は?」
 どんどん小さくなるティアの姿を見やってから、ガイに向き直りルークは少しだけ眉根を寄せて言った。
「あんなのに靡(なび)くようなやつじゃねーってわかってんのに?」
 それでもやきもちを焼く必要があるのかよ? と首を傾げるルークにガイはぽかんと口を開ける。
「ほら、ティアがいっちまう。早く行こうぜ」
 ルークは小走りでティアを追いかける。一方ガイは呆気に取られたまますぐには動けない。
「……恐れ入ったな」
 顎に手を当て嘆息するガイ。ルークがそこまでティアのことを信頼しきっているとは思っていなかった。しかしそれならそれで、きちんとその信頼を言葉にしてやらなければならない事を彼はまだ知らない。
「教えてやれる事はまだまだありそうだな」
 ルークの背中を追いかけながら、先程のきょとんとしたルークの顔を思い出しこっそり笑うガイ。
(てっきり、『なんで俺がティアにやきもち焼くんだよ!』って来ると思ってたんだが)
 そこは否定しなかったな、と少しルークの成長を感じていた。