テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌2
レストランを半ば追い出され、一行はディケ達が寝泊まりする宿の一室へ出向いた。中は所狭しと本が並んでいたが、不思議と荒れているようには見えない。ディケがあれ、それ、と言うとアンが即座に持ち出してくるところを見ると、普段からアンが整理整頓に努めているのだろう。
「しかし……」
そんな部屋の主はベッドの上で胡座をかき、険しい表情をしていた。
「まさか、ヴォルトだけでなくアスカのことも目撃していたとは……」
ルーク達がここに至るまでの大まかな経緯を聞く中、ディケは何度も「信じられない」と口にした。その声からはただの懐疑心だけでなく、歓喜も滲み出ていた。
「アスカの方は見た目鳥だし、ただ珍しい魔物って可能性もあるんですけど……」
「いえ、我が妻がそれを聞いてアスカの話を出したのですから。魔物の線はかなり薄いでしょう」
「妻?」
ずっと床の一点を凝視していたディケが久々に顔をあげた。
「おや? はい、言ってませんでしたか。オルフェは私の妻なんです」
唯一無二の! 我が愛しの麗しき女神! と恍惚とした表情で何やら語り始めたのでルークはそっと視線を逸らした。するとその先で別のベッドに腰掛けるアンと目が合った。アンは顔の前でVサインを作ると、
「そしてアンはその二人の子です!」
「こ……」
「加えて言うと三女ですっ」
「ぅえっ」
ルークが驚き変な声を出すと、アンは満足気にニッと笑った。ベルケンドで会ったオルフェ博士の容貌を思い浮かべ、ディケの顔と比較する。
(美女と野獣……)
(ルーク、失礼よ)
(お前もな)
目と目で会話し、お互い何事もなかったかのように前を向く。ルークの頭の中では、改めてオルフェの年齢についての疑念がぐるぐると巡り出した。
「でもアン、お前ディケさんのこと“博士”って呼んでたじゃねーか」
「そうですよ。昼間はあくまで博士と助手。親子と言えどビジネスに私情は持ち込まない、オトナの関係なのです」
えへん、と胸を張ってきっぱり答えたアン。聞き方によっては全く違った意味にも取れる言葉選びが気になったがそこはあえて触れなかった。
「そういうルークさんこそ何者です? 今まで誰も見たことがない精霊が見えるなんて只者じゃないです! 選ばれし勇者様? 逆に悪~い大魔法使いとか……! あとは、あとは……」
アンの妄想がどんどん広がっていく。精霊の絵本も大切に持ち歩いていたくらいだ、その類の寓話も大好物なのだろう。“悪~い大魔法使い”のところで一人該当人物が思い浮かんだが、口にするとどこからともなく現れそうだったのでやめた。
その後も王子、神様、天使や悪魔、ドラゴンなどなどアンの口から次々飛び出す詩情的な言葉達。その中で、たった一言。
「精霊の生まれ変わりだったり!」
それを聞いてはっとした。先程まで微笑ましげにアンを見守っていたティアとガイも表情を強ばらせている。
そうじゃないか。今まで失念していたが、そうだったのだ。
そしてこれを話すべきかどうか、一瞬の迷いがルークの顔に浮かぶ。その目の前で本気で頭を捻っているディケと、嬉々として語るアンを見て、ルークは覚悟を決めて口を開いた。
「……ディケさん。実は」
ディケの真剣な眼差しがルークに向けられる。見定められるような心地で、自分が「ローレライの子」と呼ばれる、第七音素の意識集合体ローレライの完全同位体であることを打ち明けた。
作品名:テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌2 作家名:古宮知夏