テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌2
「では、また是非どこかで!」
宿屋の前、ルーク達を見送りに降りてきたディケは名残惜しいと言わんばかりにルークの手を握りこんだまま言った。対するルークは苦笑で返した。
「何か連絡がありましたら神託の盾(オラクル)騎士団……キムラスカやマルクトの軍部でも構いませんので、言伝ください」
「? 畏まりましたぞ!」
ティアの制服を見れば神託の盾騎士団にツテがあるのは分かる。しかし両国の軍に言伝が出来るのは何故か。
一瞬そんな顔をしていたが、深くは気に留めなかったようなのでルーク達も敢えて説明せずその場を後にした。実はキムラスカ王国の次期国王です、などと言おうものならまた帰してもらえなくなりそうだった。
最後まで全力で手を振っていたアンに軽く手を挙げて街角を曲がり、こちらの姿が完全に見えなくなったことを確認すると、思わず長めのため息が出た。大変だったな、とガイが小さく笑う。
「で、これからどうするんだ」
「アスカが関与している可能性は高まったけれど、肝心の居場所についてはわからなかったものね」
「適当に回ってりゃいつか出くわす、ってもんでも無さそうだしな」
大通りへ続く道を進みながら二人が話し、ルークに視線を向けて意見を求めた。
「もう一回フェレス島に行ってみるか、第……八だっけ。そのセフィロトに行ってみるかくらいしかないよな」
「フェレス島には何か手がかりが残っているかもしれないものね」
当然軍を挙げて探索し尽くしているが、ルークにしかわからないものもあるかもしれない。ティアはそう言って頷いた。
「第八セフィロトは今は海のど真ん中、隠れる場所も無い。アスカが居たとしたら見つけやすいんじゃないか」
ガイも腕を組みながら頷く。二人の話を聞き、両方まわってみれば良いか、とルークが言おうとした時。
「おっ……と」
ズズ、と低い地鳴りがしたかと思うと周囲の建物がギシギシと軋みだした。地震だ。
「二人とも」
こっちだ、とガイに促され小走りで大通りに出る。ガイは上を見上げ、建物からの落下物が無いか確認しながら二人を大通りの真ん中へ誘導した。ルークはティアの手を取って自らの近くに引き寄せる。
「──また地震────」
「今日のは長いわね──────」
通りにいる人々の会話が耳に入ってくる。互いに安全を確認するのと同時に、不安を和らげる為に敢えて口に出しているのだ。非常時特有のざわめきに耳を傾けているうちに足元の揺れは次第に収まり、建物の軋みも鎮まっていった。周囲の人々もほっと息をつくと、大通りはあっという間にいつもの賑々しさを取り戻した。ルークは引き寄せていたティアの手を離しながら辺りを見渡す。ティアは一歩だけルークから下がった。
「よかったな、大きくならなくて」
煉瓦造りの建造物が多いダアトで地震は油断ならない。多少の揺れでも建物が崩れてくる可能性は高く、巻き込まれれば一大事だ。
「この辺、地震多いのか?」
バチカルで暮らしていた頃にそんな印象は覚えなかったルークがティアに投げかけた。
「そうみたい。火山帯だから元々地震は起こりやすい土地なんだけど、最近は特に頻繁しているんですって」
「なんだよそれ。火山が噴火する前触れじゃねえだろうな」
「平気よ、昨日直接見て確認したでしょう」
「げっ、そうだった」
もし噴火する可能性が高まっているのだとしたら、神託の盾騎士団が調査に出たりはしないだろう。知った上で命じたのだとしたら性が悪すぎる。
「念の為、街の状況を本部で確認してくるわ。二人は……」
どうするのかとティアの視線を受け、ルークとガイは顔を見合わせる。
「あ」
すぐにルークは何か思いつき、
「なんだ?」
「フローリアンの顔見ていこうぜ。せっかくだしさ」
「それもそうだな。フローリアンは確か……」
ガイが言わんとすることを汲み取って、ティアが頷いて返す。
「大詠師トリトハイムに師事しているわ。教会にいるはずだからそこまで一緒に行きましょうか」
ティアが歩きだし、その背を追ってルークも動く。今更ながら、先程握ったティアの手の柔らかさが残っているように感じ、左手がほんのり熱を帯びた。
作品名:テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌2 作家名:古宮知夏