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テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌2

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 立ち竦むルークの意識を引き戻したのは左肩に触れたティアの手だった。
「ご挨拶するでしょう?」
 ルークが尻込みしていたことに気づいたかはわからないが、なんでもないことのように言ったティアに背中を押された気分だった。ルークが頷くとティアは一行をヨハンの元へ先導した。
「ヨハン総長」
 ティアがその背に声をかけると、先程見せた機敏な動きとは打って変わり、緩慢な動作でこちらに顔を向けた。次に身体ごとティアに向けると、ちらりとほんの一瞬だけルークを見やった。
「お疲れ様です」
「ああ」
 互いに敬礼を交わすと、ヨハンは右手をティアに向けて差し伸べた。
「! あ、あの……」
 バツが悪そうな顔をして、目の前の上司から視線を逸らすティア。
「今日中には、必ず……」
「…………そうか」
 目元をすがめ、ただでさえ強面な顔をより渋くしたヨハンは静かに右手を下ろした。
「報告書は手記ではない。誰の目に触れてもおかしくない公的文書であることを念頭に置くように」
「肝に銘じます」
 深く頭を下げたティアを見てルークが呆気に取られていると、
「理由は察して余りあるがな」
 前ぶれなく向けられた鋭い眼差しにルークの背筋が伸びた。
「この度は御成婚おめでとうございます、ルーク殿下」
「! あ、ありがとうございます」
 祝辞には似つかわしくないヨハンの顔は正に鉄面皮。渋い顔からぴくりとも動かないままルークに礼を成した。
「婚儀には直接出向くことが出来ず、申し訳ございませんでした。──────まさかこのような事態になろうとは」
「いや、そんな……気にしないでください。今回に関してはどうしようもなかったですし……」
 ヨハンの雰囲気に飲まれ、緊張でしどろもどろになるルーク。ヨハンはそのルークを何故かじっと見つめている。
(俺、何かしたか……?)
 失礼でもあっただろうか、と相手を直視出来ずにいるとふとヨハンから吐息が聞こえた。
「失礼。先ず名乗るべきでした」
 スッ、とヨハンから衣擦れが聞こえてルークも慌てて顔を上げる。そこには右手を胸に当て、ルークを真っ直ぐ見据えるヨハンの姿があった。
「お初にお目にかかります、殿下。神託の盾騎士団主席総長を務めます、ヨハン・リゾルートです」
「─────キムラスカ王国公爵家嫡男、ルーク・フォン・ファブレです」
 ただの自己紹介であるにも関わらず、ルークは一瞬言葉を詰まらせた。言ってしまってから、ついつい口慣れた身分を名乗ってしまったことに気づき、
(ここはキムラスカ王太子だったか……そもそも子爵だったろ俺)
 何テンパってんだ、と自分でつっこんでいると、
「先程はお見苦しいものを。彼奴は我が責において厳罰に処しますので、早々にご放念ください」
「へ?」
 ヨハンが言っているのは地下牢へ連れていかれたタヌキ男の事だと解るまで少し時間を要した。
「ああ、いや、それは全然心配してませんでしたけど……」
 あの一連の流れを見ておいて、奴が厳刑されないことを懸念する人間がいるだろうか。むしろどんな酷い目に合わされるのか想像すると同情してしまうくらいだ。
「ザレッホ火山の探索にも殿下手ずからご協力頂いたとか。その辣腕、いつか近くで拝見したいものです」
「え!? そ、そんな大したもんじゃ……」
 しどろもどろになりながら返事をすると、ヨハンが右手を差し出した。緊張で手汗をかいているのがバレませんように、とルークはおずおずと握り返す。
「いつか機会に恵まれたらお手合わせ願いたい。アルバート流剣術の使い手で左利きの剣士は珍しいですから」
 その時、ヨハンの鉄面皮が一瞬だけ崩れ、僅かに口元が微笑んだように見えた。
「総長」
「わかった」
 別の騎士に呼ばれ、ヨハンは握手を解きその場を後にする。立ち去り際、
「本日の私の定時は七時だ、グランツ謡長」
「ひ…………は、はっ! 必ず!」
 敬礼と共に返ってきた声にも背を向けたままヨハンは歩き去る。方や、返事も忘れてその場に釘付けになってしまったルークは自分の震える右手を前に少年のように瞳を輝かせていた。
「おいルーク……」
「うわっ!? な、なんだよ! 急に話しかけんなよ!!」
「今のでダメならどうやったってダメだろ!?」
 声をかけたら飛び上がるほど驚いたルークをガイは笑う。しかし、ずっと後ろから様子を伺っていたガイはさもありなんと頷く。
「緊張しすぎだろ、ルーク。声震えてたぞ」
「……………バレてたかな」
「さあな。だとしても気にしてないと思うぞ、あの様子だと」
 そうだよな、とルークも頷く。いまだ高揚感の抜けきらない頭を軽く振って自らを落ち着かせるように髪を掻き上げる。
「なんかわかんねえけど、多分すげえ人なんだなって思った」
「だな。──────あと、少しヴァンに似てた」
「……ああ」
 見た目の話しではない。所作や物腰から漂う、纏う雰囲気の様なものだ。ヴァンに比べると言動からは冷たい厳しさが目につくが、不思議と人を惹きつける空気があった。あれがカリスマ性というやつだろうか。しかし……
「……怒らせたら絶対怖えよな、あの人」
「俺たちにそんな日は来ないことを願おう」
 二人が語る中、絶対に間に合わない……というティアの口から零れた嘆きをフローリアンだけが聞いていた。