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テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌2

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「あ〜。それは今頃必死に報告書の直しやってるよぉ」
 テーブルに用意されたオードブルを頬張り、幸せをめいっぱい享受した顔でアニスが言った。
「報告書?」
「そうそう。昨日ヨハン総長に言われてたの聞いたもん」
 ヨハンを見送った後すぐにアニスが合流し、約束だったディナーのフルコースを食べに行こうとせがまれたルーク達は例のレストランへ来ていた。
「まあアニスちゃんは速攻終わらせたけどね! えっへへ、有能〜♡」
 などと言いつつ、また料理に手をつける。そんな彼女も、今日丸一日使ってなんとか報告書を書き上げたのだ。
「あ〜ん食事も雰囲気も最高! ここにして良かった〜っ♡」
「本当にいいお店ですね。こんな所をご存知なんて、さすがアニスさんです」
「でしょでしょ! もっと言ってやってよノエル〜」
 聞いていたガイが苦笑いしながら飲み干したグラスをテーブルに戻すと、どこからともなくウェイターが近寄ってきて再びグラスを満たしていった。彼の去り際、アニスが嬉々としてドリンクの追加を頼むのをルークは見逃さなかった。
「ごめんねルーク、僕までご馳走になっちゃって」
「気にすんなよフローリアン。アニスに取られないようにしっかり食っとけ」
「何それ、こっそり失礼なんですけどー?」
 その場に居合わせていたフローリアンとアルビオールの整備をしていたノエルも誘い同行させたのだが、ティアだけはここにいなかった。
『私はいいから、みんなで行って。街の被害も把握しておきたいし……まだ他にやることが残ってるから』
 そう言って、彼女は足早に立ち去ってしまったのだ。その時にレストランには入れないだろうとミュウも抱えていった。
「あいつ、報告書なんか残ってたのか」
「そうならそうと言ってくれれば良かったのにな」
 ガイがドリンクの入ったグラスを傾けながら言った。
「それがなければティアも一緒に食べれたのにね。もったいな〜い」
「彼女も本当は昼の間にやるつもりだったんだろう」
「俺たちがディケ博士に捕まっちまったからな……」
 ディケ博士? とアニスとフローリアンが揃って首を傾げた為、まずはそこから、とルークは今日あったことを話し始めた。
 ザレッホ火山で救出した人物が意識集合体の学者だったこと、彼から意識集合体について様々な話を聞いたこと、ナタリアの誘拐と昏睡にアスカやルナが関わっている可能性があること。
 話している間に前菜の皿は平らげられ、テーブルにはメインディッシュが用意された。
「じゃあこれからは意識集合体を探していくってこと?」
「精霊探しなんてすごいね! 小説みたい」
「ほんとにな……」
 この事態の中心にいるのはルークだが、ルーク自身今の状況が物語じみていると感じていた。精霊を探して旅をするなど、伝説となったユリア・ジュエの逸話にも出てこない。
「フローリアンは、あれ以降それらしいやつを見たりしてないのか?」
「うん……僕もたまに空を見上げてみたりするんだけど、全然」
 一度残念そうに首を振ったフローリアンだが、次には明るい笑顔でルークに向いた。
「でもまた見れるかもしれないんだね」
 いいなぁと呟いたフローリアンは本心から言っているようだった。
「フローリアンも行くか?」
 冗談交じりに訊ねると、フローリアンは迷うような素振りを見せ、また首を横に振った。
「ううん、僕はいい。もうすぐ試験があるし」
 フローリアンから試験という言葉が出た時、一番渋い顔をしたのがアニスだった。誰より上機嫌だったところからの落差はあまりに大きく、嫌でも目を引いた。
「試験ってなんの?」
「士官学校の。これが終わったら正式に騎士団の官位がもらえるはずなんだ」
 ね、とフローリアンがアニスに同意を求めるが、アニスの方はぷいっと顔を背けてしまった。フローリアンは笑顔は崩さず、眉尻だけ八の字に下げた。その表情は、かつて共に旅をした導師の少年を思い起こさせるようだった。
「そんなの受けなくていいって言ってるのに」
 不満顔で頬杖をつくアニスを見て、そういうことかと合点がいった。
「ははーん……」
 面白いものを見つけたと言わんばかりにニヤニヤしだすルーク。
「アニス。フローリアンが独り立ちしていくのが寂しいんだろ」
 ルークが言った瞬間、アニスがキッと強い眼差しで睨み返した。
「そんなんじゃないし! 軍人なんて危ないから辞めておけって言ってるんですー!」
「アニスだってその軍人だろ」
 つい言ってしまったガイに向かってアニスのガンが飛ばされる。怖い怖い、と茶化してガイはグラスをあおった。
 ルークの目の前にはふくれっ面のアニスと、困り顔のフローリアン。嘗てはフローリアンの方がアニスを姉、はたまた母親のように慕い、後をついて回っていたものだが今ではまるで逆転しているようだ。
「フローリアン、神託の盾騎士団に入るんだな」
「うん」
 ルークに対して大きく頷くフローリアン。
「そしたら、僕もみんなのお手伝いができるかなって」
 彼が言う“みんな”は、半分以上がアニスであると容易に想像がつく。
 とはいえ、試験に通ったところでフローリアンは正規の騎士団員とは違う。トリトハイム直属の部隊配属になることがほぼ決定しており、それも言わば表向きで、立場としては今とそう変わらないらしい。それでも彼が官位にこだわるのは権力のためというより、今より広く学びの場を得るためだろう。
 彼もこの二年で成長し、自分の意思で進む道を探り始めたということだ。気付いているのか、それとも無意識かは解らないが、アニスはその成長から目を逸らしているようだった。
 ふっ、とルークの口から息が零れた。するとふくれっ面のままのアニスが目を眇め、
「なに人の顔見て笑ってんの」
 不愉快であることを全面に押し出した声音が届いた。
「いや悪い、つい」
「つぅ〜〜いぃ〜〜?」
 アニスちゃんがついつい笑っちゃうような顔だってこと!? と憤慨するアニスをまあまあ、とノエルが宥める。
 もちろんルークが笑った理由はそんなことではない。年少の彼らの変化を目の当たりにして、なんだか微笑ましかったのだ。
 そうか、人の成長を傍から見るとはこういう感じなのか。
 いまだ興奮冷めやらず文句を並べ立てるアニスとそれを静観するフローリアンを見比べて、ルークはまた笑った。
 ルークはこれまで自身が周りに追いつくので精一杯で、他人の変化に気づくような余裕はなかった。自分のことでもないのに、くすぐったい様な、嬉しいような初めての感覚だ。これまで度々、ガイが自分を見てニヤニヤと笑っていた理由が、今になってわかった気がした。