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テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌2

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「それでみすみす手ぶらで帰ってきた、と」
 ルークの顔が渋くなる。彼の目の前には椅子の上でふんぞり返りながら資料に目を落とし、片手間に菓子をつまむレヴィン。その横では上司の態度に狼狽えた助手のマークが、あわあわとルークとレヴィンの顔を交互に見やっていた。
「たとえ喋らないにしても、遺体は立派な研究資材だ。是非とも持って帰ってきて欲しかったね」
 ここは音機関都市ベルケンド。レヴィンのような陰険な学者が集う街。ルーク達はダアトを発ち、この、居るだけで心をへし折られる精神衛生に非常に良くない街へ帰ってきてしまった。
「……あんたはその場に居なかったからわかんねえんだよ。あの雰囲気の中でんなこと言い出せねえっつーの」
 研究に使えるので、その遺体ください。なんて。
 棺の横で立ち尽くす少年の目を思い出し、ルークの瞳が迷いに揺れる。
「まあまあレヴィン。そのくらいに」
 不貞腐れるルークの肩にぽん、と手を置いて庇いたてたのはジェイドだ。
「我々が同行していれば心を鬼にして回収することも出来たでしょうが。王子様にそこまで求めるのはあまりに酷というものでしょう」
 王子様は育ちが良くていらっしゃるので、と言うジェイドは笑顔だ。しかしいつもの事だが目が笑っていない。
 ジェイドが自分を庇うなんて珍しいと思ったが、どうやらこれは庇うフリをして実質貶されているようだ。ルークは期待して見上げた顔をさらに苦渋に歪め、ジェイドに恨みがましい視線をぶつける。後ろでアニスがくつくつと笑いを堪えているのが視界の端で見えた。
 ここは音素医療研究施設。瘴気の研究者であるレヴィンが所属するのがこの施設であるが、今は彼をジェイドが手伝っているため、ベルケンドでも特に陰険・陰湿な学者が集う危険施設になってしまっている。
 誰であれ出来れば足を踏み入れたくない空間だが、その陰険・陰湿な学者達への相談はどうあっても避けられず、ルークはここを訪れるしかなかった。
「確かに、その預言士をじん……話を伺うことが出来なかったのは残念ですが」
「尋問って言ったな今」
「ルーク達の話だけでもかなり面白かったですよ。巨大な瘴気集合体(コンタギウム)と、それを消し去った意識集合体……ですか?是非見てみたかったですねぇ」
「……全然信じてねえな」
 そんな事はないですよと笑顔を見せるジェイドに、ルークは白々しいと顔を背ける。
「そして次はエルドラントですか。本当に物好きですね、貴方も」
「いいだろ、今は他に手がかりも無いんだし」
「それは構いませんが。エルドラントの調査となるとローレライ教団だけでなく、マルクト、キムラスカ両国からも許可が必要ですよ」
「知ってるよ。…………ダアトで教えてもらった」
 最初、あたかも元々知っていたかのように言ってみたが、見下ろしてくるジェイドの目が偽りを許さなかったので渋々真実を口にした。
 エルドラントは無主地であるが故に、三勢力の協力によって管理されている。協力と言えば聞こえはいいが、新しく現れた土地に余計な手を加えぬよう、互いに監視し合う意味合いが強い。
 そのためエルドラントへの立ち入りにはどこも過敏で、立ち入るためには三種の許可を得なければならないのだ。例えばキムラスカ王国軍のような公的機関から調査隊を出す場合でも、自国はもちろんローレライ教団とマルクト帝国の許可証を持っていなければ入れない。
「キムラスカには俺から連絡するけどさ。マルクトにはジェイドから口添えしてもらえねえか?」
 ルークからそう言われても、ジェイドはやたらとゆっくり瞬きするだけで口を開きもしない。
「………………してもらえませんか」
「構いませんよ。一先ず書状だけ国に送っておきましょう。ティア、教団からの紹介状はありますか?」
「はい。預かってます」
 くぅ……と唸りルークが歯噛みする。どんな仲でも礼儀ありというのは解るが、今日のジェイドは一際タチが悪い。アニスと並んで後ろで見ていたガイが「どう、どう」とルークの背中を叩いた。
「それでルーク。バチカルとグランコクマ、どっちから行くかは決めたのか?」
 それはアルビオールでの移動中、機内でも何度か出た話題だった。それほど難しくない話なのだが、結局答えを出せずここまで来てしまった。
「……グランコクマにする」
「そなの?」
 意外、と言う顔でアニスが小首を傾げる。
「てっきりバチカルだと思ってた。ここからならバチカルの方が近いから」
 アニスの言う通り、定石に従うならバチカルを選ぶだろう。しかし、ルークにはそうしたくない理由があった。
「威勢よく出てきた手前、まだ帰りづらいんだろ」
 ルークの考えを代弁するようにガイが言う。ずばり言い当てられて、ルークはまた不貞腐れる。
「陛下には報告も兼ねて手紙送っとくよ。そうすりゃグランコクマ行ってる間に許可証も出来上がるだろ」
「なぁに、そこまでして長居したくないの?」
「…………」
 悪かったな、と目付きだけで返すとアニスは悪戯っぽく笑った。
「いいけど、せめてナタリアの顔くらい見てってあげなよ」
「……わかってる」
 解ってはいるが、気持ちは別だ。きっとナタリアの顔を見れば遅々として変わらぬ現状を目の当たりにすることになり、苦しくなる。そしてバチカルの人々は、自分にこの状況を打破することを期待している。全部解っているからこそ、ルークの足は故郷から遠のいてしまう。
「手紙を書くなら、シュザンヌ様にも出さなきゃ駄目よ」
 いつの間にかジェイドとのやり取りを終えて会話に参加してきたのはティアだ。切れ長の瞳が真っ直ぐルークを射抜く。
「……〜〜〜っ、それもわかってるよ!」
 耐えきれずぷいっとそっぽを向くと、はァ、と短いため息の後、
「…………ならいいけど」
 不信感を一切隠そうともしないティアの声が聞こえてきた。