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テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌2

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「はい、四名様ね。二部屋、少し離れてもいいですかい?」
「ええ大丈夫です。そうだ、食事ってつきますか?」
 ダアト市街、街の正門から教会へ続く大通りに面して構えられた大きな宿屋。ルークも何度か宿泊したことがあるここは立地の良さから多くの巡礼者たちが利用する場所だ。
「─────ええそう、いつもの宿屋。鍵はオーナーに預けておくから……」
 ガイが部屋を確保している間、ティアは通信機でアルビオールのノエルに連絡を取っていた。ルークはというと、フロントの様子を眺めながら片手間にミュウの相手をしていた。
「みゅう! みゅ、みゅ! みゅう〜〜!」
 相手とはいえ、ルークがやっているのは左手をあちこちランダムに動かしているだけだ。それをミュウが第三音素の力を使った浮遊術で追いかけ回す。ルークとしては何も面白くないが、ミュウの方はこれが楽しいらしく、一度始めるとなかなか辞めさせてくれない。疲れてきた頃に通信を終えたティアが近寄ってきた。
「はい終わり」
「みゅう〜〜……」
 ティアの足音をちょうど良いきっかけにして終わりのない遊びを無理やり打ち切った。ルークの両手に捕まえられたミュウは心底がっかりしている。あの単純な遊びに何故飽きないのか、ルークは毎回不思議だった。
「もう少し遊んであげてもいいのに」
「十分遊んだっての。ノエルは何だって?」
 ミュウをティアに渡しながらルークが聞く。
「まだやりたい作業があるから、もう少し後で来るって」
 ミュウを胸に抱えてその頭を撫でると、ティアの表情が綻ぶ。こちらもいつもの事だが、抑えきれずに漏れ出てしまう、はにかむような笑顔は何度見ても飽きない。これも不思議だった。
 ティアの手が空いている時はミュウを押しつけがちだが、それはルークが自分でミュウの相手をするのが面倒だからというだけではない。普段はあまり動かないティアの表情を変えてみたい思いから、知らず知らずのうちにミュウを利用するようになっていったのだ。勿論、ルーク本人はそんなことは意識していないのだが。
「先に荷物置いて街に出てみるか」
 ルークはそう言ってフロントの方を振り返る。丁度鍵を受け取るところだったガイの傍に寄ると、オーナーと話しながらもルークたちの話を聞いていたらしく何も言わずに頷いた。こういう所がよく気がつく男の所以なのだろうなとルークは思った。
「ところでオーナー」
「はい?」
「ディケ・ウェストンという学者を探しているんですが、ここをご利用ではないですか?」
「ほお……学者先生ですか」
 宿屋のオーナーはガイの問いかけに思考を巡らせ、数秒唸りながら天井を見つめた後で宿泊台帳を確認した。
「……いや、やはりうちにはお泊まりでないようですね」
「そうですか。ありがとうございます」
 ガイは人好きのする笑顔で礼を述べて、カウンターの上の鍵を手に取って振り返る。
「行こうか」
 聞き込みというにはあまりにあっさりしたやり取りに拍子抜けしながらも、ガイに促されるままルークとティアもその場から動く。客室に続く階段に差し掛かった所で、ルークがガイに疑問をぶつけた。
「あんなんで良かったのか?」
「うん?」
「もう少し聞くことあったんじゃねえのって」
「ああ、学者さんのことか」
 ティアに鍵の片一方を渡しながらガイは答える。
「そもそもダメ元だったしな。研究しながらだと長期滞在になるだろ?それならこういう観光客向けの場所より、立地が悪くてもその分安くなる宿を選ぶだろうと思ってたからさ」
 ガイの説明を聞きながらティアも頷いている。
「でもああして聞いておくと、どこかで耳にした話を回してくれるかもしれないからな」
 宿屋の情報網は侮れないぞ、と語るガイ。元々生活能力の高い男だと思っていたが、そういう次元ではなくなってきている気がする。この謎の知恵はマルクトの皇帝陛下に揉まれているうちに必要に駆られて身についたものであろうと容易に想像がついた。
 一旦ティアと別れて荷物を整理した後、再びフロント前で落ち合って宿屋を出る。
「それじゃ、どこから行くか」
「手掛かりは名前、意識集合体についての伝承の研究者ということと……」
「体がでかくて」
「声もでかい」
「……少なすぎるわ」
 改めて口にして途方に暮れる三人。ここでも最初に口を開いたのはやはりガイだった。
「まず、意識集合体の伝承が調べられそうなところを当たってみるのがいいんじゃないか」
「確かに。研究のために来てるってんなら絶対行くよな」
「……というと、図書館か古書店……教会にも立ち寄っているかもね」
 民間の資料館もあったかも、とティアが街の地図を取り出してその上を指でなぞる。ここ、と指さしたのは計四箇所。今いる場所から一番近く、可能性も高そうな街の図書館から当たることにした。