テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌2
「だから! 一人じゃ行けないから同行してくれと言っているです!」
「そんな不確かな情報では隊を動かすことはできんと言っているだろう」
あれだ、とガイが指し示した先には神託の盾(オラクル)騎士団の団員二名と、それにつっかかっている少女。固く編みこんだ赤毛の三つ編みが印象的な少女の方は騎士たちの腰の辺りまでしかない背丈であるのに、しっかり胸を張っている。大きなリュックを背負いながらもピンと伸びた背筋からは大人の理不尽な圧力には決して負けないという気概が伝わってくるようだ。
「もしも博士になにかあったらどうするのですか!」
「まだ一週間なのだろう? 調査が伸びればその程度籠ることもあるのではないのか」
「そうでなかった時のために探させて欲しいのです!」
「お前のような子供をザレッホ火山へ入れるわけにはいかん」
遠巻きに様子を伺っている野次馬たちの間を縫って前へ出る。ティアはルークとガイに目配せするとひとつ頷き、困り果てている騎士たちに話しかけた。
「何事ですか」
「────グランツ謡長」
明らかに「助かった」という顔をして、騎士たちは少女を差し出すように手を伸ばした。
「この娘が人を探すためにザレッホ火山を探索させろと言っておりまして……」
「火山を?」
ティアを目の前にして、少女は腰に手を当てより一層胸を張った。
「あなた、この分からず屋たちの上司ですか」
ふん、と頬を膨らませティアを睨みつける少女。明確な敵対心をぶつけられて一瞬怯むも、ティアはゆっくりとした動作で膝をつく。少女と視線の高さを合わせると緩く笑って、
「はじめまして。神託の盾騎士団、ティアといいます。あなたのお名前は?」
そう聞くと少女は上がりきっていた肩から少しだけ力を抜き答えた。
「……私の名前はアンです。博士がもう一週間も帰ってきてないです。探すのを手伝って欲しいのです!」
そう訴えるアンの表情は必死だ。年端もいかぬ少女が武装した騎士相手に嘘をつくとも思えない。ティアは頷いてアンの肩に優しく触れた。
「わかったわ、詳しく話を聞かせてくれる?」
「謡長……」
安請け合いは良くないと苦言を呈す騎士をティアは掌で制し、
「どうするかは話を聞いてから判断します。後は私が引き受けますから、あなた達は持ち場へ戻ってください」
それを受けて騎士たちは敬礼した後、階段を登って教会へ入っていった。それに事態が収束に向かっていることを感じ取ったのか、周りを取り囲んでいた群衆もそれぞれ散っていった。
「それで、あなたの探している博士って?」
ルークとガイも話を聞くため、しゃがみ込むティアの脇をかためるように並んで立った。
「博士とは研究のためにひと月ほどこの街に滞在していたです。でも、一週間前になって博士は突然『ザレッホ火山へ調査に行く!』と言い出したです」
博士の台詞であろう部分だけ声音を変えたアンに、ティアは思わずくすりと笑った。しかしすぐさま恥じ入るように一つ咳払いをして、表情を引き締め直す。
「一般人の火山への立ち入りは危険だから禁止されているはずよ」
「博士の研究欲の前には人が決めた規則などなんの抑止力にもなりはしないのです!」
悪びれもせず言い放ったアンを前に、ティアは治安を維持する神託の盾騎士団として眉をひそめ、こめかみを押さえた。
「博士を止めるには進路上にベヒーモスを配置した上に対軍規模譜術を多重展開するくらいしないと無駄なのです」
「それはもう人間じゃねえだろ……」
思わず心の声が洩れてしまったルークをアンが見上げる。普段過ごす環境の影響なのかアンは年のわりに小難しい物言いをするが、こうしているとやはり子供なのだと思う。
「で……その博士の研究ってなんなんだ?」
ルークもティアに習って中腰になりながらアンに訊ねる。アンはルークの方を見ながら、誇らしげに胸を張って答えた。
「惑星オールドラントと誕生を共にし、見護る存在───────気高く優しき星の意志。意識集合体が博士の研究対象です!」
えっへん、と踵を浮かせて体を弾ませるアン。
「となると……その名はずばり、ディケ・ウェストン博士だ?」
ガイが片目を瞑りながら敢えてわざとらしく言うとアンは瞳を輝かせてガイに振り向いた。
「すごいです! 博士をご存知なのですか!」
博士も有名になったものです! と胸の前で腕を組んでうんうんと頷くアン。それを囲む三人は三人ともが「やっぱりか」と、安堵とも憂愁とも取れる息をついた。
作品名:テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌2 作家名:古宮知夏