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BLUE MOMENT10

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 どのくらい経ったのか、いい加減おにぎりを放置するのも気が引けて、ロックを解除し、扉を開けた。誰もいない壁の側に、おにぎりの載った皿が小さなテーブルの上に置かれている。ここにテーブルなんてなかった。しかも、こんなテーブルというより花台みたいな感じのものは……。
「くふ……」
 アーチャーが投影したものだとわかる。飾り気なんかなくて、スチールの、ほんとにその皿を置くためだけのもの。
「いただきます」
 テーブルごと部屋に引き入れて、ありがたくいただくことにする。
 食べ物を見ると、急に腹が鳴りだした。人間の身体って、うまくできている。空腹感を訴えてるってことは、俺の身体は生きる気満々ってことだ。
 六体目が夜ごと分離していた冬木にいる間でさえ、俺は日々、食事を欠かさなかった。この世界に居たくないとか言いながら、俺の身体はこの世界で生きることに貪欲だったんだ。
 改めて気づいてみれば単純だ。
 俺はここで――――アーチャーのいるこの世界で、生きていたい。
 アーチャーの傍で、できる限りをアイツと過ごしたい。
 それがどんな形であっても……、親兄弟や友人、考えたくもないがセックスをするような仲であっても、俺はいいと思える。
(セックスは……、好きじゃないけど……)
 アーチャーが望むんなら、できる。
 アーチャーがどういうわけか、俺を抱きたいって言うんなら、応じられる。
 汚れないって言った。
 セックスをしても、アーチャーを汚すことにはならないって。
(だけど……、あの行為は、生殖以外の目的で行えば、やっぱり相手を汚してしまうし……)
 でも、アーチャーを拒んだりは、したくない。
 こんなにも俺に手をかけてくれるアーチャーには、何がなんでも応えたいと思う。
(なあ、遠坂。これも、俺の歪んだ倫理観なのかな……)
 あの時、遠坂は言った。
『好き合っていれば、……うーんと、それに、合意であれば、いいんじゃない?』
 俺が生殖行為でないセックスは不可だって言い切った時のことだった。
 あの子を助けられなかったことがずっと胸に重く圧し掛かっていて、苦しくてどうしようもなくて……。具体的なことは言わずに、遠坂についこぼしてしまったあの時……。
 セックスなんて、子孫を残す以外の目的でするものじゃないって。
 何かを忘れるために、何かから逃げるために、それから、生きるための糧を得るためにやる行為なんかじゃない。そんなの俺は許せないんだって、遠坂に……。
 自分のことを棚に上げて、俺は何をあんなに意地になっていたんだっけ?
 そんな話題に至った経緯も忘れてしまったけど、その時の遠坂とのやり取りは鮮明に覚えている。
 眉をひそめる俺に、遠坂は少し驚いた顔で、少し悲しそうな顔で、
『衛宮くんは、頑固ね』
 そう言って微笑(わら)った。
『そんな簡単に人は量れないものよ』
 とも言われた。そうして、
『衛宮くんの倫理観は、歪んでいるわ』
 真っ当なようで、融通がきかなさすぎる。
 それは、歪以外のなにものでもない、と。
 だけど、生殖以外のセックスは、相手を汚してしまうからって俺が言い張ると、そうね、と諦めたように嘆息した。俺はといえば、遠坂にわかってもらえないことが残念でならなかった。
 衛宮くんもいつかわかるわよ、と微笑を浮かべた遠坂を昨夜から何度も思い出す。
 俺の何が歪んでいるのか、はっきりとは言ってくれなかった彼女の声だけが、頭にこびりついて剥がれない。
 俺は何をわかっていなかったのか。遠坂は何を言いたかったのか。
「どういうことなんだよ、遠坂……、わかんないだろ……」
 ここで愚痴ったところで、彼女に届くはずもない。俺の居た壊れかけの世界にはもう、戻ることもできそうにない。
「そういえば、どうして俺がカルデアに来たのか、天才に確かめたこと、なかったな……」
 それがわかれば戻ることができるんだろうか?
 身体の火照りがおさまったら、ダ・ヴィンチに訊きに行こう。
 たいてい隣の工房にいるはずだし、いつでもいける。明日にでもさっそく。
 この身体の熱が、おさまれば……。



 何度、寝返っても眠れない。
 ほぼ丸一日を寝て過ごしたからか、全く眠気がささない。火照る身体は熱くなるばかりで、冷たいシャワーを浴びてもおさまらない。
 俺の中では相変わらずヤってるようで、吐く息さえも甘ったるい。
(セックスなんかしやがって……。ああ、もう……、なんか……、すごく、はしたない……)
 自己嫌悪なんてしたところで、どうしようもないんだけど、アーチャーに合わせる顔がない……。
「はぁ……」
 瞼を閉じても眠れなくて、アーチャーだけが思い浮かぶ。
 熱い掌、甘い呼び声、触れられるのが嫌いな耳を掠める吐息、何よりも熱いのは、俺を貫く欲の塊。
(アーチャーにも……性欲って、あったんだ……)
 あんな、その手のことには関わりございません、みたいな聖人面して、案外、俗物だったことに驚きだ。
 いや、まあ、俗物ってことなら、俺も人のことは言えないか。乗っかられるまま放置してたことは咎められてもおかしくはない。
「あつー……」
 どうしようもない熱をもて余す。
 俺に乗っかってきてた女の人たちも、こんな熱を感じていたんだろうか?
 どうしようもない熱を、俺で発散しようとしていたんだろうか?
「ぅ……」
 軽いものだけど、吐き気がしてくる。俺のその手の経験といえば、そんなのばっかりだった。
(アーチャーに触れてほしい……)
 だけど、それは、あの人たちとおんなじだ。生殖行為じゃないセックスで何かを忘れるために腰を振って、堕ちていく……。
「俺も……、おんなじ……」
 アーチャーと意味のないセックスをした。いくら好きだといっても、男女でない限り、セックスの意味なんかない。
「アーチャーが……俺を憎んでいなくても……、好きだと言って、傍にと願ってくれても……、セックスなんて、していいわけがない……」
 なのに、俺はアーチャーを求めてしまう。触れてほしいと、息が止まるくらい抱きしめてほしいと、壊れるくらい抱いてほしいと……。
「ごめん……っ」
 謝罪を口にしたところで、俺がアーチャーを汚してしまうことに変わりはない。アイツは汚れないって言ったけど、アーチャーを確実に汚してしまっている。
 それは、身体に泥を付けたとか、そういうことじゃなくて……、精神汚染というか、中身がというか……。
 俺といることでアーチャーまでが色眼鏡で見られたりとかしてしまうはずだ。
「どうすれ――」
 コンコンと、控えめなノックの音にびっくりする。
「えっ、と……?」
 誰だ、と問おうとすれば、
「士郎」
「っ!」
 ベッドの上に飛び起きて正座した。
「士郎、寝ている、のか? その……、食事は……、」
「ぁ、あ! あ、あの、あ、ありがとな、お、おにぎり、食べた、う、美味かっ……、っていうか、美味いの、当たり前、だな、……えと…………」
 話しづらいけど、それでもアーチャーには礼を言わなきゃならない。おにぎりもうそうだし、六体目の定着に骨を折ってくれたことも、まだ、きちんと面と向かって礼を言っていない。
作品名:BLUE MOMENT10 作家名:さやけ