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誰にも君を渡さない 2

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ブライトがアムロの病室に入ると、寝たきりのアムロの筋肉が凝り固まらないようにとジュドーが手足をマッサージしていた。
「ジュドー、すまないな。ありがとう」
「いえ…」
ブライトはアムロの側まで行き、その顔を見つめる。
アムロは薄っすらと瞳を開けたまま天井を見つめていた。いや、その瞳は天井に向いているだけで何も写してはいない。
「アムロ…」
ブライトはアムロの髪をクシャリと撫で、ベッド脇の椅子に座ると大きな溜め息を吐く。
「どうしたんですか?艦長」
そのブライトの様子に、ジュドーが心配気に尋ねる。
「連邦のお偉方が…馬鹿な事を言ってきた…」
「馬鹿な事って…?」
「ネオ・ジオンが和平条約の交換条件として、アムロの身柄を要求してきたんだ。それを、あの馬鹿ども二つ返事で承諾したらしい」
「なっ!」
連邦の腐った体質はジュドーもよく知っていたが、まさか今回の叛乱で大きな功績を挙げたアムロに対してまでそんな扱いをする事に憤りを覚える。
「はっきりと断ったんだがな、おそらく強行するだろう」
「何考えてんだ!」
「自分たちの保身や連邦の面子の事だけだろ?」
「ふざけんな!」
ジュドーが握り締めた拳を壁に叩きつける。
「とにかく、今は負傷していて動かせないとは言ったが…時間の問題だろうな」
ブライトは溜め息を吐き頭を抱える。
「でも…こんな状態のアムロさんがネオ・ジオンに送られたらどんな扱いを受けるか…」
「ああ…」
二人がそんな会話をしていると、医務室内が少し騒めく。
何事かとブライトが病室のドアを開けると、そこにはメカニックチーフのアストナージが居た。
「アストナージ?」
「あ!艦長!」
ハサンがアムロの病室に入ろうとするアストナージを必死に引き留めていたが、ブライトを見つけ、その制止を振り切って病室に入ってきてしまう。
「おい、待て!アストナージ」
「緊急で報告しなきゃならない事なんですよ!それにアムロ大尉にも確認しないと!」
と、アストナージがベッドのアムロを見た瞬間、その違和感に気付く。
「…アムロ…大尉?」
目を開けているが、何の反応も返さないアムロに、アストナージは恐る恐るもう一度声を掛ける。
「アムロ大尉?」
しかし、やはりアムロは反応を返さず、天井を見上げたままだった。
「大尉!」
「…アストナージ…」
ブライトが、戸惑うアストナージの肩をそっと叩く。
「艦長!まさか…アムロ大尉のこの状態…」
アストナージもまた、過去のカミーユの状態を知っていた。だからこそ、今のアムロの状態に不安を覚える。
ブライトは小さく溜め息を吐くと、アストナージに向かってコクリと頷く。
「ああ…カミーユと…同じだ…」
「そんな!」
アストナージはもう一度アムロに振り返り、その肩を揺さぶって必死に名を呼ぶ。
「アムロ大尉!アムロ大尉!」
「アストナージ…落ち着け…」
「だって艦長!こんな!」
「気持ちは分かる、だがとりあえず落ち着いてくれ」
「…艦長…」
どうにか心を落ち着けたアストナージが、モバイル端末をブライトに差し出す。
「νガンダムの記録データです。あの日の戦闘データと画像、そして…アムロ大尉とシャア・ダイクンとの会話が記録されています…」
「アムロと…シャアの会話?よくあの機体の損傷状態でデータが無事だったな…」
「はい、コックピット内もかなりの損傷でしたが、奇跡的に無傷でした…それで…この内容ですが…艦長に報告すべきかと思いましてお持ちしました」
ブライトはゴクリと息を呑みそれを受取る。
「ブライト艦長、そちらのミーティングルームを使いますか?あそこは防音なので」
ハサンの申し出に、ブライトはコクリと頷き立ち上がる。
「アストナージ、説明してくれないか?」
「はい、分かりました」
「ジュドー、お前も…来てくれ」
「良いんですか?」
「元パイロットとしての…ニュータイプとしての…意見を聞きたい」
「…分かりました」
三人はハサンにアムロを任せ、ミーティングルームへと移動した。


プロジェクターに写し出された戦闘記録と、νガンダムのカメラの映像を三人は見つめる。
洗練された動きで次々と敵を倒し、アクシズへと向かっていくνガンダム。その卓越した戦闘技術に思わずジュドーから感嘆の声が上がる。
「凄いな…」
「まさかこの機体が、まだ搭乗二度目の新型機とは思えないだろう?」
「二度目⁉︎」
アストナージの言葉にジュドーが驚く。
「ああ、本当はまだ完成していなかったんだけど、ネオ・ジオンがラサに5thルナを落とした事で、時間が無いと察したアムロ大尉が直接アナハイムに赴いて強引に受領したんだ」
「そんな、まだまともな慣らしも出来てない状態であの動き⁉︎」
「おまけに初出撃は受領した帰り道だ」
「無茶苦茶だな」
「まぁ、基礎設計からアムロ大尉が携わっていた、完全なるアムロ大尉専用機だからな。とは言え、こんな無茶出来るのは大尉だからこそだ」
「本当に…俺には無理だよ」
ジュドーが「はぁ」っと溜め息を吐きながら椅子の背にどっともたれる。
「こんなんでビビってたら、この後のシャア・ダイクンとの戦闘シーンなんて腰抜かすぞ」
アストナージが少し画像を早送りして、アクシズに到着した辺りから再生を始める。
νガンダムのカメラに映し出される真っ赤な機体。映像からも、その凄まじいオーラと戦意が感じられ、ジュドーはゾクリとする。
「あれが…シャアのモビルスーツ?」
「ああ、サザビーだ」
最高の機体と最高の腕を持つパイロット同士の戦い。まさに息を飲むその戦闘に目が釘付けになる。
どちらも一歩も引かぬ攻防、ファンネルの動きなど目で追い切れない。
その後、機体を降りてアクシズ内に入ってもまた、互いの主張を言い合いながら二人は戦う。
「アムロ大尉…ネオ・ジオンの総帥相手に容赦の無いトラップをガンガン仕掛けてるね…あ、バズーカ砲ぶっ放した」
少し引き気味にジュドーが呟く。
「普段は甘っちょろい癖に、戦闘になると容赦が無いんだ、アムロの奴。まぁ、だからこそ今まで生き残れたんだがな」
アムロのヘルメットに搭載されたカメラの映像の為、アムロ自身は映し出されていないが、アムロの目線を体感するかの様なその映像に、自分がその場にいる錯覚に陥る。
そして、その二人の会話にブライトとアストナージは顔を顰める。
“クワトロ・バジーナ大尉”と共に戦った二人は、シャア・ダイクンという人物を良く知っていた。
だからこそ、シャアの想いは充分に理解できる。
おそらくそれはアムロも同じで、シャアの想いや思想を理解した上で、それでもその強引な方法に共感できず敵対したのだ。
アムロは別にシャアを憎んでいた訳じゃない、止めたかったのだ。
その中で、長きに渡る二人の因縁や対立、そして共感。全てが絡み合ってあの日、二人はそれに決着を着けようとしていたのだろう。

それぞれの機体に戻った二人が再びモビルスーツで戦う。
その激闘の中で、サイコフレームの技術はアムロに自分と同等の機体で戦える様にと、わざとシャアがリークした事を聞き、あの技術がどれほど高度なものかを知るアストナージが驚く。
作品名:誰にも君を渡さない 2 作家名:koyuho