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自分らしく
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彼方から ― 幕間2 ― & 第三部の最初だけ

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「お待ちください、左大公」
 その左大公の肩にそっと手を乗せ、
「あたしが、行きますので」
 エイジュがそう、声を掛けてきた。
 驚き、振り向く左大公に、彼女はにこやかに、けれども冷ややかな笑みを向けてくる。
 肩に乗せられた手から伝わる冷気に、体が条件反射のように一瞬、震える。
「う……うむ、よろしく頼む……」 
 硬い笑みを見やりながら、左大公は『いや、わたしが』という言葉を飲み込んでいた。
 
          ***

「別に無理矢理手伝わせてくれって言っている訳じゃない、なんで大丈夫なのか、その説明をしてくれって言っているだけだろっ!」
 予想外のしつこさに、イザークは苦虫を噛み潰したような表情になってゆく。
 一歩も引く気はない――と、伝えるつもりなのか、バーナダムはイザークから眼を離そうとしない。
「――これ以上、話す必要はない」
 器用に躱すことも、言い包めることも出来ず、イザークはまた、突き放すような冷たい言葉を返すしかなかった。

 見据え合う二人……
 視界の端に映る、近づいてくる人影に気付き、イザークはそちらに眼を向けようとするが、
「逃げるのかよっ!」
「っ!!」
 バーナダムの一言で、それも出来なくなった。

 人影は、二人から一歩離れたところに立ち止まり、小首を傾げた笑みを見せ……

「二人とも……一体、何の話しをしているのかしら?」
 
 と――抑揚のない声音で訊ねてくる。
「エイジュ、悪いけどおれ、引くつもりはないからな!」
 彼女の方を見もせずに、問い掛けに応えようともせずに、バーナダムはイザークを見据えたまま、そう返す。
 どうやら納得いくまで、とことん追求するつもりのようだ。
 彼の言葉に、イザークは更に困ったような、険しい表情を見せた。

「――あら、そうなの……」

 今まで、聴いたこともない低く冷たいエイジュの声音に、イザークはハッとして振り返ろうとした……が――その時はもう、遅かった…… 

「――っ!!」
「いてっ!!」

 振り向く間もなく――二人の耳はエイジュの両の手に、思い切り、摘ままれていた。

「なっ……何するんだよっ、エイジュッ!」
 よほど痛いのか、涙目になりながらバーナダムがエイジュを横目で見上げるようにして訴えている。
「あなた達の耳を摘まんでいるのよ? 分からないのかしら?」
「おれが訊いてるのは、そう言う――ことじゃ……くぅっ」
 更に強く摘ままれ、途中で言葉が止まるバーナダム。
 思わず、耳を両手で抑えている。
 同じように摘ままれているイザークはどうしているのかと、痛みに耐えながら見やると――やはり痛いらしく、俯き、唇を噛み締めている。
 この痛みに、声を上げずに耐えているイザークに、バーナダムはまた、感心してしまっていた。
「どうして、こんなことをしているのか……理由は簡単よ――あなた達が勝手に、ノリコを誰が運ぶのかと言う話しをして、勝手に言い争っているからよ」
 エイジュが挙げた理由に、痛みを忘れ、二人は思わず彼女を見やる。
「お、おれはただ、一人じゃ運び切れるわけないから、手伝うって……それをイザークに拒否されて……」
「……一人で大丈夫だ」
「だから、なんでだよって、言ってるじゃないか」
 耳を摘ままれたまま、またも言い合う二人……
 エイジュは口の端を釣り上げただけの冷たい笑みを見せると、
「論点がずれているわ、二人とも……それを決めるのはあなた達ではなく――あたしよ」
 と、二人を自分の方に引き寄せた。
「ひ――引っ張らないでくれよっ! な、なんでエイジュが決めるんだよ」
 イザークもそこは同意するのか、無言でエイジュを見据えてくる。
 エイジュは態と時間を掛けて二人を見やり、
「今、この場で、『医師』と言えるのは誰かしら?」
 そう、訊ねた。
「う……」
「そ、それは……」
 言われて初めて気づいたのか、ハッとして互いを見やる二人。
「もちろん、『医師』を生業としているわけではないけれど……ノリコを一度でも診た以上、仮だろうと何だろうと、あたしが、この場では『医師』なの……分かるかしら?」
 冷たい声音に二人共、黙って頷く。
「だったら、ノリコを運ぶ方法を決めるのも、それを誰に任せるのかも――当然、決めるのはあたしだと思うのだけれど……二人とも、どう思っているのかしら……」
 そう訊ねながら、エイジュは摘まんでいた二人の耳を離した。
「くぅ―――っ」
 バーナダムは体を折り曲げ小さく呻きながら、痛みに耐えるかのように耳を抑え、瞼をきつく閉じてゆく。
 閉じた瞼に、僅かに、涙が溜まっている。
「――――」
 イザークは無言で、二人から顔を背けて、やはり、痛みに耐えていた。
「……二人とも、返答は――?」
 ビクッとして振り向くバーナダム。
「……分かった。済まなかった……」
 エイジュの問い掛けにそう返したのは、イザークだった。
 イザークの返答に、無言で頷くエイジュ。
 『あなたは?』と問うように、目線をバーナダムに向ける。
「…………」
 暫し、無言で二人を見やるバーナダム。
 自分が手伝いを申し入れた時は、あんなに頑なに拒んでいたくせに、エイジュの言葉にはあっさりと折れてしまったイザークに、拍子抜けすると同時に、少し、反発心も生まれてくる。
「でも……」
 彼女の瞳を見返しながら口を曲げ、そう呟いていた。

 エイジュが言うことは尤もだと分かっている。
 だが、あそこまでイザークに食い下がった手前、そう簡単には引っ込みがつかなくなっている自分がいるのだ。
 変に卑屈になっている自分が、少し、嫌になる。
 二人の視線が突き刺さるような感覚に、バーナダムは少し、俯き始めた。

 ふぅ……

 と、エイジュの溜め息が耳を衝く。
 言葉はなくとも、素直になれない自分を責めているような――そんな気がしてくる。
 溜め息などではなく、きつく、ハッキリと叱ってもらった方が、却って素直になれそうな気がする。

「誰かの役に立ちたい――そういう気持ち、分からなくはないわよ?」
「え……?」

 叱ることも、声を荒げることもなく……優しく、肩に手を置いてくれながら、エイジュがそう、声を掛けてくれる。
 その言葉に、バーナダムは俯き始めた顔を、上へと上げた。
 エイジュはもう、いつもの、小首を傾げた優し気な笑みを浮かべていた。
「この中で今、一番助けを必要としているのはノリコよ。その彼女の助けになりたいという気持ちは分かるけれど、人には適所というものがあるわ」
「適所?」
 耳慣れない言葉に、耳を抑えたまま訊き返すバーナダム。
「正式には適材適所と言ってね、その人の能力、性質に合わせた仕事や任務を与えるという意味よ」
 エイジュは言葉の意味の説明をしながら、不安げにこちらを見やるノリコの方に眼を向け、
「さっき、ノリコはガーヤに食事をさせてもらっていたでしょう?」
 と、二人に問う。
 頷く二人を見て、
「イザークは分かっているでしょうけれど、バーナダム、ノリコは今、自力で体を動かせる状態ではないの」
 と、彼にだけ諭すように話し始める。
「それは、おれも分かる」
 バーナダムもエイジュと眼を合わせ、頷く。