二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
自分らしく
自分らしく
novelistID. 65932
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

彼方から ― 幕間2 ― & 第三部の最初だけ

INDEX|9ページ/14ページ|

次のページ前のページ
 

 想像の産物に過ぎないはずなのに、胸が、酷く痛む。
 また、独りよがりの驕った考えが、頭を擡げてくる……

 彼が……バーナダムが、(恐らく)ただの親切心で、申し出ていることは分かっている。
 『普通』の人間ならば、交代しながらノリコを背負い運ぶ――と言うのは至極自然な考えだ。
 だから、そう言ってきたのだろうが……

「……あんたが?」

 分かっていても返した第一声は、それだった。
 理屈では分かる。
 だが、感情的に受け入れられなかった。
 彼の厚意を無碍にする、独りよがりな考え、感情であったとしても、今は――バーナダムの申し入れを受け入れることは出来なかった。
 
          ***
 
 イザークの瞳が冷たい。
 拒否されているのが分かる。
 だが、普通に考えても、近くの町までたった一人で運び切れるものじゃないだろうと思う。
 たとえ、『能力者』が、普通の人間よりは体力的に優れているとは言っても、限界というものはあるはずだ。
 限界を迎えてから交代するのは、後々のことを考えても間違っていると、そう思う。
「だって、誰かが交代でノリコを背負った方が、負担が軽くなるじゃないか。あんたは確かに能力者で、おれ達よりは体力があるだろうけど、それでも、どこかの町に着くまで、ずっと一人でノリコを運ぶなんて、無理に決まっているだろう?」
 至極当たり前のことしか言っていないつもりだが、何故拒否されなければならないのか……

 ――もしかしたら、イザークも……

 その可能性は高い。
 イザークが拒む理由が、もしも、自分と同じ理由だったら……
 単に、頼りなく思われているだけ――と言う可能性もあるが、どちらの理由だとしても、引き下がる気にはなれない。

 さっき、『何か違う』と思ったのは、自分の『想い』だ。
 『何もできていない』のではなく、『誰か』の役に立ちたいのだ。
 出来れば、ノリコの……
 やましい気持ちがないかと問われると返答に困るが、それでも、『助けになりたい』と言う気持ちは本物だ。
 そう今は、純粋に手助けがしたい、それだけなのだ。
 イザークの冷たい瞳に、そんな純粋な部分まで拒否された気がして、バーナダムは余計に意地になっていた。

          ***
 
「心配ない。おれなら大丈夫だ」
「はぁ?」
 端的にそう返しただけで、ふぃっと、そっぽを向いてしまったイザーク。
 碌な説明も無しに、そんな簡単な言葉で話しを終わらそうとしていることに、バーナダムはイラつきを隠せない。
「な……なにがどう、大丈夫だって言うんだよ!」
 つい、声が大きくなる。
「ノリコ一人ぐらい、ずっと背負って歩いても大丈夫だと、そういう意味だ」
 もう、眼も合わそうとしないイザーク。
 淡々と手を動かし、片づけを進めてゆく。
「な……」
 別に、押し付けようと思って示した厚意ではないが、完全に無碍にされたと思える態度に、どうしても腹が立ってくる。
「なんでだよ! ちゃんと説明しろよ!」
「大丈夫だから、大丈夫だと言っている」
「説明になってないだろっ!」
 思わずイザークの腕を掴み、無理矢理、自分の方に向かせていた。
 眼が合う。
 無理に振り向かせたことを咎めるような、イザークの瞳。
 眉を顰めても尚、端正な顔立ちのイザークに無言で見据えられると、言葉に詰まるほどの迫力がある。
 だがバーナダムも、納得いく説明がない限り、引くつもりはなかった。

「どうしたのだバーナダム、少し、落ち着きなさい」
 イザークと見据え合っているバーナダムの肩に手を置き、左大公が穏やかにそう言ってくる。
「左大公……」
 威厳のある、落ち着いた声音を聴き、つい、熱くなってしまったことを恥じたのか、バーナダムは左大公を見やった後、俯いてゆく。
 流石にイザークも、左大公をバーナダムと同じようにあしらう訳にはいかないと思ったのだろう……片付けの手を休め、眼を向けている。
「何故、言い合いになってしまったのか、良かったら話してもらえるだろうか」
 二人に、交互に穏やかな眼を向けながら説明を求める左大公に、バーナダムは少し躊躇いがちに、イザークを横目で見やりながら話し始めた。
          
          ***

 時折、『これで間違ってないよな?』と確かめるようにイザークを見やりながら、話しを進めるバーナダム。
 それに対する彼からの反応がないことにムッとするも、構わず話を続けた。
「ふむ……きちんとした説明がされないことに、バーナダムは納得できないでいるのだな」
「はい……」
 一通り聞き終え、確認を取るかのように眼を見てそう言ってくれる左大公に、バーナダムは素直に返事を返しながら、黙したままのイザークに眼を向けていた。
「どうだろうか、イザーク」
 左大公は、バーナダムの時と同じように、真っ直ぐにイザークと眼を合わせ、
「バーナダムも、きちんと説明がされれば、納得できると思うのだが……」
 そう執り成してくる。
「…………」
 イザークは暫し黙した後、眼を閉じていた。

 一人で大丈夫だということを、バーナダムに納得させられるだけの説明を、することは出来ない……
 本当に必要はないのだが、その理由として、バカ正直に『自分は天上鬼だから』と言う訳にもいかない。
 並外れた能力者だと、そう思ってくれているのだろうが、並外れているだけで、限界がないとは思ってはいないだろう。
 だからこその、『手助け』の申し入れなのだから……
 かと言って、他に適当な理由が、今は思いつかない。
 何より、ノリコを自分以外の人間に任せる――そのことが受け入れられない。
 それは、ただの我儘だと分かっている上に、恥ずかし気もなく『理由』として言える内容でもない……
 だがどうしても、『ノリコを背負う』それだけは、譲ることは出来なかった。

「ジェイダ左大公……言葉を返すようで済まないが、本当に一人で大丈夫だ。手助けは必要ない」
 平静を装いながら、結局、相手を怒らせるだけだと分かっている言葉を、言うしかなかった。

          ***

「だぁかぁらぁ……何で大丈夫なのか、それを説明してくれって、言ってるじゃないか!」
「バーナダム! 落ち着くんだ、バーナダムッ!」
 イザークに食って掛かろうとするバーナダムのその肩を、前から必死に抑え、なんとか落ち着かせようとする左大公。
 熱くなってゆくバーナダムとは対照的に、イザークは背を向け、まるきり無視を決め込んでいるように見える。
「すいませんっ!」
 自分のみならず、左大公への無礼な態度に返答……
 いい加減、我慢が出来なくなったのか、バーナダムは一言謝ると、落ち着かせようとしてくれている左大公を、力づくで脇に退かしていた。
「バーナダムッ!」
 左大公の呼び止めも聞かず、バーナダムはイザークの肩を掴むと、思い切り振り向かせる。
 またも、無理矢理振り向かされ、さっきよりも冷たく見据えてくるイザークに怯むことなく、バーナダムも対抗するように見据え返していた。

「バーナダムッ!」
 乱暴なことになりはしないかと、慌てて二人を止めに行こうとするジェイダ。