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自分らしく
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彼方から ― 幕間2 ― & 第三部の最初だけ

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 確信に満ちたアゴルの笑顔に、バーナダムはそれ以上何も言うことなく、とりあえず、なるべく真っ直ぐな棒を探し始めた。
「さて、我々も片づけを進めよう」
「そうですね」
「また、エイジュに怒られちゃうもんな」
 父の言葉に、息子たち二人も笑顔で応える。
 アゴルと言葉を交わしながら、棒を見繕ってゆくバーナダム。
 その姿を横目で見やりながら、左大公親子は自分たちの荷物の片づけを再開した。
「さて、おれも焚火の後始末を終わらせねぇとな」
 其々が動き出したのを見て、バラゴもホッとしたように息を吐き、もう一度水を汲みに、小川へと足を向けた。

     *************
 
「さて……と、こんなものだな」
 我ながら良く出来た――と、満足気な笑みを浮かべているアゴル。
「どうだイザーク、辛いところがあったら、今の内に言ってくれ、ノリコもな」
 そう言いながら、二人の周りを確認するように廻ってゆく。
「大丈夫、ありがと、アゴルさん。痛くない、どこも、平気」
「そうか、なら良い。イザーク、おまえはどうだ」
「おれも大丈夫だ」
「そうか……」
 一周し、戻ってきたアゴルに頷きながらそう返す二人。
「済んだのかい?」
「ああ、これでいいだろう」
 ジーナを抱きながら声を掛けてきたガーヤ。
「しかし……意外と簡単なものだね」
 と、ジーナをアゴルに返しながら、二人を見ている。
「なに、凝った作りにすると、後々面倒なだけだからな。シンプルなものが実は一番、使い勝手がいいものだ」
「ふぅん……なるほどね」
 一度、ジーナを頭上高く抱き上げ、娘の嬉しそうな笑い声を聞いた後で、そう説明するアゴル。
 仲睦まじい親子の交流に眼を細め、ガーヤはノリコを背負うイザークをもう一度見やった。

 作りは、実にシンプルだった。
 空にした荷物入れに、きれいに折り畳んだ毛布を押し込み、それを先にイザークに背負わせ、ノリコとの間に挟むことでクッションの代わりとする。
 ノリコ自身は、細長い棒を三本程纏めて、平たくなるように縛り、それを毛布でぐるぐる巻きにして、その上に腰掛けさせた。
 真ん中の棒だけ長くなるようにして、イザークが持ちやすいようにしてある。
 後は、クッション代わりの荷物入れに、ノリコの体が上手く乗っかるように手伝ってやりながらイザークに背負わせた後、彼女の体を固定させる為と保温も兼ねて、毛布でイザークと彼女の体を包み、端を縛れば……完成だった。
 
 その毛布は、エイジュがノリコの様子を見ながら包んで、端をイザークの前に持って来て縛っている。
「苦しかったり痛かったりしたら、ちゃんと言ってね? 二人とも」
「大丈夫だ、分かっている」
「うん」
 二人の返事にエイジュも頷き返し、
「じゃあ、出発しましょうか」
 と、ガーヤに声を掛けた。
 ガーヤは頷くと後ろを振り向き、
「みんな、忘れ物はないね!? 出発するよ!」
 荷物の確認をしている面々に、大声で呼び掛ける。
「おう、大丈夫だぜ」
 そう言いながら、バラゴがイザークの荷物を肩に、歩み寄ってくる。
「それは……」
 彼の肩にあるのが自分の荷物だと分かり、イザークが声を掛けるも、
「おめぇはもっと大きい荷物を背負ってるじゃねぇか、こいつはおれが持ってってやるよ」
 がははっ! と大らかに笑いながら、呆気に取られているイザークを残し、バラゴはさっさと歩いて行ってしまう。
「……済まん、バラゴ」
「気にすんな!」
 大きな背中に礼を言うイザークに、バラゴは振り返りながら軽く手を挙げていた。
「あんたの荷物は、あたしが持って行ってあげるからね、ノリコ」
「大丈夫、持てる、おばさん」
 荷物を持ち上げて見せながら、確認を取るように言ってくるガーヤに、ノリコは慌てて、手を出そうとする。
「いや、ガーヤに持ってもらった方が良い、ノリコ」
 イザークに、即座にそう言われ、ノリコは少し躊躇いながらも、
「ありがと、おばさん」
 そう言ってにっこりと微笑んだ。
「いいんだよ」
 ガーヤも微笑み返し、
「では左大公、あたし達も出発しましょう」
 左大公一行を振り返ると、歩き出した。

         ***

 陽射しが柔らかく、温かい。
 時折吹き抜ける風は爽やかで、少し滲み始めた汗を乾かしてくれる。
 起伏の激しい山道を過ぎ、一行は平坦な原っぱの中、獣道のように頼りなく残る道の名残を確認しながら、街道へと進んでいた。

 グゼナの道を良く知るガーヤと、そのガーヤと何やら笑い合いながら話をしているバラゴを先頭に、その後ろを左大公の親子とバーナダムが付いて歩いてゆく。
 アゴルは、自分の作った道具に何か不具合が起きた時の為、イザークとノリコの前を歩き、二人と共に最後尾についているのはエイジュだった。

「平穏ねぇ……」
 イザークの隣で、そう呟くエイジュ。
 彼女の視線が追うものは、吹く風にそよぐ草原。
 飛び交い、囀る小鳥。
 時折、一行の前に飛び出しては、驚いて逃げてゆく小動物……

 一見すると、どこで戦争が行われているのかと――そう思えるほど、自然豊かで平和な光景が広がっている。

「確かに……昨日、あんな激闘を繰り広げたとは思えんほど、世の中は穏やかなものだな……」
 エイジュの呟きに、アゴルがそう応える。
「けれど、白霧の森のように、いつの間にか化物が蔓延るようになってしまった場所が、幾つもあるわ……」
「幾つも……」
 アゴルの言葉に応えるように重ねたエイジュの言葉に、今度はイザークがそう呟いた。
「そう、幾つも――よ」
 エイジュはそう言いながら、イザークの背中を見やる。
 歩き出して一時程……ノリコは彼の背中で安らかな寝息を立てている。
 安心しきったその寝顔に、エイジュは慈しむような笑顔を向け、また、辺りの景色に眼を向けた。

「今まで、現れたこともないような場所に怪物や化物が現れ、森の獣たちも狂暴になりつつある……盗賊も、より悪質になって、その数も増えている……けれど国は、国境の諍いに兵を取られ、その鎮圧に人員を割く余裕はない……いいえ、元から割く気など、ないのかもしれないわね……自国の益を大義名分に、戦争をしようと考えているのだもの……いつも泣かされるのは、末端の国民だというのに……今まで見てきたどの国も、皆、同じだったわ」
 辺りの景色を眺めながら、彼女の口から零れる言葉は、耳にした者の眉を顰めさせていた。

 皆、分かっていた。
 ほんの少し――周りを見ることの出来る者たちばかりがいるのだ。
 いつの間にか、ガーヤたちからも笑い声が消えている。
「このままで良いわけないんだ……ケミルのような好戦的で権勢欲の強い奴らと、そいつらに迎合する者だけが政を行うような、そんな世の中で良いわけないんだ――このままじゃ……このままじゃいけない……」
 エイジュと同じように景色に眼を向けながら、バーナダムが呟いている。
 その拳は硬く握り締められ、強い意志が、籠められているように見える。
 皆無言で、バーナダムの呟きに耳を傾け、その言葉を、各々が胸に秘めてゆく。
「このままじゃ……か」