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自分らしく
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彼方から ― 幕間2 ― & 第三部の最初だけ

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 ラチェフの命に従い、カルコの町で得た情報の下、ノリコとイザークのことを報告すれば、莫大な金とリェンカでの身分、そして地位が約束されるだろう……
 そうなれば、ジーナの眼を治せる医者を捜すことだって、容易になる。
 命を受けリェンカを出る時は確かに、それを望んではいた……
 望んではいたが……

 ――ならばどうしてそうしない、アゴル

 ――理由は簡単だ

 ――おれは未だに……迷っているのだ
 ――この仕事について、ずっと……
 ――二人のことをリェンカに報告した、その後のことを……
 ――ずっと、考えているのだ

 ――ラチェフは、【目覚め】をどこかの国との取引に使おうとしている……
 ――それで、世界が戦乱の世になろうと、自分たちに恩恵があるのならそれで良いと……
 ――だから、リェンカに報告できずにいる
 ――だから、書き置きを残して、尾行班との連絡を絶った
 ――ジーナの生きる未来が、その世界が、戦乱の世で良いはずがない……そう、思うからだ

 ――だから、気になるのだ
 ――イザークとノリコ……【天上鬼】と【目覚め】に関係していると思われる二人が
 ――その二人と何らかの関係性があると思えるエイジュが……

 ――おれは……
 ――おれはいつまで、迷っているつもりなのか……

 いつか、決断の時が来るだろうことはアゴル自身も分かっていた。
 恐らく、その刻は近い。
 その刻が来るまでに、見極めなければならないだろう。
 あらゆることを……

 アゴルは瞳だけ動かし、エイジュを見やる。
 その瞳に映るのは、白霧の森での戦いの名残――エイジュが着ている、男物の濃紺の上着に付いた土汚れと、所々裂けてしまっている裾……
 あの、霧の中での戦い――一歩間違えれば……なのに……
 やはり、彼女は……

 アゴルはそっと、エイジュの視界に入る位置にカップを置いた。
 
          ***

 普通の人間の『気』は、能力者のそれよりも弱く、読み辛い。
 幸い、アゴルは元傭兵――鍛錬によって研ぎ澄まされている『気』は、普通の人よりは強く、幾分、読み易い。
 それでも、大まかにしか読み取ることは出来ない。 
 その、アゴルの『気』に混じる感情が、迷走している……
 そう思える。
 思慮深い人間のようだが、迷いも多い。

 ――と言うよりは、思慮深いが故に迷っていると言った方がいいかしらね

 カップに口を付けながら、何やら思案している様子のアゴル。
 エイジュもそれとなく、彼を見やる。

 身体能力も高く、知識量も豊富。
 状況判断、観察眼に優れ、リーダーシップも執れる……
 その上、占者の娘までいる。
 とても優秀だと思えるのだが、どうして傭兵を辞めたのか……それとも、辞めさせられたのか。
 あるいは、傭兵故に密命を受け、動いているのか……

 ――密命……その方がしっくりくるわね

 ノリコが、金の寝床に現れたあの日……
 翼竜に乗って、グゼナの兵とリェンカの傭兵が来ていた。
 もしも彼が、リェンカの傭兵だとしたら、あの日、間違いなくあそこにいたはず。
 【目覚め】が、既に何者かに持ち去られた後だと、分かったはず……
 まだ、何処の国も手に入れていないことは、占者に占てもらえばすぐに分かること。
 リェンカは商人の集う自由都市――取引材料として、【目覚め】を欲しているのだとしたら……
 秘密裏に見つけ出そうとするのではないか?
 だとすれば、彼は、打って付けの人間のように思える。

 ――まぁ、そうだったとしても、彼も『光』を持つ人間……
 ――イザークの敵にはならないはず……ね

 現に、彼の『気』からは、『迷い』は感じられても、『敵意』や『悪意』は全く感じられない。
 『あちら側』からも、『疑っている人間がいるからバレないようにしろ』程度にしか伝えられていない。

 エイジュは軽く息を吐くと、自分のカップへ手を伸ばそうとした。
「…………?」
 視界の端に、彼がカップを地面に置くのが映る。
 しかも、ゆっくりと、態と気付かせる為に置いたように思える。 
 視線を少し上げ、アゴルを見やるエイジュ。
 アゴルは炎を暫し見据えた後、ゆっくりと瞼を閉じてゆく。
 エイジュも、彼の行動を見守るかのように、静かに書誌を閉じた。

「……あんたはどう思っている?」

 不意に――まるで、エイジュが書誌を閉じるのを待っていたかのような、アゴルの問い掛け。
「何を……かしら」
「今……この世の有り様を――依頼を熟しながら、あんたは見てきたはずだろう? 其々の国の、其々の政治を……」
 瞼を開くも、そのまま、炎を見据え続けるアゴル。
 エイジュはその横顔を暫し見詰めた後、同じように炎に眼を向けた。
「そうね……どこの国もそうだけれど、今、国境の辺りでは、戦火が広がりつつあるわね……各国の政治は一様に、好戦的な方に向かっていると思えるわ、それに、どことなくだけれど、世界全体が、まるで暗い影のような……不穏な気配とでも言えばいいのかしら、そんなものに覆われていくような、そんな感じがするわね」
「やはり……そうか」
 アゴルはエイジュの言葉を聞きながら、胡坐を掻いた膝の上に立て肘をし、炎を見詰めたまま考え込むように、組んだ手の上に顎を乗せてゆく。
「もしも……何処かの国が【目覚め】を手に入れたとしたら――どうなると思う?」
 組んだ手に顎を乗せたまま、少し首を傾げるようにしてエイジュを見やるアゴル。
「…………手に入れた国は、他の国を侵略し始めるでしょうね……【目覚め】によって支配した【天上鬼】の力を使って……」
「闇の力を使って……か」
 そう言って炎を睨みつけるアゴルの瞳は憂いに満ち、どうにもならない苛立ちを抑えるかのように、唇を噛み締めている。
「手に入れられたとしたら……だけれどね」
 そう言ってフッ……と微笑むエイジュ。
 その笑みに、アゴルは怪訝そうに顔を向けた。
「だって、誰も見たことなどないのよ? 【天上鬼】も【目覚め】も……姿形も、その居場所すらも分からないものを、どうやって見つけ出すというのかしら? 占者ですら、占ることが出来ないというのに……」
「それは……確かにそうだが……」
 クスクスと、さも可笑しそうに肩を揺らすエイジュ。
 だが、ノリコがその【目覚め】ではないかと疑い、そのノリコをガーヤに預けたイザークとの関係性に疑念を持つアゴルにとって、それは、笑いごとなどではない。
 かと言って、確たる情報の下、二人のことを疑っているとも言えず、逡巡しているアゴルに、
「それにね」
 と、彼女は言葉を続けてゆく。
「人はそんなに愚かではないと――あたしは思っているのよ?」
「……愚か、ではない……?」
 小首を傾げ、いつもの笑みを見せるエイジュに釣られ、アゴルも無意識に首を傾げていた。
「彼らが、良い例でしょう?」
 そう言って、周りを見回すエイジュ。
 彼女が眼を向ける方へ、アゴルも同じように眼を向けてゆく。
 眼に入るのは、ジェイダ左大公、その息子たち、バーナダム、バラゴ、ガーヤ……彼らの眠る姿。