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自分らしく
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彼方から ― 幕間2 ― & 第三部の最初だけ

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「ええ……あたしが近づく気配にも気付かないなんて――やはり、少々疲れが出たようね、イザーク」
「…………済まない」
 額に手を宛がい、毛布をエイジュに差し出しながら、自分を責めるように深い溜め息を吐くイザーク。
 その様子に、エイジュはいつもの笑みを抑え、少し真顔で、
「人は……いつまでも延々と、気を張り続けていられるようには出来ていないわ、イザーク……どこかで必ず、弛める必要があるものよ――気を置く必要の無い者たちと共に居る時ぐらい、自分を少し、休ませてあげなさい……」
 毛布を受け取り、そう、諭す。
「エイジュ……」
 神妙な面持ちで自分を見やるイザークにフッ――と、いつもの笑みを向けると、エイジュはノリコに眼を向け、
「彼女を、起こしても良いかしら? 食事の用意が出来たわ、少しだけでも良いから、口に出来るのならした方が良いと思うのだけれど?」
 そう言いながら、許可を得るかのように小首を傾げてきた。
「そうだな……」
 昨夜のまま、自分の方へと顔を向けて眠っているノリコ。
「無理に……起こしたくはないが……」
 一晩しか経っていないのだ、このまま眠っていた方が痛みを感じなくて済むかもしれない――そう思う。
 だが、同時に、早く治っても欲しい。
 その為にも、寝かして置いたままと言うのは良くない。
 どの道、ここにずっといる訳にもいかないのだ、イザークはエイジュに眼を向け、一つ、頷いた。

          ***

 誰かに、名前を呼ばれている気がする……
 体を、優しく揺さぶられている。

 ――だれ……?

 優しく呼び掛けてくれる声に……と言うよりは、その呼び掛け方に聞き覚えがある。
 昔、子供の頃……だった気がする。

 ――だれ、だったかな……?

 まどろみの中、暗闇にその面影が浮かび上がる。
 
「……ノリコ」

 もう一度呼ばれた。
 けれど今度は違う声……

 ――呼んでる……あたしの名前を

 暗闇に浮かんだ、見覚えのある面影が遠くなる。

「ノリコ……大丈夫か?」

 心配そうな声。
 知っている、この声は……

 ――イザークの、声……

 消えかけている面影を惜しみながら、ノリコは意識を光の方へと向けた。
 呼び掛けてくれる、愛しい声音の持ち主がいる、光の方へ……

          ***

「――う……ん」
 いつものように起きようとして、自由に動かない体に気付く。

 ――重い……

 目覚めたばかりの頭はぼんやりとしていて、何故、体が動かないのか思い当たらず、眉を顰めながら眼を開けた。
 焦点のはっきりしない視界に、二つの人影が見える。
 どちらも、長くて綺麗な黒髪……
「おはよう、ノリコ」
「……気分はどうだ? 痛くは、ないか……?」
「痛い……?」
 ぼやけた視界が、ハッキリとしてくる。
 心配そうに覗き込んでくれている二人……
 イザークとエイジュの顔が見える。
 訊かれた意味が一瞬理解できず、ノリコは不用意にも起き上がろうとした。

「―――っ!!」

 背中に激痛が奔った。
 思わず涙が出てくる。
「くぅ――」
 小さく呻き、起こそうとした状態のまま、ノリコは痛みに体を震わせていた。

「無理をするな……」

 フッ――と、体が軽くなる。
 涙で潤む視界の端に、流れる黒髪が映る。
 背中と肩を柔らかく――けれどもしっかりと、支えてくれているのが分かる。
 イザークが、その腕で……
「イザーク……」
 呟くように呼び掛けると、口の端を緩めただけの笑みを返してくれる。
 いつもの、笑み……
 その笑みにノリコは安堵し、ホッと、息を吐いた。

「起こした方が良いのか? エイジュ」
「ええ、横になったままと言うのは良くないわ、血の巡りが、悪くなってしまうもの」
「分かった」
 二人の会話に、ノリコは怪訝そうな表情で、二人を交互に見やる。
「ノリコ、背中とか足とか……少し痛いだろうけれど、我慢して、座ってくれる?」

 ――背中……足……?

 エイジュの言葉に、ハッとする。
 昨日のことを思い出す。
 あの時の衝撃が蘇り、思わず、顔を歪めた。
「痛いのか? だったら無理せずに……」
「だいじょうぶ……思い出しただけ、平気」
 そう言って、気丈にも笑顔を見せるノリコに、二人も笑みを返す。
 二人を見やりながらコクンと、頷くノリコ。
 二人も頷き返すと、互いに見やり、
「ゆっくり、そっとね……イザーク」
「ああ」
 ノリコの様子を窺いながら、本当にゆっくりと体を起こし、座らせた。
 
 ふぅ……

 と、三人同時に息を吐く。
 三人とも、思わず顔を見合わせ、
「やだ……」
 と、エイジュはクスッと笑い、
「いっしょ」
 と、ノリコは少し照れて、
「…………」
 イザークは無言で少し顔を赤らめ、目線を二人から外していた。

         ***

「起きても大丈夫なのかい?」
 ガーヤが二人分の食事を手に、歩み寄ってくる。
「おばさん……おはよう」
「おはよう、ノリコ。どうだい? 何か、食べられそうかい?」
 まだ少し蒼白い顔で笑顔を見せるノリコに、ガーヤも優しく笑みを返し、そう訊ねてくる。
「おはようイザーク、あんたはしっかり食べるんだよ」
 エイジュの傍らに座り、そう言ってスープの入ったカップと、パンを差し出すガーヤ。
「あ、ああ……済まない」
 有無を言わさない勢いで差し出され、イザークは少し面食らいながら、カップとパンを受け取っていた。
「ありがとうガーヤ、どうかしらね……少し、食べた方が良いのは確かだけれど――その前に、手を、動かせるかしら? ノリコ」
 ノリコの背中に自分の毛布を掛けてやりながら、彼女の顔を覗き込み、訊ねるエイジュ。
「……ん」
 エイジュの問いに、ノリコは少し躊躇いながら、腕を動かしてみようとする。
「痛ぅ―――」
 ほんの少し、動かしてみようとしただけなのに、肩に激痛が奔る。
 あまりの痛みに、指先が痺れてくる。
 微かに震える指先を見て、エイジュは黙って、首を横に振っていた。
「ご免なさい……あたし……迷惑……」
 眉を顰めてしまった三人を見て、ノリコは俯き、消え入るような声音で謝ってくる。
「何故、謝る」
「そうだよ、ノリコ。自分が悪いわけじゃないんだから、謝る必要はないんだよ」
「でも……あたし、怪我している――みんなに、迷惑」
「その怪我が、あなたのせいではないと言っているのよ……それに、そう思うのなら、早く怪我を治さないとね? 食欲があるのなら、少しで良いから食べなさい、ガーヤに手伝ってもらって」
 ノリコの一言を、三人が三人とも否定し、そして微笑む。
 彼女は少し戸惑いながら、イザークを見た。
 イザークは少し微笑み、無言で頷く。
 その頷きに、ノリコはやっといつもの明るい笑顔を取り戻した。
 彼女の笑顔にエイジュとガーヤも、釣られて笑顔になる。
「じゃあ、ガーヤ、ノリコの食事、お願いしても良いかしら」
「ああ、任せておくれ」
「イザーク、彼女の食事が終わったら、容態を見に来るわ」
「分かった、よろしく頼む」
「あたしは、アゴルと少し話しをしてくるから」
「ああ、頼んだよ」