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ワルガキと妖怪アパートと魔法の塔

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龍神はそれまでの生活を全て捨て、小学六年にして「塔」での一人暮しを決意し、それを実行に移した。


正確には、幽霊である祖父、彫刻家であった陣内秀士郎に、その使い魔であるギルバルスとの「二人と一匹」暮らしではあるのだが。


塔での生活は最初は苦労の連続で、蛇を食べた事もあった。龍神にはそれすらも楽しかったのだが。今では家庭菜園に磯釣り。塔での暮らしもすっかり板に付いている。


進学校である条西に、親友である信久と共に進学。


信久、通称「ノブ」は母親との二人暮らし。小さい頃の事故で右足が不自由になり、松葉杖を使用している。だが、本人はその事についてはあまり気にしていない。


龍神の他に初めて秀士郎が見えた人物で、その事に恐れを抱かず、むしろはしゃぎ回った程の大物である。


その龍神と信久の前に、「次元を超えて」やってきた上級魔女、エスペロス。


赤い髪、青い目、白い肌。まさに「お人形さん」の様な可憐な姿だが、実際はかなりの年齢(何百、何千単位で)。


次元を移動する「旅人」だが、この次元がいたく気に入り、目下人間の生活を満喫中。



夏が終わる。

暑さも徐々にではあるが薄れ、ホッとする反面、どこか寂しい気持ちもする。


「胡瓜やトマトも終わっちゃったなー、でも今度は実りの秋だからね」

「食欲の秋ー!いいよね、秋は。美味しさもひとしおだから、食欲も増すよね!」

「食欲はいつもの事でしょ?」


龍神はじゃがいもと玉葱の味噌汁を啜りながら、エスペロスは五杯目の白米をかきこみながら、それぞれ話す。


「ホ、秋は全てにおいて行動しやすい季節だからの。昔の住人達も夏より秋の方が飯も食ったし、芸術に没頭しとったワイ」

秀士郎はそう言って昔を懐かしむ様に目を細めた。


「僕も、この秋は絵に没頭したいな。もっともっと」

龍神の絵の才能は絵画コンクールに最年少で入賞し、誰もが認めるところなのだが、本人は貪欲に更に上を目指している。


「ねー龍神ー、絵を書くのもいいけどサー、今日はこれからノブと出かけるんでショ?遊ぶにはエネルギーが不可欠だよ?という訳でもう一杯ー!!」

エスペロスが可愛らしく茶碗を差し出す。


「エスペロス、それは朝ご飯の量じゃないよ」

龍神は呆れてそう呟いた。


朝食を食べ終え、「通路」を通って駅前に辿り着くと、ノブは既に到着していた。


「オッス!おはよー龍神、エスペロス」

二人を見つけると、ノブは笑顔で手を振った。


「オッハヨー、ノブ!」

「遅かったかな?待たせてごめんね、ノブ」

「いや、俺が早く来すぎたんだよ。思ったより道が空いててさ。」


三人は話しながら、どこへ行こうか相談した。龍神は絵の道具を買いに、ノブは映画を見に、エスペロスは食事をしたかった(!)ので、大型のショッピングモールに向かう事にした。


そろそろまたテストがあるねと龍神が言うと、条西テスト多すぎだよなとノブが笑い、お互い頑張ろうねとエスペロスが皮肉を言ったので、龍神とノブは同時にエスペロスの頭を小突いた。

ちなみにエスペロスは進学校の条西で常に満点首席である。


ショッピングモールにもうすぐ到着しようというところで、先頭を歩いていた龍神に何かが勢いよくぶつかった。


「うわっ!」
「わぁっ!」


龍神はふらついたが、足を踏ん張って倒れはしなかった。


一方、ぶつかってきた方はハネ飛ばされ、1メートルほども吹っ飛んでしまった。


「大丈夫か、てっちゃん!」



龍神はぶつかった相手に駆け寄った。それは小学生位の男の子だった。


「大丈夫かい?」

「ああ…ゴメンな、兄ちゃん」


頭をさすりながら、よっこらしょと男の子は立ち上がった。ツンツン頭の、元気そうな子供である。


「ガキみたいにはしゃぐからだよ」

フッ、と鼻で笑う声が彼のすぐ後ろから聞こえた。


「兄ちゃんこそ、ケガなかった?」


そんな心配そうな声も聞こえた。


龍神がチラッと男の子の後ろを見ると、サラサラ黒髪の美少年と、フワフワうさぎ頭の可愛い少年がこちらを見ていた。

きっと同級生だろうな、と龍神は微笑ましい気持ちになりつつ、

「ケガなんてないよ。キミ達が大丈夫ならいいんだ。気をつけてはしゃぐんだよ」

と笑顔で言った。


「おう!気を付けるぜ!」

「だから、ガキみたいにはしゃがなきゃいいんだよ」

「バカなー」


三人は元気よく、龍神達の横をすり抜けて行った。


「ははっ、元気な子供達だな」

笑いながらノブは龍神にそう言った。

「ホントだよね、見てるこっちが元気を貰える感じ」

龍神も笑った。


エスペロスは、三人が去った方角をじっと見ていた。


三人悪といえども、上院の全てが自分の庭という訳ではない(ほぼ全てがそうではあるが)。

ましてや、距離の離れた上東や条西など尚更である。知り尽くしているどころか、道や建物、人間に至るまで全体の4割も把握していない(でも3割位は把握しているし、三人悪は有名なので上東や条西でも半分以上の人が知っている)。

条西にある巨大なショッピングモールでそれぞれの買物を済ませ、中にあるファミリーレストランで豪華な食事をガツガツ食った後(椎名が奢ってくれた)、大満足でショッピングモールを後にした。

「てっちゃん、食ったばっかでよくそんな走れるな」

椎名は、呆れ顔で先を行くてつしにそう言った。

てつしはへへへと笑い、

「だってよー、俺この映画ずっと見たくて半年以上待ってたんだぜ!見逃してからDVDになるまでの期間…くーっ、長かった!」

と満面の笑顔で答えた。


「よかったね、てっちゃん」

てつしが嬉しそうなので、自分も嬉しくなるリョーチン。てつしや椎名の幸せはそのままリョーチンの幸せなのである。


「よっしゃ!このまま椎名んちまでダッシュで帰ろうぜ!」

「よっしゃー!」

「距離考えろよ、二人とも」



てつしが走り、リョーチンが追う。やれやれと呟きながら、椎名も続き、先頭のてつしが曲がり角を曲がろうとした時。


「うわっ!」
「わあっ!」

ドン!と派手な音がしててつしがこれまた派手に吹っ飛んだ。

「大丈夫か、てっちゃん!」

声をかけながら、[もしかして妖怪か?]と一瞬椎名は考えたが、てつしが吹っ飛ばされた方向を見て、その考えを打ち消した。

恐らく高校生位であろう、男性がそこに立っていた。

しなやかな体つきに女性の様な柔らかな顔立ち。長い髪は縛ってポニーテールにしてあり、恰好さえ変えれば女性としても通用しそうだ。


「大丈夫かい?」

その男性はてつしに近寄り、そう声をかけた。


「ああ、大丈夫…ゴメンな、兄ちゃん」

てつしにしては殊勝なセリフである。やはりはしゃぎ過ぎたのが自分でも分かっているのだろう。それとも頭をしたたか打ったのだろうか。

「ガキみたいにはしゃぐからだよ」

自分も子供のくせに、椎名はそう言ってフッと鼻をならした。

「兄ちゃんこそ、大丈夫?」