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ワルガキと妖怪アパートと魔法の塔

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リョーチンは、てつしそっちのけで男性の心配をする。てつしがこの位でどうにかなる訳ないという、信頼の表れだろう、きっと。



「ケガなんてないよ。君達が大丈夫ならいいんだ。気をつけてはしゃぐんだよ」

彼はそう言って、柔らかく微笑んだ。


こちらに非があるにも関わらずちっとも怒らず、それどころか笑いながらさりげなく心配してくれるこの男性に、てつしとリョーチンはもちろん、椎名でさえも非常に好感を持った。


てつしはお礼の代わりに、

「おう!気を付けるぜ!」

と元気一杯に答えた。


母ちゃんが居たら、お礼のひとつも言いなさいと窘(たしな)められるところだが、この人にはてつしの元気を見せた方が喜ばれる様な気がしたのだ。


「だから、ガキみたいにはしゃがなきゃいいんだよ」

といつもの様に椎名が言えば、

「バカなー」

とリョーチンもしみじみ言う。


いつも通り騒ぎながら、三人悪は彼等の横をすり抜ける。


その時、彼と一緒にいた女性の気配を「感じた」のは椎名だけだった。


一瞬、その女性を見る。ハッとする様な美人だった。すると、その女性も椎名を見た。そして薄く笑う。


―へェ…キミ、ボクを「感じた」んだ…優秀だね―


頭の中に直接流れ込んでくる言葉。

(ヤバイ…!)

椎名は本能的に目を伏せ、思い切り走った。


しばらく三人は一塊で走ったが、先頭を行くリョーチンがアイスクリームの屋台を見つけ、てつしを振り返ると、てつしもまた、それを見つけて椎名を振り返った。


「………………」

椎名は無言で、「どれがいいんだ」と顎をしゃくった。


「優しい兄ちゃんだったねー」

ストロベリー・アイスクリームを食べながらリョーチンが言う。

「ああ、それも気取った優しさじゃなくこう…なんていうのかな、あれだよあれ…中まで染みる、じゃないな、中に滲む、でもないな…」

てつしが言いたいのは「内面から滲み出る優しさ」である。チョコレート・バニラのミックスアイスクリームを食べながら、てつしは足りない頭でまだ考えていた。


「……………」

プレミアム・バニラアイスクリーム(チョコウエハース付き)を食べながら、椎名は悩んでいた。

先程の女性…間違いなく「人」ではない。

しかし、てつしはおろか、リョーチンでさえも全く気付かない程完璧に「人」に成り済ましている。

文殊菩薩の加護を受けた椎名でさえ、あれだけ接近しなければ気付かなかったのだ。

そしてそれは、そのままあの女性の「力」の強さを象徴している。成り済ますと言っても、簡単ではないのだ。


そもそも、力のない妖怪ならば人に成り済ます事すら不可能で、その上、仮にも術師の端くれとして妖怪どもと渡り合って来たてつしやリョーチンにさえ全く気付かせない程完璧に変化している。

並大抵の力ではない。

恐らく…三人で力を合わせても、到底敵わない…。

そう思ったからこそ、椎名はそれを二人に話していいものかどうか、迷っているのだ。


気付かなかったのならば、わざわざ話して不安の種を植え付ける事はないのではないか?

現に、条西で何か事件が起きたという話は聞かないし、むやみに力を振り回す奴ではないのかもしれない。

自分さえ黙っていれば…何の問題もない可能性が高い。


一方で、二人に話さず、もし何かあった場合、必ず後悔する事になる。

何か事件が起きてもそうだが、何より恐ろしいのは、親友の二人に魔の手が伸びる可能性がある事だ。

あの女性は三人悪を見た。

そして、椎名に念波を送った。

ならば、何か行動を起こすときに三人悪を指針として動いても何の不思議もないのだ。



そうなれば一番巻き込まれる可能性が高いのは椎名であり、それは当然、年中一緒にいるてつしとリョーチンにも危険が迫るということ…。


そしてそれが現実に起こってしまった時、三人は何も出来ないだろう事を、椎名は理解していた。

てつしは諦めないだろう。ボロボロになったって、最後の最後まで一人で闘うだろう。


リョーチンも、そして椎名も、そんなてつしに付いていく。いつかおやじが言っていた様に、三人の力を合わせれば、どんな危機だって乗り越えられる、そう信じて。


しかし、あの女の底知れない力は、もはやそんな次元ではない。あの一瞬、目を合わせただけで自分が気圧され、魂が引き摺り出されてしまいそうな恐ろしささえ覚えた。

―キミ達じゃ、束になってかかったってボクの足元にも及ばないよ―


仮にそう言われても、反論の余地はない。いや、本当はあの女はそう言いたかったのかもしれない。


(…もし、本当に手を出して来た時は、その時は…)

「なーなー、椎名ってばさー!」

「どうした、椎名?具合悪いのか?」

「えっ…?あ、悪い。考え事してたんだ…」


しばらく黙っていたらしい椎名を、二人は心配してくれたらしい。


「…来週のテストの事とかね。こないだは87点だったから、落ち込んじゃって」

「こないだのって…あれ六年生のテストを先生が配り間違えてたやつじゃねえか!」

「てっちゃんもおれも当然0点で、五年生の半分以上が30点未満って言ってたぞ!」

てつしもリョーチンも目を剥いた。しかし椎名はいつもの涼しげな顔で、

「あんなのは、習ってなくても応用だよ、応用。普段から基本をマスターしてれば、あの程度は軽いよ。それが0点とはねぇ…」

と言い放ち、フッと鼻を鳴らした。その、はるか上から二人を見下ろした、高慢な物言い!てつしもリョーチンも、悔しいやら呆れるやら腹立たしいやらで、顔が赤くなったり青くなったり白くなったりしてしまった。


そんな二人の様子を見ながら、椎名は「やっぱり話さないでおこう」と決意した。


現実に襲ってくる可能性も勿論あるが、それは常に気配を研ぎ澄ませていれば、相当の確率で予知する事ができる。

精神的な疲労はあるが、今はそれが一番いい様な気がした。


それに…椎名も信じたいのだ。

どうあがいても敵わない相手に襲われても、てつしとリョーチンと一緒なら何とかなる。そんな、矛盾した確かな感覚を…。











「んー、どうすっかな…」


俺―稲葉夕士はそう呟き、溜息を一つ漏らした。


上院の駅前。俺はこの近くで開かれているという大規模な古本のフリーマーケットに足を運ぼうとしていた。

ここに来たのは初めてだから、迷うのは仕方ないのだが、問題は道を聞こうとして訪れた駅前派出所に誰も居ないという事だ。


「…まぁ、警察も人手不足で、留守になっている派出所が増えてるってのは聞いた事あるけどな」

それにしても実際に目の当たりにすると少々不安になる。万が一事件でも起こったらどうするのだろうか。例えば…


「キャーッ!ひったくりよ!」

そうそう、ひったくりとか………って、何!?


慌てて声のした方を見ると、今まさにバッグをひったくった男がこちらに向かって来るではないか!


「まいったな…」