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章と旌 (第三章)

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━━私の右手の事を知らぬならば、左路軍だろうがな。━━
王府を出たい平旌の目的が、『左路軍入り』から、『平章を避ける事』に変わってしまったのだ。
━━あとは蒙家の調練所か、飛盞の所か、、、、。
、、、私が思い付くような場所には、恐らく居まい。━━
東青にも探させているが、來陽府に居るとは思えない。元啓に、自分の弱さをさらけ出す事は、平旌はしないだろう。
小さい頃から、かくれんぼをやれば、平旌は思いもよらぬ所に隠れているものだから、最後まで見つからなかった。
「きっと、この度も、楽には見つかるまい。」
━━だが、見つけて欲しいに違いない。
、、、探し出してやらねば。━━





二人互いに、思い付く場所を探し、一刻が経つ。

東青が王府に帰ってきた。

平章は既に、東院の前で待っていた。

東青なりに、平旌が出入りする店や、茶館を探し回ったが、それらしい姿も、行先の手ががりも無い。
「、、世子、、申し訳ありません。」
東青は平章の前に、跪き平伏した。
━━東青の責任では無いが、、。
罰をくらった方が、東青の気持ちが楽になるのだろう。
今回の事が拗れても、東青が前向きになれるなら、、。━━
「、、、そうだな。東青、この東院の前で立っていろ。罰だ。
だが、平旌が帰ってきたら、私が『話がある』と言って、私の東院に押し込めておけ。そう言っておけば、東院から出て行くことは無いだろう。いいな。」
━━平旌の心に幾らか整理がついて、私と向き合う気になったならば、事のあらましを、私に直接、聞くはずだ。━━
「分かりました、世子。」
「ここから見えるが、平旌の部屋にも気を配っておけ。お前ならば、気配が分かるだろう?。
私と東青だけの、秘密の事だ。父上に知られてはならぬ。これ以上、平旌の事で、父上の心を煩わせてはならぬ。」
「はっ。」
平章には、戻って来るとは思えなかったが、仮に、平旌が王府に戻ったとして、今の東青ならば、平旌を逃がすまい。


━━さて、次に探すとしたら、まずは飛盞の所か?。
、、、、だが、飛盞は、私の友なのだ。飛盞の所に行くだろうか。━━
一つ一つ、思い当たる場所を、虱潰しに当たっていくしかない。
同じ年頃の男の友は、元啓の他は思い当たらない。平旌はどちらかというと、強くなりたいが故に、年上の、腕に覚えのある大人の男の方が多い。平旌と同じ年頃の少年の中に、平旌と互角に競える者は居ない。
また或いは、小さな子供か。
どういう訳か平旌は、小さな子供たちには、人気がある。
茶館で遊ぶような事もあまりせず。名家の子女の後を、追いかけ回す様な事にも、興味がある様には思えない。
━━平旌の大体の付き合いは、把握しているつもりだが、、。━━
その日にあったことを、平旌は兄に、事細かに話して聞かせる。平旌は兄に、隠し立てなどしない。良い事があっても、都合の悪い事も、全て兄には話すのだ。
考えてる事も、側には居ない時の事も、全て心が感じる。
嬉しい時、悔しい時、その時々何処に居るかが、手に取るようにわかるのだが、何故か今回の事は、平章は、頭に浮かぶその何処でもない、そんな気がしてならない。




平旌はその頃、ただ走っていた。
先の事など考えられなかった。
自分の愚かさが恨めしく、「今」という刻から、ただ、逃れたい。
──消えてしまいたい、、。兄上の前から、、。金陵からも、、。
けど、私が死んだら、兄上が悲しむ、、そしてまた、。──
何をしても何を言っても、父からは認められず、そして兄はとばっちりを食う。
父に認められないのは、自分か未熟な故だと分かっている。だが、兄を悲しませたり、傷付けたりしようと思っていた訳では無い。
どこかに消えてしまえば、全てが解決するように思えて、逃げるように王府を出てきた。どこに行けばいいのかも分からない。
平旌はいつも、闇雲に動いていた訳ではなく、理由も目的もあったのだ。多少、やり過ぎたことはあっても、物事を解決する為、そして相手の為であったし、恥じる事はなかった。
だが今回は、兄にこんな羽目に遭わせた、原因を作った自分が許せない。自分を正当化したくもなり、怒りの矛先は父親に向いた。
──父上に認めて欲しかった、、、。
私は、何も、悪いことなんかしていない。むしろ私は、左路軍を助けたはずだ。なのに父上は、まるで私が、悪い事でもしたかのように、、。──
平旌には、解決の為だけではなく、功名心も確かにあったのだ。
──確かに、、確かに父上に褒められたかった。それのどこがいけないって言うんだ。兄上に面倒はかけたけど、左路軍にも、救助に来てくれた兵の一人として死んじゃいない。皆の役に立ったというのに、なんで父上は認めてくれないんだ。
父上のあの目、、私が要らない子なら、さっさと私を外に出せばいいんだ。
私は一人きりでだって生きていける。父上も兄上も要らない。王府になんて居られない。大人しくなんてしてやるもんか。
父上は、私の事なんかどうでもいいんだ。王府に押し込めてられてなんてやるもんか。
兄上だって、結局はいつも父上の味方で、いつもいつもいつもいつもいつも、、、私の事なんか、、──
平旌の心の中が、恨み言でいっぱいになる。
これ程まで、人を憎悪した事など無い。
「、、あっ!、。」
ずっと走り続け、喉は乾き、足も縺(もつ)れ、そして派手に転んだ。
「、、、あっあぁ、、痛、、っ、、。」
乾きのせいで喉がひりつき、体は疲れていたが、その体の悲鳴を、必死で走っている間、平旌は全く感じなかった。
だが、転んで肘や膝を擦りむき、衣服にどんどん血が滲んでいく。これにはさすがに痛みを感じた。
痛みに体を丸めた。
「、、ぅぐぅっ、、。」
涙が零れた。
痛みの涙なのか、それとも心の痛みからの涙なのか、よく分からない。
──兄上はもっと苦しくて、そしてもっと痛かったんだろうか。常に冷静な兄上が、自分を傷つけたなんて、、、どんなに苦しかったんだろう、、。
なのに私は、何も知らなくて、、。
剣士にはならないと言っていたけど、人並以上の腕なのに。剣を持てなくなったら、、兄上の手が元通りにならなかったら、私はどうしたら、、。──
「、、、どうしたらいいの?、、。」
独りでに言葉が出たが、誰も居ない草原の中では、答えてくれる声もない。

( 良いんだ、平旌、お前が無事ならば )


どこからとも無く、平章の声が聞こえてくる。
優しい笑顔で目を細める、平章の顔が浮かぶ。
「兄上?。」
顔を上げて見渡したが、辺りに人の気配は無い。
空耳だったのだ。
その声が、更に平旌を惨めにさせた。
「ぅぅ、、、ごめんなさい兄上、、。」
堪えきれずに、平旌は泣いた。
人に聞かせたら、何を勝手な、と言われそうだが。
父と兄に怒りを転化し、そして、自分が消えるべきだと思いながらも、兄に見つけて欲しかった。
兄に、この苦しみから、救って欲しかったのだ。






一方、平章は、荀飛盞の元を訪れていた。
お誂向(あつらえ)きにも、飛盞は蒙家の調練所に居た。
蒙家の調練所は、金陵から離れた所にある。
平章も飛盞も、少年時代から、蒙家の調練所で剣の腕を磨いた。
勝手知ったる、蒙家調練所だった。
作品名:章と旌 (第三章) 作家名:古槍ノ標