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自分らしく
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彼方から 第三部 第一話

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 遥か先に臨む地平線を……その地平線まで続いているように見える花々を見やりながら、アゴルは心からそう願っていた。
「色とりどりの花々がそこかしこに群生して――まるで……絵のような色彩だ」
 少し、強くなり始めた陽射しに照らされ、広々とした草原に群れ咲く花々。
 生き生きとした生命力に溢れ、自らの生を、謳歌しているように思える。
 ノリコは、アゴルの言葉に誘われるように、草原に座したまま、周囲の世界に眼を向けていた。
「大丈夫よ、お父さん」
 父の想いに、ジーナはそう応える。
「ぼんやりとしたイメージだけど、ジーナにも分かるもの。ここのエネルギーは、すごくカラフル」
 幼き稀代の占者と呼ばれたその能力は、溢れんばかりの生命エネルギーを感じ取っていた。
 あの……白霧の森の時と、同じように……

「ったく……世情を忘れるよなァ、ここは」
 生い茂る草を踏み締め、半ば呆れたような口振りで、バラゴが歩み寄ってきた。
「見てくれ」
 その言葉に応じるように、ノリコとアゴルは彼の方を振り向く。
「花冠を作った」
「――っ!!」
「……っ!!」
 少しドヤ顔で、自ら作った花冠を頭に乗せ、指差しているバラゴ。
 厳つい顔に似合わぬ、美しくも可憐で見事な花冠……更に言えば彼の意外な手先の器用さに、アゴルとノリコは驚くと同時に、引いていた……
「おい。なんだよ、その反応は……」
 心外だと言わんばかりの顔で腕を組み、
「おれに似合わねぇってのか?」
 二人にそう言ってくる。
「え? 似合うと思ってたのか?」
 バラゴの言葉に、素直に返答してしまうアゴル。
 正直な感想なのだろうが、少々、失礼だ。
 だが、そんなアゴルの失言にも慣れたものなのか、
「おうとも、このちょっとしたミスマッチが、けっこう可愛いじゃねぇかと」
 と、平然と返している。
「そ、そうか……いや、人によってはそう思う奴もいるかも……」
 花冠をしている本人にそう言われてしまっては、返す言葉がある訳もなく……
 フォローになってないフォローを、アゴルは返すしかなかった。

「あら、でも、上手に出来ているわよ、その花冠」
 そう言いながら小首を傾げたいつもの笑みを見せ、バラゴの背後から顔を覗かせたのはエイジュだった。
「わぁっ!」
 思わず、ノリコが感嘆の声を上げる。
「どう? 似合っているかしら」
「うんっ! エイジュさん、きれいっ!!」
「おっ、確かに」
「まっ、あんたにゃ敵わねぇな」
 皆の言葉に、ジーナだけがキョトンとした顔をしている。
 彼女の頭上には、バラゴが作った物よりも、大きく鮮やかに咲き誇った花々をあしらった花冠が乗せられていた。

 少し、暑さを感じるようになった季節に合わせ、皆の服装は薄手のものへと変わっている。
 草原を渡る風は爽やかで、半袖がちょうど良い。
 袖から覗く白く細い腕が、淑やかに頭上に乗せられている花冠へと伸び、それはそのまま、アゴルの頭上へと渡っていた。
「あなたもどう?」
 と、少しふざけた様に微笑むエイジュ。
 乗せられた花冠に手を添え、アゴルもそのおふざけに乗っかり、
「どうだ? おまえよりは似合うだろう?」
 と、バラゴに自慢気な笑みを見せていた。
「……おれよりは、な」
「おっ?」
 ふんっと鼻を鳴らし、少し不貞腐れた風を見せながらアゴルから花冠を取り上げると、ひょいと、そのままエイジュの頭に乗せ直す。
「あら……」
「せっかくに綺麗に作ってもらえたんだからよ、花冠だってこっちの方が良いに決まってるだろうが」
 にんまりと笑ってそう言うバラゴに釣られ、皆も一緒に笑い出していた。

 穏やかに……本当に平穏に過ぎていく日々。
 心と体が癒され、満たされていく。
 エイジュは花冠に手を添えながら、指先を胸にそっと当てていた。

 小さな痛みが……『あちら側』が伝えてくる。
 そろそろ別れの時だと。
 ノリコの怪我は、だいぶ良くなってきている。
 もう薬草も必要ないだろう、後は自然に治癒するのを待てば良い。
 歩く練習も始めた――身の回りのこともそれなりに、出来るようになってきた。
 もう暫くすれば、ちゃんと歩けるようになるだろう。

 ――もう直ぐ……あたしの必要は、無くなるわね……

 別れ……それは、初めから分かっていたこと――だが、分かっていても尚、寂寥感が胸を襲う。
 このまま、彼らが左大公やイザークたちと行動を共にするのであれば、いずれまた、どこかで共になる日が来ることも分かっているがそれでも、物寂しさは拭えない。
 
 ――このままずっと、一緒に行くことが出来たなら……

 楽しく、心豊かに満たされる日々も、ずっと続くのであろうが……
 それが……決して許されないことだということは、エイジュ自身が一番、良く分かっていた。

          ***

 笑い声の中、ノリコは視界の端に、草原を歩くイザークの姿を捉えていた。
 優しく吹き流れる風に、漆黒の長い髪を靡かせ、その手に無造作に花束を持ち、歩み寄ってくる。
 ノリコの瞳は自然と、彼の姿以外、映さなくなってゆく。
 彼も――イザークの瞳も同じように、彼女以外の姿を映してはいなかった。

「薬草がいくつか見つかった。乾燥させて粉にすれば、携帯薬が出来る」
 イザークはそう言うと態とであろうか……とても薬草『だけ』とは思えない花の束を、草原に座しているノリコの膝の上に少し荒っぽく、置いていく。

 ――わ……いい香り……

 揺れる花弁から漂う香りに、ノリコは思わず、花束を両の手で持ち直していた。
「何が何に効くのか、帰ったら説明する……ノリコ、あんたも覚えておいた方がいい」
「え? あ……うん……」
 その行為とは裏腹の、優しさもへったくれもない言い方……
 ノリコは彼の一挙手一投足に、ついつい振り回され、戸惑ってしまう。

 ――そ……そーだよね
 ――イザークがキザに、花くれるなんてまね、するわけないもんね

 そう思いつつも、彼に好意を寄せる者として多少期待してしまうのは、致し方のないところだろう……

 ――ああ、ホントに…………
 ――イザークってば、何も言ってくれない
 ――今までと全く変わらない態度で
 ――色々親切に世話焼いてくれるけど……
 ――どこか突き放してる

 ――どう思っているんだろう……
 ――あたしの言ったこと……あたしの、やったこと……

 イザークがくれた花束を胸に抱き、漂う香りに身を任せながら、ノリコは群れ咲く花々をぼんやりと見詰め、傍らに立つ、彼の気配を感じながら、想いを馳せていた。

 一言訊いてしまいさえすれば、あの時のことを思い返す度に、じたばたしなくても済むようになるのだろうが……
 今は、その勇気はなかった。
 怖くて、とても訊ねる気にはなれなかった。
 訊ねたことで――確かめようとしたことで、こうして傍に居られなくなってしまったら……
 返事を求めたことで、もしも、彼が離れていってしまったら……
 そう思っただけで、言葉など、出てこなくなる。

 彼の想いを聞きたい……そう思う反面、最悪の言葉を耳にするのを恐れ、『聞きたくない』とも思う。