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自分らしく
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彼方から 第三部 第一話

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 このまま、一緒にいられるのなら――と、消極的な方へ流れてしまう自分が、少し情けなくも思えた。

          ***

「なんだかなー、女の子に花束渡しながら、薬草だの覚えろだのはねーだろーが」
 バラゴの声に、イザークはふと、眼を上げた。
「ほら見ろ、おれだって、こういう花の愛で方知ってんだぜ?」
 笑顔でそう言いながら、自分の頭を指差すバラゴ。
 その頭には、先ほどの花冠がまだ、乗せられている。
「ん?」
 と、自分の方に顔を向けたイザークによぉ~く見えるように、バラゴは花冠を指差したまま、上半身を屈めていた。

 ――は……はなかんむり……?

 あまりにも意外性のあるバラゴの行動に、イザークはただただ、彼の顔と花冠を見やり、何と言葉を返せばよいものか、どう反応してよいものなのか――と、頭の中で判断に困っている。
 故に……
「おい、固まってるぞ」
 と、アゴルがイザークを指差しながらバラゴにそう言うこととなり、その後ろでエイジュが笑いを堪えていた……

「似合わねぇか?」
「あ……ああ……」
 バラゴに問われ、少し躊躇いつつも、素直に頷くイザーク。
 つい、彼の背後にいるエイジュの方にも眼が行ってしまう。
 同じように花冠を被っている者がいれば、当然、見比べられてしまうもの。
 バラゴはエイジュを一瞥した後、
「そうか……おまえがそう言うなら」
 と……今度はやけにあっさりと、頭上から花冠を取っていた。
「なんか、さっきとえらく態度が違うな」
 バラゴの態度の差に、アゴルが少しムッとしてそう言ってくる。
「そりゃあおまえ」
 アゴルをちらりと見やった後、
「おれの運命はイザークに預けてるからな」
 バラゴはそう言いながらお手製の花冠を胸に抱き、
「忘れもしないザーゴの城、こいつに関わったばっかりに、ナーダを裏切り、共に逃げねばならない道を選んでしまった……おかげで職も、これからの行く当てもないときた」
 と、あらぬ方を見詰め、厳粛な面持ちで語り始め、
「この上は、切っ掛けになったイザークに、おれのこの先の行く末を全て、任せることにしたんだ」
 そう、締め括った。
「え……」

 ――おれと、関わったばかりに……?
 ――おれが、バラゴの人生を変えてしまったのか……

「…………」
 返す言葉がなかった。
 彼の言う通り、もしも、自分と関わらなければ、バラゴは恐らく、今でもナーダの近衛として、あの城にいることが出来ただろう。
 それが、バラゴにとって良い人生なのか悪い人生なのか、今判断することなど出来ないが少なくとも、職を失うことも行く当てがなくなることもなかっただろうし、ましてや、化物と戦う羽目に陥ることもなかっただろうことは確かだ。
 己の行動一つ、判断一つで、関わった人間の人生を変えてしまったのかと思うと、そんなつもりなどなかったが故に余計に、重く感じてしまう。
 次第に俯き、腕を組みながら片手を口に当て、考え込むイザーク。
 そんな彼の様を見て、アゴルが『そんなこと言ってどうする』と眼で訴え、エイジュが『あらあら……』とでも言うように小さく溜め息を吐いてくる。
「冗談だ……責任感じて悩むな」
 まさか、本気で悩むとは、バラゴも思っていなかったのだろう……
 少し反省しつつ、イザークにそう言っていた。

          ***

「やるよ、ジーナ。ノリコはイザークから花束貰ったからな、やっぱ花は、女の子が似合うぜ」
 バラゴがそう言いながら、彼女の小さな頭に花冠を乗せてやる。
 だが如何せん、頭の大きさが違い過ぎたのだろう。
 バラゴの花冠はジーナの頭から首までずり落ち、きれいな花の首飾りとなってしまっていた。
 彼は少し歩き、空を仰ぐと、
「おれは今、非常に解放された気分なんだ。なんかなー、今まで自分で自分を縛り付けてたようで……」
 草原を渡る風に吹かれ、清々しい笑顔を見せながらそう言いだした。
「ま、暫くは、成り行き任せで、おまえらにくっついて歩こうかと思ってるがな」
 イザークやアゴルを見やるバラゴの表情は柔らかで、ナーダの近衛だった頃の彼とは違い、落ち着きと余裕が感じられる。
 それは恐らく、『自分で自分を縛り付けていた』……その柵のようなものを、自身で断ち切ることが出来た為であろう。
 元より豪胆で、大らかな気質も、助けとなっているに違いない。
 イザークは彼の言葉に、何事かを思案するかのように、静かに耳を傾けていた。
「おれもだ。これと言って、行く当てがないしな」
 バラゴのくれた花冠(首飾りとなったが)に手を添えて見詰めている、娘ジーナを見やっていたアゴルは、そう言いながらイザークたちに眼を向け、同意を示す。

 ――本当は……
 ――イザークとノリコ
 ――この二人を見張り続けるために

 ――二人の動向が気になる、今は……

 今、思い悩んでみても答えなど出はしない事柄は、後回しにしてしまったと、そう言ってしまえばそれまでだが、アゴルはそれで良いと、そう思っていた。
 白霧の森で、エイジュに言われたあの言葉のお陰で、とりあえずは前に進めている……そう思える。
「まっ、こっちにも占者のジーナがいた方が、何かと便利だ。ガーヤ達の行く先には、もっと立派な占者が待ってんだしな」
 ふと、エイジュと眼が合い、アゴルは少し、口の端を歪めた。
 彼女もそれに返すかのように、軽く、微笑んでいる。 

 行く当てがないのはバラゴたちだけではない。
 イザークやノリコも同じだ。
 帰る場所も、目的地も……在りはしない。
 重なった偶然の出会いに誘われ、共に危険を潜り抜け、その経験が故に、暗黙の裡に一緒に行動することとなっているに過ぎない。
 今は――それで構わないと思ってはいるが……
 だが…… 

 ――行く先……そんなものよりもこの先、どうすれば良いのかすら、おれには……

 考え出すと、足が止まる。
 どうにも、身動きが取れなくなってゆく。
 ノリコのこと――そして、己のこと……
 バラゴやアゴルたちとは明らかに違う……それが分かるが故に、『先の話し』を彼らと同じようにすることが出来ない。
 答えが見つからない……それ故に……
 
 アゴルたちの言葉を耳に留めながら、焦点の合わぬ瞳を草原に向けていたイザーク。
 やがて、ふと、振り向くと、
「ノリコ」
 と、彼女に手を差し伸べた。
 呼ばれ、顔を上げるノリコに、
「そろそろ帰るぞ」
 そう言うと…………

 ――うきゃっ!

 ひょいと、ノリコを軽々と抱き上げる。
「イ……イザーク、イザーク――あの、あのっ」
 いきなり皆の前で抱き上げられ、恥ずかしくて声を上げるノリコ。
「歩ける、あたし。さっきも、ちょっと歩いた」
 降ろして欲しくてそう訴えるが、
「馬車まで少し坂道になっている。しばらく、無理はしない方がいい」
 イザークはにべもなく、ノリコの訴えを却下していた。
「う……うん」
 イザークの、言葉と態度の違いに、ノリコはどうしても戸惑ってしまう。
 今までだって、イザークは素っ気ない優しさを示してくれてはいた。
 でも今は、その言葉と行為のギャップが、激しい気がする……