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自分らしく
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彼方から 第三部 第一話

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 信じられないという面持ちで訊ね返してくるノリコに、ジーナはゆっくりと瞼を開けると、彼女の方を見やりながら、コクンと、頷く。
「ああ……剣を振ったと同時に、剣先に集められた彼女の気が飛ばされ、弓なりに広がり、まるで、刃のように……」
「…………凄ぇな」
 倒された木を見詰めたまま、イザークが分かりやすく説明してくれる。
その言葉に、軽く口笛を鳴らしながらも、バラゴの表情は硬かった。
 アゴルも、飛ばされた『気』が見えたわけではないが、『何か』が、放たれたというのだけは分かった。
 遠目だが、彼女の気の刃に切り倒された木が、かなり太いものであることは容易に分かる。
 一体、どれだけのエネルギーを刃に変えれば、あれだけの太い幹を、難なく切ることが出来るのだろうか……
 それを考えると、エイジュの能力の底知れ無さに、少し――恐怖を感じる。
 イザークも恐らく、同じようなことを考えたのだろう……ゆっくりと振り向く彼女を見る眼が、心なしか、険しくなっているように見える。
「あなたなら、やって見せなくてもいずれ、習得する技だとは思ったのだけれど……餞別代りというのと、『こういうことも出来るのよ』っていう、ちょっとした自慢……と言ったところかしらね」
 剣を鞘に納めながら、エイジュはいつもの笑みを浮かべてそう言ってくる。
「そうか……参考になった」
 エイジュの笑みに、イザークはそう言って、口の端を歪めただけの笑みを返していた。
「なんだよ、それだけか? やり方とか、教わっとかなくていいのか? もう行っちまうんだぞ? エイジュは」
 イザークの反応の薄さに、代わりにバラゴが少し焦ったようにそう言ってくる。
「ああ、問題ない」
「そうね、あなたなら、大丈夫ね」
 本当に何の問題もないかのようにそう言って頷くイザーク。
 エイジュも、それがごく普通であるかのように頷いている。
「マジかよ……見ただけで出来るってのか?」
 『信じられねぇ……』とでも言いたげな表情で、バラゴは二人を見やっていた。

「それじゃあ、もう、行くわね……」
「うん……元気でね、エイジュさん。また――どこかで会えるといいな……」
 握手を交わし、彼女の手を両手で包み込むようにしながら少し強く握り締め、ノリコは心から願い、そう呟く。
「ありがとう、ノリコ……」
 また、潤み始めるノリコの瞳を困ったように見詰めながら、エイジュは彼女から手を離し、今度はバラゴに握手を求めた。
「あなたの意外な器用さに驚かされたわ、それに、外見に似合わず、よく気が利くところもね」
「外見に似合わずってのは余計だろォ?」
 エイジュの誉め言葉にニヤリと笑みを見せ、バラゴも握手に応じる。
「ノリコじゃねぇが、本当にまた、どこかで会えるといいな」
「フフッ、ありがとう」
 小首を傾げ、笑みを返し、イザークへと握手を求めに行く。
 イザークも快く握手に応じ、
「餞別、有難く使わせてもらう……」
 彼女の瞳を真っ直ぐに見詰め、感謝を籠めるように彼女の手を握っていた。
「あなたなら、すぐに使い熟せるようになるわ……この先も、左大公方と一緒に行動するつもりなら、きっと、役に立つだろうから……」
「ああ……」
「それじゃあね」
 エイジュはそう言ってイザークから手を離すと、馬に跨り、皆を見回す。
 名残惜し気に、暫し、自分を見上げる三人を見詰めると、
「本当に、気を付けて……息災を祈っているわ」
 エイジュは優し気な笑みと共にそう言い、
「それじゃあ、途中まで一緒に行きましょうか」
 と、ジーナと共に馬に跨っているアゴルに声を掛けた。
「ああ、では行こうか」
 二人は馬を街道に繋がる道へと、進ませる。
「さよならーっ、エイジュさーん!」
「あんたも気を付けてなーっ!」
 遠くなってゆく馬上の背に、バラゴとノリコが手を振りながら声を掛ける。
 軽く、手を振り返してくれているエイジュ。
 カルコの町での別れが、脳裏に蘇ってくる。
 ノリコは思わず、後を追うようにニ・三歩踏み出しながら、見えなくなるまで手を振り続けていた。

「行っちまったな……」
「ああ……」
 小さく息を吐き、誰に言うともなく言ったバラゴの呟きに、イザークは短く応じ、まだ、エイジュの影を探すように、道の先を見詰めているノリコの背を、少し心配そうに見詰めた。
 ノリコは、二人に背を向けたまま涙を拭うと、肩から力を抜くように小さく息を吐き、
「また、会えそうな気がするね」
 振り向きながらにっこりと笑みを見せ、そう言ってくる。
 ノリコのいつもの元気な笑みに、バラゴとイザークも、自然と笑みが零れる。
「ああ、そうだな」
「ま、先のことは分かんねぇけど、そうだといいな」
 二人はそう返しながら踵を返すと、
「よし、馬車の点検の続きを始めるか、イザーク」
「ああ」
 馬車へと歩き出し、
「あたしも、お掃除しておかなくちゃ」
 と、ノリコも二人の後ろを追うように歩き出した。

 ふと、立ち止まり、振り返るノリコ。
 もう誰もいない道を――その行く先を見やりながら、

 ――本当に、また会えそうな気がする……
 ――きっと、すぐに……また……

 そう思っていた。

「どうした、ノリコ」
「あ、ううん。何でもない」
 ノリコの気配が動かないことに気付き、怪訝そうに声を掛けてくれるイザーク。
 彼女はにっこりと微笑み返すと、小走りに家の中へと戻っていった。

          ***

「この道を行けば、グゼナの港の方に出るそうだ……何日かかるかは分からんと、町の人には言われたがな」
 町へと続く街道の分岐点。
 アゴルは東へと向かう道を指差し、エイジュを振り返った。
「そう、ありがとう……じゃあ、ここでお別れね」
 長く、果てしなく続く道を見やった後、エイジュはアゴルに握手を求め、手を差し伸べる。
「…………」
 アゴルは、差し伸べられた手を見詰めるだけで、握手に応じようとしない。
「どうか……したのかしら?」
 何か言いたげな面持ちのアゴルに、エイジュは握手を求めた手を引くと、そう訊ねていた。
 彼女の問い掛けに視線を合わせるが、どうしたものかと思案しているのだろうか、アゴルは、口を開こうとはしない。
 エイジュは、軽く溜め息を吐くと、『仕様がないわね』とでも言うように片眉を潜め、更に訊ねていた。
「何かあたしに、訊ねたいことでも? ――例えば、『あんたは一体何者なのか』……とか、かしら?」
 と……
 ピクリ――と、アゴルの体が反応する。
 エイジュの問い掛けに何も返さない父を、ジーナが怪訝そうに見上げ、首を傾げている。
 暫し、見据え合う二人。
 だが、その沈黙も長くは続かなかった。

「そうか……」

 先に、口を開いたのはアゴルだった。
「気付かれていたのか」
 そう言って、自嘲を籠めた笑みを見せてくる。
「そうだな……確かにあんたが何者なのか、気にはなっていた――本当に、アイビスクの臣官長から依頼を受けただけの、ただの『女の渡り戦士』なのかどうかと……」
 自分が抱いていた疑念を口にしながらエイジュを見据えるアゴル。
 その瞳には、元傭兵らしく、鋭い光が宿っている。