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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
novelistID. 41661
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CoC:バートンライト奇譚 『猿夢』 上

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「そこでようやく流石にまずいと思うわけですよ。そう間を置かずに、『次は~ひき肉、ひき肉』。そして見ると……いつの間にか、件の小人どもが膝に乗っかってるんですよ。彼らの手に握られていたのは、ナイフなんて生易しいモンじゃあない。ウイーンと言う音がする機械――肉裂き機、挽き肉マシンとでもいうべき代物ですわ」

「そんな道具があってたまるか……」

 一連のグロテスクな話に、バリツは顔をしかめ、呟く。
 一瞬の間を置き、続ける。

「このままではシャレにならない事になるわけで。『もう無理だ! 十分だ!』 ……念じた瞬間、彼は目を覚ます事が出来た」

「……な、なんや、最後はあっけないやん」
「その気になれば目覚められる、というのはあながち過信ではなかったみたいだね」
「それで終わりではなさそうですね」

 タン、バリツに続き、バニラが言葉を挟む。

「ご明察。この話には、2つの続きがあるんでさァ」

「二つやて……?」

「まず一つ目。四年後ね、すっかり夢の事を忘れていた彼はある晩、再び同じ場面に出くわすんです。以前の如く……『えぐりだし』のアナウンス。もちろん、もうあんなのはこりごりだと、始まった瞬間目覚めようとする。ところがどっこい……」

「目覚められなかった、と」

「その通りでさあ、バニラさん。その日に限ってね」

 話が新たな不穏の色を帯びてきた中、ふとバリツは違和感を覚えた。

 一番口を切りそうな斉藤が、先ほどからずっと押し黙っている。
 寡黙な雰囲気のバニラですら、言葉を挟んでいるというのにだ。

(怪談話に怖気づくような気質には思えないが……純粋に聞き入っているというのだろうか?)

 塵芥川の話が続く。

「――目の前に挽肉にする様な機械の音がどんどん近付いて来た。覚めろ! 覚めろ! ……必死に念じていると、ふっと当たりが静かになった。冷めやらぬ緊張の中――気がつくと、彼はいつもの布団の上にいたんです。滝汗に濡れてね」

「生還したんやないか」

 まるで自身のことのように安堵した様子で、タン。

「よかった逃げられた! そう確信し、起き上がろうとする。途端、不思議な声を聴いたんです――『またのご乗車を、お待ちしております。次に来たときは最後ですよ』とね」

 塵芥川は、灰皿に煙草を押し付けた。
 タンはあんぐりと口をあけるが、言葉が出てこない様子だった。

「ちょっと待った」

 とたん、斉藤が机を平手で叩いた。
 何事かとそちらを見やった一同は、斉藤のとんでもない発言を耳にした。

「その電車を作ったのは俺だ!!!!」

 沈黙。唖然とする一同。

「え」バリツ。
「は?」タン。
「何だって?」バニラ。

「……ほう!」塵芥川だけは目を輝かせる。

「あー……あの、斉藤君?」あまりに唐突な話に、バリツは確認する。
「電車というのは、さっきの話のアトラクションめいた電車のことかね? 都市伝説の?」

「間違いねえぜ。夢に小人が……猿たちがでてきて、一緒に電車を作ってくれといわれたんだ」

「猿、ですかい?」

「ええ。あいつら超いい奴らで、なんだか意気投合しちゃって。何の疑いもなく着手しちまいました」

 あまりに唐突な、あまりに突拍子もない話である。どこから突っ込んだものかも分からない。
 だが、斉藤の口ぶりは、嘘を語っているようには全く思えなかった。むしろ真剣そのものだ。塵芥川の話を茶化そうとしているわけではないことが見て取れる。それにしてもやはり、どこから突っ込んだものかわからないが……。

「マジかね……」
「つか、猿と同類と認識されたんかいな……」

「電車はまさに、夢に出てきたような形状なのかい?」

 呆れ返る二人を尻目に、冷静にバニラが尋ねた。

「そうなんだよ。ホラー系のアトラクション電車だ。こいつは偶然とは思えねえ」
「そもそも斉藤は、陶芸家ちゃうん? 畑違いやんけ」
「いやーそれが、何だか夢の中ならできる気がしたんだよ。なんかこう、材料とか、設計方法とかも、とんとん拍子に事が運んでさあ」

「まるでギャグのような話。といいたいところだが……」
 バリツは腕を組む。
「斉藤君は嘘をつくような男ではない。根拠はないが……偶然ではないのかもしれない。芥川くんの話とも、あるいは因果関係がある……のかもしれないな」

 とはいえ、どうしても歯切れが悪くなってしまう自覚があった。
 斉藤はバリツの腕をつかみ、おもちゃをねだる子供めいて揺さぶる。

「いや~マジなんだって、バ~リ~ツ~!」
「う~、嘘をついているとは、全く思っていないが、あまりにも予想だにしなかった話であるから~、ネ……」
「ま、何にしても、面白い話でさ。へへ。偶然にしても何にしても、何かの縁って奴なのかもしれませんねえ」
 そして塵芥川は、意味深に独りごつ。
「――これはさっそく一つ、大きな収穫なのかもしれませんねえ」

「……どういうことかね? 芥川君。私達と何の関係が?」

「言ったでしょう? この話には続きが二つ。まだもう一つの続きがありましてね――」

 塵芥川が一瞬の間をおいたその時、バニラが口を切る。

「――『この話を聞いた人も、同じような夢に巻き込まれる』。ってところですか?」

 塵芥川はニヤリと笑みを浮べる。

「……ご明察」

「え、ちょ、きさま~!」
「マジかよ~!」

 バリツとタンは、そろって動揺を露にする。
 都市伝説とはいえ、内容が内容だ。例え怪談話にインパクトを添えるスパイスであったにせよ、縁起でもない。
 旧友の行いを咎めるように、バリツは問う。

「いったいなんでこんなことを~!」
「まあ、単刀直入に言って、ネタに困ったからきかせさせていただきやした」
 特に悪びれた様子もなく、塵芥川は言ってのける。
「もしも何か面白いことが起こりやしたら、記事の参考にさせていただきたくなりやしてね。へへ」

「軽く言うがねえ、芥川君――」

 呆れ返る中、バリツの脳裏にふと、ひとつの体験が過ぎった。
 約二ヶ月前の体験。「尾取村」での怪異。

 謎の神を呼び出す野望を秘めた村長の儀式により、自分とタン、斉藤、そしてトンデモ少女アシュラフは、山奥の「尾取村」に召喚された。何の前触れもなく、生贄として選ばれて。
 結果的に、どうやら自分達は「神」の光臨を阻止し、五体満足で帰還できたわけではあるが、危ない橋を渡っていたことは間違いなかった。

 今回の怪談話と尾取村での体験を絡めるには、突飛ではあるのかもしれない。
 だが、バリツは思わず、たずねてしまう。

「……それで我々の命の保証は?」

 きょとんとした様子で、塵芥川は答える。

「まあ私は人づてにこの話を聞かされても大丈夫でしたし? 残念ながら……」
「残念なのかね」
「まあ、安心してくだせえ。へへ。仮に何か起きたとしても命まではとられんでしょう」

「塵芥川さん。その話は誰から聞かされたんです?」

 バニラが鋭く問う。
 確かに見逃せない質問事項だ。
 その判断力に、バリツは舌を巻いた。

「他の知り合いの新聞記者から聞いた話ですわ。調べれば似たような話はよくでてきやしたぜ」

 バリツは旧友の表情を観察する。