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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
novelistID. 41661
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CoC:バートンライト奇譚 『猿夢』 上

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2、怪異を語らう



「ほんっとすいやせんでした! ええ、その、発作みたいなのが一瞬起きちゃったみたいでしてね。へへえ。もう大丈夫でさぁ、ほんと申し訳ないことで!」

 タンを横に並ばせ、バリツが店員に謝罪する傍らで、塵芥川も共に頭を下げてくれた。

 一同は程なくして、慌しく店を後にすることになったが、支払いは塵芥川が全て受け持ってくれた。バリツは旧友に立替を申し入れるが、彼はそれをはっきりと断った。
 
 既に夕刻にさしかかる頃であった。 
 足早に店を後にし、いくつかの角を曲がったところで、一同は塵芥川と分かれる形となった。
 彼の仕事場は、ここからほどない場所であるようだ。

「すまなかったな、芥川君」
「いいんですよ、バリツ君。ま、なににしても。改めて食事でも致しやしょう」

 塵芥川の下卑た笑みが、今は慈愛に満ちたものにすらバリツの目には映った。
 本人は別にそこまで深く考えてはいないのだろうが。

(彼はうさんくさい男だが、本来いい奴なんだと改めて思い知らされるものだ……)

 バリツは思う。まあ、次にチュパカブラが云々の記事への寄稿を頼まれたら断るかもしれないけどネ……。

 両手をポケットに突っ込み、猫背で歩き去る塵芥川の後姿を見送り、一同は駅へ向けて歩き出す。
 
「にしてもタン君」バリツは改めて助手を見やる。
「芥川君に感謝したまえよ」
「そうだそうだっ」
 斉藤も同意の声を上げるが、タンはムスッとした様子で答える。

「子供扱いすんなし。そりゃあ塵芥川さんには感謝するんは当然やけどさ、マジでなんかいたんだよ~……」

 あのハプニングの直後、彼は「テーブルの下に何かがいたんや!」と主張して止まなかった。バリツと塵芥川が共に謝罪したのは、(塵芥川の隠れた人徳によるところも大きいが)流石に店員を巻き込むわけには行かなかったので、半ば彼を黙らせる目的も兼ねていた。

 尤も、タンの必死具合を見て、実際のところバリツは疑う気にはなれなかったが……。
 バリツはいったん、口をつぐむことに決めた。
 
 塵芥川が指定した喫茶店は、最寄り駅からかなりの距離があった。
 まだもうしばらく歩く必要があった。

 傾きつつある夕日が、空を茜色に染め始めていた。
 都心ではあるが、古びた小ぶりな建物が立ち並ぶ街路。
 帰宅ラッシュに近い時間のはずだが、すれ違う人も、車も、あまりにまばらであった。

 アスファルトを代わり代わりに打つ、四人の不ぞろいな靴音は小気味よかったが、バリツは一同に確認したいことがあった。

「先ほどの話――どう思う?」
 口を切り、訊ねると、斉藤が始めに答えた。

「いやー、まさか夢が現実とリンクするとは思わなかったぜ……」
「まあ思わないよネ。我々もビックリだが……」
「それに、夢の中の話とはいえさ、俺は基本土木しか扱わないから、金属ははじめてだったんだよ」
「それでも造れたのはすごいな」
「夢の中ならなんかイケる気がしたんだよ~。そんでもって実際できちゃってた」
「そんでもって実際できちゃってたのノリで作れるのだから、すごいよネ……」
「まあ、猿たちが手伝ってくれたのが大きいけどな。アトラクションの電車だから、俺らが普段乗るのよりも小柄だしよ」

 夢の中で、「猿」たちに依頼され、彼らの力も借りながら、怪奇を引き起こす電車を造った。
 ――こちらも日常では想像し難い事象ではあるが、喫茶店で彼が語った話が偶然とは思えなかった。 

「その猿電車を造ったあとどうなる、という話は聞いていなかったのかね」
「いやー、詳しくは。ただ、なんか『きょうき』いっぱいのアトラクションになる。とかって話だった気がする」
「それってどっちの『きょうき』や? 凶暴の凶? 発狂の狂?」
「両方じゃね? 凶器に狂気」

(まあだろうな……)
(ホンマか……)
 無言の感想を湛えたタンとバリツは、顔を見合わせる。 
 その時、バニラが口を切った。

「そんなイカれた品物なら、例えば、非常停止ボタンとか、自爆スイッチは設定していないのかい?」
「ああー自爆スイッチは俺の趣味だったんだけど、猿に止められちまったんだよ」
「趣味。 ……ともかく、非常停止ボタンは?」
「そっちもだ。あの猿頭が良くてよ~。中卒だからあいつにかなわねえんだよ」
「そういう問題なのかネ、斉藤君……」
「猿と言うのは、塵芥川さんが語っていた都市伝説の小人に当たると仮定して……」バニラは顎に手を当てて、何かを思考した。
「――斉藤。何の見返りもなしにそんな電車を造ったのかい?」

「まあ金銭的な報酬はなかったなあ。夢の中だからまあいいかとも思ったし……報酬が面白い形だったんだよ」
「それはどんな?」
「もし協力してくれたらあなただけは巻き込みません、とかって話だったんだよ」

 バリツとタンのみにとどまらず、今度はバニラも参加して顔を順々に見合わせ、

(ええ……?)
(どういうことや……)
(なんだいそれ……)
 
 またも無言の感想を共有し会う。
 ……あのクールなバニラの呆れ返った表情を、バリツは初めて目撃した。

「そもそもであるが――何故陶芸家である斉藤君に猿達は依頼を持ちかけたのだろうな?」
「わからねえ。でも、『同胞だ! 同胞がいたぞ!』とかやたらと皆で大喜びしてたなあ」
「やっぱり同族認定されてるやん……」
「よくわからなかったが、まあ俺も悪い気分はしなかったぜ。そんでもって、実際造れちゃったわけだがよ」

「ともあれ――ただでさえ胡散臭い猿。正体をつかめない猿……」
 バリツは唸る。
「何を考えているのかわかったものではないな」

「たださあ~、ちょっと弁解させてくれよ」
 斉藤は両手を広げ、言葉を継ぐ。
「猿たち、すげ~いい奴だったんだよ。なんかお茶は出してくれるし、お菓子も出してくれるし。あの都市伝説の内容は確かにおっかねえけどよ、あくまで夢ん中のことだし、本当に死人が出てるわけじゃないだろ?」

「言われてみれば、確かにそうだな……」
 バリツは腕を組み、同意する。
 夢の中で人が死ぬ――物騒な話ではあるが、夢とあらば、都市伝説でなくとも経験して不思議ではない。夢占いでも該当する項目がある程だ。

「まあとはいえ、あの都市伝説の話を聞いてると、思ってた以上にバイオレンスな気はするけどなあ。それに、あんな形で流布されるなんて、聞いたこともなかったしよ……」

「アレやな」タンが口を切った。
「わからんけど……例えば、お前さんと猿達の造った電車を利用してる黒幕がいたりするんとちゃう?」

 彼の発言は、根拠のない思いつきにすぎなかったのだろう。
 だが、斉藤はそれでハッとした様子であった。

「ありえるな! つまり俺達の作品を誰かが悪事の為に使っているというわけだな! 許せねえ!」そしてバリツに向き直り。
「なあバリツ! 確か、あの話を聞いたんなら、俺たちも巻き込まれるかもって話だったよな!?」
「へ? え? あー、うむっ……」
「上等だぜ! なんならその夢の先で、黒幕ってやつをぶっ飛ばしてやるぜ~!」

「んー、だけど」
 ヒートアップする斉藤に対し、沈黙していたバニラが冷静に突っ込む。