CoC:バートンライト奇譚 『猿夢』 中
バリツもお守り感覚で十得ナイフを携行してはいたが、それ以上に抜け目のない装備であった。
「まあ……あの錠は正規の鍵がないとあけられそうにないよ」
「お前さんすげえな」
「ところで、そもそも二人で探索したというコインロッカーは、全く開けられなかったのかね?」
「開く扉は一つもなかった……と思うで」
「いやタン。全部正確にはみてないよ」
「せやった……」
「まあ実際、ピッキングを試みてもよかったけれど、一つ一つやるのは効率が悪いと思ってさ。ところで、二人はどうだった?」
続いてバリツと斉藤が共有する番だった。
券売機と路線図。
男子トイレの、脳がなかったにも関わらず動き、言葉を発した男性。
その死体が持っていた「87」の番号が記された鍵。
尤も重要ともいえるのは、女子トイレの猿「エリック」と、彼がもたらした数々だ。
人間界へ至る電車が来るということ。ここにまだ他の猿が潜んでいるということ。
そして。
「エリックから渡されたんだ。なんかペンチっぽい感じもするんだけど、ちょっと違う気がするんだよなあ」
斉藤は、エリックが暴走する直前に渡されたという道具を皆に提示する。
見た目はペンチに似ていたが、先端部分は異なっていた。
「これアレやな。改札鋏やな」
バリツの助手としてフィールドワークに参加し、邸宅では営繕を担当するタンが真っ先に反応する。
「そのようだな。私も使ったことはないが、民俗学研究の一貫で目にする機会があった」
「でも駅員がいるわけでもあるまいし、何に使えばええんやろ?」
「あの幼女の探し物じゃないかな?」
「なるほど! そうか!」
今も駅のホームで眠っているのだろう謎の幼女のことを思い出す。
はさみをさがしています――彼女が有する看板に、そのようなことが書かれていたではないか。
タンが興奮気味に提案する。
「せやったら早速いこうや!」
「いや、それはまだ早計ではないか?」
バリツは制止する。
「実際のところ、あの子は無条件に頼るわけにはいかない気がするのだ」
「無条件ちゃうやん。ハサミっぽいのは手に入れたやん?」
「それはそうだが……彼女の探し物と思しきアイテムを手に入れたとしてもだ」
「バリツの直感もわからんでもないぜ」
「んー、何にしても、まずはコインロッカーを調べてみたいかな。バリツが持っているその鍵は、恐らくコインロッカーのものだと思う」
「しかしバニラ君。見渡す限り、100の位の番号ばかりであったようだが?」
「見渡す限りはね。でも、一つ一つを精査したわけではないから、見落としがあるかもしれない。タンと分担してたし」
「もしかしてワイ、馬鹿にされてる……?」
「とにかく、バニラの言うとおり、まずはロッカーか?」
「まあアレやな……まだ実際詰んではいないか」
タンはしぶしぶながら、三人の意見を了承した。
コインロッカーは、彼らが振り向いたすぐ近くに面していた。
作品名:CoC:バートンライト奇譚 『猿夢』 中 作家名:炬善(ごぜん)