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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
novelistID. 41661
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CoC:バートンライト奇譚 『猿夢』 中

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 そこからほんの5メートルの距離に、毛むくじゃらの後姿。

 タンと猿の目が、完全に合っている。
 悲鳴を上げることもできず立ちすくむタンの目前で、猿が抱えるマシーンが、唸り声を上げた。

 サルが今にも飛び掛らんと、雄叫びをあげた。

「ストーーーーッップ! ストップストップストップトップトプ!!!!!」

 早口言葉のように(もはや後半は舌がもつれまくっている!)まくし立てながら、猛然たる速度で追いついた斉藤が、猿の前に飛び出した。
 タンを背中に庇うような形だ。バリツはとっさに、トイレ脇の柱に隠れ、ハラハラと見守る。

「ナンのつもりだ斉藤!!」
「え、エリック! 落ち着くんだ!」
「止めてくれるな! ヤツは人間だ! 殺して挽き肉! ヒキニク! ヤキニク!」
「あ、あいつ! 新しい猿! ミカタ! ミカタのミカタはミカタ! トモダチ!」

(なんつう無理のある言いくるめだー!!)

 ツッコミたくて仕方がなかったが、斉藤の必死さは本物だ。
 猿は恐ろしい勢いで、まくし立て続ける。

「いやドウみても猿じゃないだろ!」
「ノー! ノー! アイツは猿! フレンド! 新種! ニンゲンに化けることがデキル猿!」
「逆だ! ヤツは猿に化けた人間に違いない!」
「ノー! ニンゲン! アイツ猿!! モンキー!!」

 猿――エリックが甲高い吠え声を一つ上げた。
 斉藤にさえ飛び掛りかねない勢いだ。
 
「――ならば仕方がナイ! 斉藤、ヤツの始末は任せるゾ!」
「え、お、オレ?」
「仕留め損なったら許さんゾ! オレはやることがあるんだ! 作業に戻るからな!」

 斉藤のことはかろうじて認識できているが、丸きり人格が豹変しているように思えた。
 こちらへと戻らんと振り返りかけた猿の姿を見て、バリツは慌てて柱の裏に身を縮める。

 ぺたぺたとタイルを叩く足音がだんだんと近づき、間近に迫り――
 女子トイレの中へと吸い込まれていった。

 バリツは深く息をついた。へなへなと、全身の力が抜けていく気がした。
 だが、まずは状況を確認せねばならない。

 タンの元へと向かうと、斉藤が彼に詰め寄り「お前馬鹿じゃねえの!?」と怒鳴りつけている。ここまでストレートに怒る斉藤も珍しい。

「な、な、何で猿がいたんや……てっきり誰もいないと思ったんや……」
 タンは放心状態から抜けきらぬ様子で、オドオドと答えている。
 遅れた様子で、駅長室近くに積み上げられたガラクタの陰から、バニラが近づいてきた。

「んー、すまん。途中からこいつが『やっぱ更に分かれるか』って言い出して、手分けして探索したんだが……無用心だったぜ」

 無用心だった。その一言には、猿がいたこともそうだが、タンの提案を受け入れたことを悔やみ、彼が大声を出したことを咎める調子も含まれているように思えた。

 バニラはどうやら、タンが大声を出した結果、猿が出てきた自体を受けて、とっさに隠れる判断を行ったようだ。非情ではあるが、生き残りを考えるならば、合理的な判断といえた。

「いや、マジでプレミッたわ~……ごめん」
「お前いつも顔真っ青にしてるなあ~」
「タン君、バニラ君。なににせよ二人とも無事でよかった」

 斉藤が猿と繋がりを持っていなければ、タンは今頃無事ではすまなかったのかもしれない。 
 だが、生き残ることができた現実は確かである。ここから切り替えていく外なかった。

「そもそも、タン君は何故大声を出したんだね?」
「ああ、せや。そこのベンチ脇でメモを見つけてさ――」

 タンはポケットから取り出したメモを、皆に見えるように広げてみせる。
 こんなことが書かれていた。

『ああ・・・ここは異界なのだ、外に出ようとしてもこんなにデタラメでは・・・私がおかしくなったのかそれとも・・・』

 文章は途中で途切れているようだった。(バニラの勧めを受け、皆で裏面を確認するが、新しい文章は見つからなかった)
 
「共有しようかと思ったんやけど……」
「なるほどな……」

 バリツは顎に手を当てつつ、一応の納得を示す。
 が。

「あのさあ、タン。ここがマトモじゃないことくらいさっきの光景みりゃわかるだろ」
「しかも大声を出したのは流石にアホじゃないかな」

 斉藤に続き、バニラも辛辣である。
 タンは煮え切らない様子でぶつぶつと答える。

「ちゃうって。このメモがあったってコトは、ここに他の人がいるってことやん。それにだってアレやん、猿がいるとは思わなかったし、所長と斉藤にもさっさと共有したかったし……」

 確かに、駅構内でこれまで行動していても、猿らしき気配はなかった。
 女子トイレの猿……エリックも、どうやら作業中はイヤーマフというべきものを装着しており、構内の音は聞こえなかった様子だ。

 結果論としては、「駅に猿はいない」と判断することは無理もなかったのかもしれない。タンの態度も全く理解ができないわけではない。

 とはいえ、そもそもここは何が潜むかわからない異界だ。ただでさえ、ここに到達する以前、猿たちによる悪夢のショーを見せ付けられていたところでもある。
 それに斉藤の機転と猿との繋がりがなければタンの命はなかった可能性が高いわけで、二人の叱責はやむを得ないのだが……。

「とにかく、ここからは大声は厳禁といこう」
「まあ所長の言うとおりやなー……」
「それに実際、タン君の言うとおり、他にも迷い込んだと思しき人をみかけたからな……」
「ホンマか?」
「尤も無事ではなかったが……」
「マジか」
「んー、ひとまずこの際、全員の情報を一度共有してしまわないかい?」
「バニラの言うとおりだな」

 かくして、互いに知り得た情報の共有を行った。

 まずはタンとバニラだ。
 彼らは一組でコインロッカーを探索していたが、いずれも施錠されていた。
 気になったのは、見渡す限りの数字が100の位で構成されており、並びもバラバラであったことらしい。

 そして――大間違いであったのだが――危険は薄いと考えたタンの提案で、途中から更に二手に分かれたらしい。
 即ち、
 ・バニラが駅長室
 ・タンは自販機とその近くのベンチ
 といった具合だ。尤もタンの大声事件は、それから間もなく起きたようだが……。

 タンは自販機周りを探るが、目ぼしいものは見つからなかったらしい。
 ただ、およそ20種類の飲み物は、よく見れば、いずれも見たことも聞いたこともないような代物ばかりであった。そもそも飲み物といえるのかすら怪しい品物だったらしい。

 そしてその近くのベンチを調べたところ、メモを発見したようだ。
 そのベンチは彼らのすぐ側にあったため、バリツも改めて検分したが、古ぼけている他は何の変哲も見受けられなかった。

 一方のバニラは駅長室を探ろうとしたが、金属製のドアは、大きな鍵穴が設けられていた。一つの田舎駅にしては大げさなほど、やらたと頑丈な印象を受けたようだ。

「ピッキングであけられないもんか?」
「んー、斉藤。試してみたんだが……」

 バニラはポケットから、小さなポーチを取り出し、開いてみせる。取り取りに煌くピッキングツールが丁寧に収められていた。