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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
novelistID. 41661
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CoC:バートンライト奇譚 『猿夢』 下

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 切りますよ? そう言わんばかりだ。

 エリックは、切符は持っているだけでも良いと話していたことを思い出す。
 少し矛盾が否めない光景ではあるが、バリツはその表情に悪意はないと感じ、進み出た。三人も、続いた。

「君は――何者なのだ?」

 バリツが問いかけるが、こちらを見上げる少女は、微かな笑みを湛えたまま答えない。
 代わりに、ちょいちょいと、掌を自身に向けて揺らしている。
 はよ切符をよこせ、ということであろう。
 
 幼女が手馴れた手つきで、人数分の切符を切ったその時、見計らったかのように、電車のドアがいっせいに開いた。

 正しい列車であると信じ、一同が乗り込むと、あの幼女が前方車両へ駆け込んでいくのが見えた。

 見間違いでなければ、何と運転席にだ。

「この電車って、確か、運転手は要らなかったハズなんだけどなあ」

 斉藤は首を傾げる。
 
 バリツたちは、車内に入ると、横一列に腰掛けた。
 皮肉にもあの悪夢の列車のときと、ほぼ同じ席順だ。

「勇敢なる者よ、現へと帰るが良い!」

 可愛らしくも、仰々しい声が、車内のスピーカーから響き渡る。
 姿は見えないが――あの幼女がしゃべったというのだろうか?

 列車が遂に、動き出す。
 ホームが移ろい行き、光が移ろい行き、間もなく、トンネルの内部へと進入する。
 あの悪夢のアトラクションの時とは、明らかに雰囲気が異なっていた。
 暗いトンネルの中、車内を照らす暖色系の明りは、不思議と優しかった。
 まだまだ疑心暗鬼の今は、違和感を覚えるほどに。

「ミ=ゴ……」
 車窓から、何も見えない外を眺めながら、斉藤が呟いていた。
「覚えたぜ……エリック。鹿児島。皆」

 仲間を殺されたことに、やはり斉藤は思う所があるのだろう。
 その小さな声には、疲労こそにじんでいたが、強い決意が秘められていた。

 やがて、バリツ自身にも、これまでの疲労が一気にこみ上げてくる。
 小気味のよい振動が、車輪を線路が打ち続ける音が、睡魔の呼び水となる。
 瞼が、どんどん重くなる。
 
 バリツはやがて、眠りについた。

 ――――。

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