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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
novelistID. 41661
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CoC:バートンライト奇譚 『猿夢』 下

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「否、斉藤。ヤツらは、オレたちのデータを下に作り上げた、純然たる殺戮機械だ。元より、オレたちを見限るつもりだったのさ。ソレにな、どうやら主は、斉藤……人間と同じ世界に暮らす猿であるオマエを認めなかったらしい」

「そうだったのか……」

 斉藤は、真剣な面持ちで腕を組む。

 他の話こそ(突拍子はないが)辻褄が合う中、先ほどから一つだけかみ合っていないことがある。猿達が、斉藤を完全に同族だと思い込んでいることだ。理屈は分からないが……。

 斉藤自身も、もはや自分は猿の同族と、どこか自らに言い聞かせている節がある。元より、豪胆な斉藤と猿には、何か惹かれあうような縁があったというのだろうか? それが、あの「尾取村」での怪異に触れたことにより、表面化したとでもいうのだろうか?
 
 仮説の域を出なかったが――ともあれ、エリックが斉藤を猿と呼ぶことについて、バリツは面と向かっては触れないことに決めた。
 形はどうあれ、斉藤と猿達の奇妙な絆に、今回は救われたとみて間違いないのだから。

 エリックは続ける。

「そんなオマエが、偶然人間ドモと共にコノ異変に巻き込まれてしまった。だがオレたちには斉藤を殺すコトなどできぬ。そこで主は、いよいよオレたちの粛清も兼ねて、新たな猿を送り込んだワケだ――」

 彼は振り返り、駅長室の前で横たわる大型種を指差した。

「それでもコストパフォーマスとしては、合理的とは言いがたい話だね」

 バニラは冷静に呟いた。
 彼は目の前のエリックへの警戒をまだ緩めていないことが、伝わってくる。だが、多くの仲間を切り捨てるという所業には、思うところがあるらしく、微かに眉を寄せていた。

「一つ気がかりなのだが――」バリツは、最後の質問を投げかける。
「トイレや駅長室にも死体があったが、あれもミ=ゴの被害者なのかね?」

「ソウいうことになるな。尤もヤツらは、強い心を持って、コノ世界に迷い込んだ存在だ。コノ領域で強い気持ちを残して死したモノは、領域内に何かしらの干渉を及ぼすコトもある。何か、オマエたちにヒントを残していたのではないか?」

 血塗れの雑誌とポケベル。
 トイレのサラリーマンが握っていた、ロッカーの鍵。
 駅長室のミイラが握っていた、メモ。

 もはや真実を確かめる術はない。
 だが、それらは――――被害者たちが最後の力を振り絞って残していったヒントだったというのだろうか?

 エリックが身じろぎし、口を切った。

「ともあれ、もはや互いに長居は無用だ。ヤツらは皆と戦った損傷を回復するために一時撤退したが、もう間もなく、戻ってくるだろう」

 ふと、エリックはタンをじっと見上げた。

「ソコのノッポは、都市伝説に触れると共に、より強く魔力に当てられてしまったようだナ。霊感が強いタイプだな」
「あー、うん……」
「魚の口にかかった釣り針のようなモノだ。一度釣られても、コノ場所からさえ離れるコトができれば、もう心配はナイ」
「おお、マジか」
「用心は必要だけどナ」
「アッ、ハイ……」

 アナウンス音が、構内に流れたのはその時だ。
 
『間もなく、電車が到着致します――』

 エリックは頷く。

「コノ電車こそが人間界行きだ」

「待った」
 バニラが鋭く問う。
「ミ=ゴってヤツらがその気になれば、あの電車自体止めることができるんじゃないのかい?」

「イヤ。アノ電車は、コノ領域と夢、人間界それぞれを繋ぐパイプも兼ねているのだ。アノ電車を止めるコトは、都市伝説を用いた収穫計画自体の凍結も意味する。今コノ瞬間に停止するコトはまずない――サア、切符を買うぞ」

 エリックの案内に従い、四人は人数分の切符を購入した。
 斉藤は、エリックの分の切符を購入し、呼びかける。

「猿、お前も来るんだ」
「イイんだ。斉藤。俺はオマエのようにはなれない。向こうに行っても、俺のような猿に居場所ナドあるわけがない」
「何いってんだ。実際オレがいるだろう!」
「それに、ここにいてもやられるんじゃないか?」

 淡々とした口調ではあるものの、心境の変化があったのだろう。
 警戒していたバニラもまた、エリックに呼びかける。

 エリックは自嘲気味に微笑んだ。
 
「案ずるな、人間。鹿児島たちは、素質のない存在とされたオレのために、時間を稼いでくれた。機械化の影響を少なくすんだオレこそが、奴らの元から離れられる可能性が一番高い、とな……皮肉な話だゼ」

「じゃあエリック。お前がトイレでやってたのは――」

「地下への脱出路を確保していたのサ。夢の世界は広い。逃げおおせてみせるサ」

 そうこうしているうちに、ホームから列車の到着音が響いてきた。

「最後に聞きたいのだが――」
 バリツは、エリックに問いかける。
「ナンだ? もう時間はないゾ」

「駅のホームの幼女は、何者なのだ?」

「何だソイツは? 駅のホームに人間がイルなど、聞いたコトがないゾ」

「な――」

 バリツは周りの面々と、顔を見合わせる。
 皆が同じ困惑を持っていたようだ。
 だが、もはや問い直す時間はなかった。
 エリックは切り出す。
 
「――ソロソロ別れの時だ。ああ、オマエたちのソノ切符は、持っているだけで良い」

 そして彼は斉藤に向き直る。
 斉藤も、彼の視線を受け止めた。

「人間ドモは今も好かぬが、斉藤。オマエとの友情は不滅だ」
「その通りだぜ、エリック」
 かくして一人と一匹は握手を交わした。
「気をつけるんだぜ、エリック」
「達者でな、斉藤」

 エリックは踵を返し、トイレへと歩き出した。
 今生の別れになるかもしれないと、一同は後姿を見送っていた。
 だが彼は、ふと立ち止まり、こちらに呼びかけてきた。

「ああ、ソウだ」

 僅かに振り返る顔と目線で、すぐに察した。
 彼が語りかけているのは、斉藤ではない――バリツだ。

「オマエは、鹿児島を弔ってくれた様だな。一つ忠告してヤル」
 
 弔った、とは、鹿児島と呼ばれていた猿の目を閉じたことであろうか?
 バリツはドキリとして、聞き返す。
「――何だね?」

「オマエ、何かに魅入られてイルぞ。セイゼイ用心するコトだな」

「……!? 待ちたまえ、それは、どういう――」

 エリックはそれ以上答えることなく、歩み去ってしまった。
 呆然とするバリツであったが、その肩を斉藤が叩いた。

「ほら、行こうぜ。バリツ」
「う、うむ……」

 ラッチを抜け、ホームに至ると、アトラクション電車が到着していた。
 こうして向き合うと、あの悪夢が想起され、足が竦む思いがした。
 だが、そもそもドアがまだ、開いていない。

「この電車で間違いないはずだが――」

 ふと、人気を感じ、ホームの左奥を見やる。

 姿を消したはずの、あの幼女が、佇んでいた。
 どういうわけか、その服装は、あの時の簡素なワンピースではない。本格的な、駅員ルックだ。
 つばの広い帽子が、その小振りな体格の存在感を強調しているかのようだった。

 少女は抑揚のない――しかしながら、どこか悪戯っぽい微笑を湛えていた。
 そして、斉藤が手渡したという、あの改札バサミをか細い手に掲げ、カチカチと鳴らした。