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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
novelistID. 41661
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CoC:バートンライト奇譚 『猿夢』 下

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「バリツ!」

 ところが、どうしたことか。
 その声はバニラのものではない。 
 先に駆け出していたはずの、斉藤のものだ。

 一瞬は気づかなかったが――間もなく、把握した。
 そもそも場所が、構内ではない。駅のホームだ。

 傍らでは、バニラが困惑ぎみに、地面から上体を起こしている。
 見上げれば、こちらを気遣うかのように見下ろす斉藤。 

 そしてその少し先にたたずむ、異彩を放つ存在。
 仄かな反射光を微かに放つ、簡素な、無地の白ワンピース。
 この世ならざる神秘の果実めいた、桃色のミディアムヘアー。
 傷一つない、滑らかな二の腕、細いふくらはぎ。
 背丈に不釣合いな、あまりにも頼もしく、熟練した後ろ姿。

 幼女だ。
 彼女は腕を組み、少し離れた先の、構内への出入り口を見つめていた。
 
 こうしてみると、やはりアシュラフよりも一回り幼く――どこか彼女にも増した神秘を秘めているように思えた。

 彼女は、こちらを小さく振り返ると、微かに頷いた。
 気だるそうな面持ちではあるが、こちらを見やるその真紅の眼に、敵意は一切見受けられなかった。

「何が起きてー―?!」
「お前ら! 説明は後だ! タンも頼む!」
「へ?」

 斉藤が指差す先を見る。
 線路側。そう離れていない白線の内側に、見覚えのある大男が仰向けに横たわっている。
 ぐったりと白目をむいて、口を半開きにしたタンだ! 

「タン君!?」
「バリツっ」

 バニラの声を受け、慌しくバリツは振り返る。

 幼女は忽然と姿を消していた。
 彼女が立っていた先の出入り口から、機械の唸り声と、猿達の怒声が押し寄せてくる。

 どういう理屈かはわからない。
 だが、自分とバニラは、あの幼女の力で、この場所まで瞬間移動してきたらしい。
 そして、あの猿達が、今度はこのホームへめがけて殺到してきているというわけだ!

 何故タンがこんなところで倒れているのかはわからないが、斉藤は自分達を庇い、猿たちに向き合う腹積もりのようだ。

「ここは俺に任せろ! さあ、そいつを連れて隠れろ!」
「さすがに今回は危ないぞ、斉藤君!」
「まあ聞いてろって!」
「バリツ! 手伝って! 助手がでかい!」

 バニラは先行して、線路へと降りている。

「――ええい! ままよ!」

 バニラと協力しながら、やっとの思いでタンの巨体を線路へと転がり落す(頭部が叩きつけられることだけは、バニラが防いでくれた)。
 バリツもすぐさま、線路へ飛び降り、背中から壁にへばりついた。壁だ。私は壁。ホームの一部! いないよ!

 ホームが突如として騒がしくなったのは、その直後だ。
 猿達がなだれ込んできたに違いない。間一髪だ。

「よ、よう! 皆! 久しぶりじゃねえか……! 鹿児島! 青森! えーと、岩手に山梨! それに皆!」
(こんな時に考えることではないが……それにしても何でエリック以外都道府県なのだろう……)

 場違いな疑問は否めなかったが、斉藤の必死さが痛いほどに伝わる。
 一歩間違えれば、彼とて無事ではすまないことは、彼自身自覚しているに違いなかった。

「斉藤! オマエか!」
「再会を祝したいトコロだが、今はソレ所ではない!」
「今人間ドモがコッチに来なかったか! 二匹だ!」
「汚らわしいヤツらだ!」

 口々に言葉を発する獣人たち。片言の人語に、鳴き声が逐一入り混じる。
 猿達が探しているのは、自分とバニラの二人であろう。
 幸運にも斉藤とタンが逃げる姿は、目撃していなかった口ぶりだ。
 バリツは声を潜め、じっと聞き入る。鳴り止まぬ心臓の鼓動が、ひどくうるさく思えた。

「い、イヤ、こっちには来てないぜ!」
「ドーいうことだ!?」
「アイツら、オレたちの目の前にいたのに、忽然と姿を消しやがった!」
「消えたのだ!」
「キエタ! キエタ!」
「ま、マジか! 皆、そいつはとんでもないこったな! 怪しい奴らだ!」
「斉藤の言う通りだ。あやしげな術を使うヤツらめ! やはり生かしては置けぬな!」
「そ、そうだそうだ!」

 斉藤も口車を合わせている。

「オレたちは駅の外を探索する!」
「オマエはココを引き続き探してくれ! 頼んだぞ斉藤!」
「お、おお! 分かった! 任せろ~!」

 猿の声と機械音が、騒々しさを伴って遠ざかっていく。
 それでもバリツは線路沿いの壁に張り付いたまま、しばらく動けなかった。

「お前ら、大丈夫そうだぜ」

 あたりに静けさが降りて来た頃、斉藤が上から声をかけてくれた。
 それでやっと、深く息をつくことができた。

「ハッ! あ、あれ? 一体何があったんや……?」

 すぐ隣からの、やかましい一声。タンだ。
 意識を取り戻した様子で、線路の敷石を痛がりながら、ゆっくり上体を起こしていた。
 顔は青ざめ、全身が発汗しているが、命に別状はなさそうだ。
「お前やっぱいつも青ざめた顔してるねえ」
「何にせよ、どうやら助かったとみてよさそうだね……」
 
 バリツとバニラはタンを助けながら、ホームへとよじ登った。

 四人の男達だけが残されたホーム。
 仄かではあるものの、まだ猿達の毛皮と殺戮機械の錆が入り混じったかのような臭いが生々しかった。

☆続