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Tokyo Boogie Days(未完)

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詰所の自分のデスクの前で、ラダマンティスが眉間(眉毛で見えないが)に皺を寄せ、そう呟く。
その隣のパソコンでデータ入力作業をしていたバレンタインは、一時手を止めると、
「何がですか?」
「パンドラ様がおかしいのだ」
「?」
思わず目を瞬かせるバレンタイン。
ラダマンティスは頷くと、
「ジュデッカで我々と会われていても、どこか上の空で考え事をなさっている」
「それは……」
言葉に詰まるラダマンティスの副官。
彼の脳裏には東京見物の噂とともに、ある一言が浮かんでいた。
ただ、それを言葉にするには少々抵抗がある。
なのでバレンタインは、無表情のまま上官にこう告げた。
「……全てが芽吹く春故に、パンドラ様の元にも春が訪れたのでしょう」
バレンタインの言葉に、立派な眉をさらに顰めるラダマンティス。
この副官は、今何を言ったのであろうか。
この忠実な部下は、たまにラダマンティスが理解できないことを言う。
上官の表情からその内心を読み取ったバレンタインは、
「わからない事も世の中には沢山あるのですよ」
と適当にお茶を濁すと、再び作業を開始した。
ラダマンティスはまだ何か言いたげであったが、言葉が浮かばなかったのか缶コーヒーのプルタブを開けた。

東京見物を四日後に控えたその日。
「どうしよう」
所用でジュデッカにやってきたファラオは、ひどくシリアスな顔をした女上司に呼び止められた。
まるで全財産が家事で丸焼けになってしまったような顔をしているものだから、流石のファラオも顔を青くする。
「如何なされました、パンドラ様」
「……服が、ない」
「は?」
ファラオはパンドラの言葉を瞬時に理解することができず、見ようによってはかなり失礼な物言いをしてしまった。
自分のその対応にハッと気付き、見えない箇所でダラダラと冷や汗をかくファラオだったが、幸いにもパンドラは全く気に留めていないらしい。
切羽詰まった様子でファラオに詰め寄る。
「どうしよう、ファラオ。服が無い!4日後の東京見物に着ていく服が無いのだ!!」
この時のパンドラの表情。
普通の、どこにでも居る16歳の少女の顔である。
焦ったようなパンドラの声を聞き、ようやくファラオは納得する。
「……確かに、東京に出掛けるには……あの黒いドレスは場にそぐわないですな」
言葉を選びつつファラオが答えると、パンドラは更に狼狽して、頭を抱え髪を振り乱す。
「ああ、どうすれば!」
「パンドラ様、取り敢えず落ち着いて下さい」
そうパンドラを宥めるが、取り敢えず落ち着け言われても、そう簡単に落ち着けるものではない。
「落ち着けと言ってもな、ファラオよ!冷静になれるか!この状況で!」
「こういう時のために、ハーデス様は大金であの男を雇っているのではありませんか!」
上司を一喝するファラオ。
らしくない大声に、パンドラは虚を突かれたように目を丸くする。
そしてしばらく考えた後、小声で、
「オルフェならどうにか出来ると思うか?」
「出来るでしょう、多分」
力強く頷くスフィンクスの冥闘士。
彼は内心舌を出しながら、あの悪友に面倒を丸投げ、しかもかなりの無茶振りをしてしまったことを、口の中で詫びた。
『すまん、オルフェ。だが冥界から金をもらっているのだ。たまには役に立て』
冥闘士でもないのに、大金をもらって冥界に住んでいるのだ。
少しは役に立ってもらわないと困る。
そう相当ひどいことを考えていたファラオだった、が。

「確かに、黒のドレスじゃ東京見物はきっついわよねぇ」
花畑の真ん中で、オルフェのギターを聴きながらホモ同人誌を読んでいたユリティースは、この場を訪れた冥界の女統率者に同情するように告げた。
パンドラはどこか泣きそうな顔で、
「わかってくれるか」
「わかるわよ。女ですもの」
パスンと本を閉じたユリティースは、手元に積んであった雑誌からファッション誌を引き抜くと、パンドラに差し出した。
物珍しそうに雑誌を受け取ったパンドラは、興味津々といった様子で雑誌をひっくり返したりしている。
「ほぉ……。このような服が今は流行しているのか。これは可愛いな」
表紙をめくると、白い頬がほのかに紅くなる。
やはり年頃の娘だ。ファッションに興味があるのだろう。
ページをめくる手が次第に緩慢になっているのは、じっくりと服を吟味しているから。
「ああ、このサンダルは良いな」
「ショートパンツでは足が丸出しではないか」
「私にフリルが似合うだろうか」
小声で独り言を呟きながらお洒落な服や小物や着こなしに目を輝かせる様は、普通の女の子だった。
と、パンドラはハッと気付く。
「……なぁ、ユリティースよ」
「何?」
「折角ここで服を選んでも、その服が手に入らなくては……全く意味がないだろうがぁぁ!!」
怒りを爆発させるパンドラ。
長い黒髪が、逆風に煽られたか如く見事に逆立っている。完全に鬼の形相だ。
しかし。
横でギターを弾いていたオルフェは全く顔色を変えずにパンドラに携帯電話を渡すと、
「そのファッション誌は、掲載されている服がケータイで買えるの。QRコードがページの端に載っているだろう?」
「あ、ああ……」
あまりにも平然とした対応に、パンドラの怒りが霧散する。
ここまで普通に相手をされると、怒っている方が滑稽に見える。
「ケータイのバーコードリーダーでQRコードを読み取れば、その服の通販サイトに行ける。クレカも使えるし、サイズがあれば即日発送だから、4日後の東京見物には間に合うよ」
それだけ説明したオルフェは、ユリティースの額にまたねと唇を落とすと、ギターをつかんでフラットに戻る。これから新曲の仕上げに入るようだ。
「分からないことがあったら、ユリティースに訊いて」
「ああ……」
パンドラはどこか上の空で返事をする。
あんなに悩んでいた服の問題が、あっという間に片付いてしまった。
この二人はそれなりに世間慣れしているなと、遠くで様子を窺っていたファラオは感心する。
「お前だろ、パンドラをうちに嗾けたのは」
いつの間にやら、オルフェがファラオの横に立っている。
全く気配を感じなかったので。ファラオの背中に戦慄が走った。
冷や汗が流れ、鳥肌が立つ。
これが聖闘士と冥闘士の違いだと、ファラオは改めて痛感した。
ごくりとつばを飲み込んだ後、震えを極力抑えた声で、
「まぁな。ああいう事を頼めるのは、この冥界ではお前とユリティースくらいしか居らん」
「単に自分の手に余ったから、部外者の僕に面倒を押し付けただけだろう?」
深く息を吐いているのが、背中を向けていてもわかる。
「そんなこと言って誤摩化して」
くしゃっと、花を踏む音が耳に届く。
ゆっくりとした足取りで、音楽家はファラオの前にまわった。
その表情に、目を丸くする魔琴使い。予想とは全く違っていたのだ。
オルフェは笑顔だったのである。
心底嬉しそうな、そんな笑顔だったのである。
「お前……」
「でも、ユリティースが凄く嬉しそうだったから、今日は許してやる」
そう、オルフェが笑顔になってしまったのは、ユリティースがガールズトークに興じていたから。
久しぶりに女の子らしい会話が出来て、ユリティースがとてもとても楽しそうだったから。
作品名:Tokyo Boogie Days(未完) 作家名:あまみ