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『掌に絆つないで』第四章(前半)

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Act.10 [蔵馬] 2019年12月10日更新


雷禅の塔にもうひとりいる。
コエンマに漏らした飛影の言葉が聞こえた。
その後、幽助に向かってコエンマが下した命令に、驚かずにいられなかった。
自分が冥界の者に翻弄されている間、仲間たちもそれぞれ苦しい立場に立たされていたのだ。ようやくそれらに気づいたものの、自らの目前に迫る戦友との別れに戸惑うばかりで、蔵馬は何も言わずに桑原の瞳から目を逸らした。
『もし、桑原くんだったら?』
幽助に投げかけたはずの問いが、まさか自らに降りかかるとは考えもしなかった。
オレだったなんて……。心の中で幽助を責めながら、本当はオレが桑原くんを求めていたなんて……。
決して、想像できない事態ではなかった。
人間界に想いをはせる時、必ず思い出す戦友。
『桑原くんなら、』
『桑原くんがいたなら、』
回答を得られないことを言い訳に、何度も繰り返してきた『もしも』の問いかけ。
自分の弱さが招いた罰かもしれない。
唐突に、そして同時に訪れた再会と、別れ。
肩に触れる桑原の大きな掌からは、生きた人間の温もりを確かに感じる。決して幻ではないのに、コエンマたちの緊迫感が事態の重さを物語る。
このまま、桑原が生きていくことは出来ないのだ。そして、その運命を受け入れている桑原を自分が引き止めることもまた、出来ない。
コエンマが雷禅の塔へ行け、と彼に告げたことでひと時の猶予は与えられた。それでも、別れに変わりはない。飛影のはからいで雪菜と対面させることを許可したようだが、その行為は彼女の心に傷を負わせるだけではないのだろうかと疑問がよぎる。
どうして静かに眠らせてやらなかったのだろう。
「おめェのおかげでみんなに会えた」
彼の優しさから来る感謝の言葉が、自分を罵るものであったらどんなに楽になれただろう。
「桑原……」
桑原越しに聞こえた幽助の声は、すでに涙を堪えて震えていた。
『もし黒鵺が桑原くんだったら?』
幽助は蔵馬が投げたその問いに戸惑い、傷ついた顔をした。
おそらく、別れを惜しむ気持ちの深さに大きな違いはない。それ故に、なおさら胸が痛い。幽助にはつらい別れを果たさなくてはならない相手が二人もいるというのだから。
「なーに情けねえ顔してんだ、おめぇ!」
「いででで!!」
突如、桑原は幽助の頭に拳を押し当てた。
「早く、雪村んとこ行ってやれ。時間がねェんだぜ。オレとの別れを惜しんでる暇なんてねェだろ!」
「けど…おめェだって、もういなくなっちまうんだろ………?」
「時間がねェんだ。少しでも長く雪村といたいだろ。『二兎を追う者、一兎をも得ず』ってな」
彼の背中を押す桑原の言葉に、幽助は俯いたまま動けずにいた。それから、絞り出すように一言漏らす。
「結局どっちも、手に入らねェじゃねーか……」
その呟きは、蔵馬の胸を深く射抜いた。
桑原とも、螢子とも、別れまでに与えられた時間があるというだけ。
ずっと傍にいてほしい。
諦められるわけもない、純粋で強い願い。それは、残酷なまでに儚い願いだった。