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自分らしく
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彼方から 第三部 第ニ話

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 男は、華奢な彼女の体を片腕で軽々と抱え、持ち上げ、そのまま走り去ろうとしている。

 ――……っ!!
 ――あたし、攫われるっ!?

 何とか逃れようと、口を塞いでいる男の手に自分の手を掛けるが、ノリコの力では如何ともし難い。
 
   ―― やだっ!! ――
 
 見も知らぬ男。
 何の目的で自分を攫おうとしているのか、どこへ連れていこうとしているのかも、分からない。
 不安と恐怖が、体の動きを鈍らせる。
 ノリコは頭の中で必死に叫び、呼び掛けていた。

   ―― イザークッ! 助けてっ!! ――

 あの時とは違う……
 置いて行かれたあの時とは。
 彼は――イザークは直ぐ傍に、居てくれているのだから……

   ―― ノリコッ!! ――

 イザークの呼び声が、頭に響く。
 彼が、来てくれているのが分かる。
 こちらの呼び掛けに応じてくれた彼の声を聞き、ノリコは少し、落ち着きを取り戻していた。

          ***

 緩く曲がった道。
 イザークはその曲がり角を、物凄い速さで駆け抜けた。
「ノリコッ!!」
 見知らぬ男がノリコを抱え、走り去ろうとしている背中が見える。
 イザークはすかさず手近にあった石を拾うと、男の足目掛けて投げつけていた。
「うわっ!!」
 狙いは違わず、石は男の膝裏に穴を穿つ。
「きゃっ!」
 石に穿たれた足の痛みと当たった勢いで、男は抱えたノリコと共に倒れ込んでゆく。

「うわあぁあっ!! 足がっ!!」
 血の滲む足を抑え、自分を攫おうとした男が、痛みにのた打ち回っている。
ノリコは、そんな男を見やりながらも即座に立ち上がり、イザークの方へと走り出した。
「イザーク!」
 だが、その背に、別の男が迫る。
「逃がさんっ!」
「きゃっ」
 背後から、二の腕を掴んでくる。

   バキッ!!

「ゲッ!!」
 追いついたイザークの手刀が、男の顔を薙いだ。
 ノリコを引き寄せ、自分の背に庇う彼の視界に、新たな男たちの姿が映る。
 イザークに倒され、意識を失い倒れてゆく男。
 恐らく、仲間であろうと思われるその男を助けようともせず、新たに現れた男たちは、イザークと、イザークが護るノリコを、見据えている。
「イザーク……」
 彼の手に引かれ、背後へと身を隠すノリコ。
「ほほう……騎士(ナイト)登場か」
 男たちの先頭に立つ人物が、イザークの動きに感心したかのようなセリフを吐いてくる。
「それにしても……」
 彼一人に倒された先陣二人を見下し、
「役に立たないねェ――きみ達は」
 言い捨てた。
「いえ、バンナ様。次は我らが……!」
 後ろに立つ三人の男たちの内の一人が、先頭に立つ男の名を呼ぶ。
「やめた方がいいねェ――どの道、きみ達の手に、負える相手ではなさそうだ」
 部下と思われる男たちの言葉に、バンナと呼ばれた男は口元を釣り上げた不敵な笑みを見せ、そう返した。

「あんたは……」
 ノリコを庇いながら、バンナを見据えるイザークの眼が、厳しく光る。
「そこにいる連中と、一味、違うな……」
 普通の能力者とは違う、只ならぬ気配をバンナから感じ取り、イザークはそう呟いていた。
「おや」
 バンナの細く垂れ下がった眼が、イザークの言葉に喜び、歪む。
「嬉しいねェ――わかってくれるのかい」
 他人とは違う特別な『能力』を持つことを、それを認められることを、喜びとしているのだろうか……
 バンナは嬉々として、イザークを見据え返した。
「ノリコに何の用だっ!!」
 『力』という欲に塗れた様が、バンナの表情と口調から伝わってくる。
 イザークはそれを嫌うように、きつい口調で怒鳴りつけていた。
「黙面様が――求められたからだよ」
 静かに、ゆっくりと両腕の肘を顔の高さにまで上げてゆく。
 手の先を、力なく枝垂れさせているバンナ。
胸元にある大きく派手なペンダントが、やたらと眼に付く。
「これ以上は、わたしを倒してから聞くんだね、ぼうや」
 女のように化粧を施した顔と口調で、バンナはイザークを見下してくる。
 『何か』を、するつもりなのだろう……
 バンナから、得体の知れない力が湧き上がってくるのを、イザークは感じ取っていた。

          ***

 ――黙面様?

 バンナの口から出た聞き慣れない名前に、イザークは眉を潜める。
 その『黙面様』とやらが、彼らの親玉であることに間違いはないのだろうが……
 今は、この眼前の男たちを、蹴散らさなければならない。
「きみ達は――娘の方を任せるよ」
「はっ!」
 枝垂れさせていた手の先を、ゆっくりと頭上まで持ち上げながら、バンナは横目で控えている男たちを見やり、命を下した。
「この男は……」
 上向いた、上着の広い袖口から、覗き見えていたバンナの両腕に巻かれていた布が、まるで……生き物のように自ら解れてゆく。
「わたしが相手しましょう」
 赤く縁どられた唇から、牙が覗き見える……その唇を大きく歪め、バンナは不気味な笑みを浮かべて、自信に満ちた言葉を吐いていた。

「イザークッ!!」
 
 やや遅れて、やっと走り追いついたバラゴが、イザークの名を呼んだ。
「バラゴさんっ!」
 振り向く、ノリコとイザーク。
「剣、持ってきたぞっ!」
 何も言わず走り去ったイザークの様子から、只事ではないことが起きているのを、瞬時に悟ったのだろう。
 取る物もとりあえず、ノリコの元へと走ったイザークの為に、バラゴは彼愛用の剣を持ち、追い駆けて来てくれたのだ。
「ノリコはおれが引き受けるっ!」
 更に、二人が置かれた状況を一見で判断し、
「おまえは存分に戦えっ!!」
 そう言うと剣をイザークに向かって放り投げた。
 イザークはノリコをバラゴの方へと押し出すと、剣を掴み取りながらバンナへと、その眼を向ける。
「さて――そんなものが役に立つかな?」
 だが、剣の柄に手を掛けるイザークに、バンナは余裕の……嘲りの笑みを見せていた。

 バンナが、その両腕の先をイザークに向けた。
 向けられた手の先から、自ら解れた布が螺旋を描きながら、凄まじい速さで襲い掛かってくる。
 イザークは鞘から剣を引き抜きながら、
 
 ――布の先端がっ!

 襲い来る布から伝わる気配の変化を感じ取っていた。
 自分に向かって勢いを増しながら向かってくる二本の布を、剣で弾き飛ばす。

     ガキィンッ――!

 ――硬質化した!

 ただ布を操っているというだけではない……
 イザークはその事象に驚く間もなく冷静に、即座に硬質化した部分を断ち切ろうとする。
 だが、バンナの布はイザークの剣を避けるように、その身をぐにゃりと曲げていた。
 そして避けながらも、硬質化させた先端をイザークに向け直し、追撃を加えようとしてくる。

 ――こいつ! 生きている!

 まるで、自らの意思を持ち得ているかのような動きを見せる布を見据え、その先端の動きを追いながら、イザークは離れて戦うのは不利だと感じていた。

          ***

「おらおらっ! おらァッ!!」
 バラゴが威嚇の意味も込め、自身の力を誇示、そして鼓舞するように怒声を上げている。