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BLUE MOMENT15

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「しまった! ホントに寝坊するなんて……っ!」
 目覚ましはしっかり鳴っていたのに、止めて寝てしまうなんて!
 ありえない!
 学生の時分でもやったことがないっていうのに、なんで今日のこの日に、こんなポカをやってしまうんだ、俺はっ!
 なんだってアーチャーが帰ってきた初日から……。
 情けなくてため息すら出ない。きっと、小言が山ほど降ってくるだろう。
(ほんとアイツ、容赦ないんだから……)
 怒鳴られるのを覚悟で食堂に入った。
「悪い! 遅くなっ…………た……」
 謝りながら踏み込んだ食堂は、なぜだか、すでに大賑わいだ。まだ朝の六時を過ぎたくらいなのに。
「なんだって、こんな……」
 俺が厨房を預かっていたときと比べれば雲泥の差。いったい何が起こったのかと首を捻っていたのも束の間で、その理由にはすぐに思い至った。
 アーチャーたちがいるからだ。いつも厨房にいた面子が揃っているから。
「やっぱりアーチャーたちの作るメシ、文句なしで美味しいから」
 カルデアのみんなは、ちゃんと知っているんだなあ。俺が厨房に立っているときは、こんなことにはならなかった。俺ではアーチャーの足下にも及ばないんだってことを改めて理解する。
(アーチャーの穴埋めもできやしないんだな、俺には……)
 いや、反省なんかしている場合じゃない。
(とにかく遅れたことをみんなに謝らなければ!)
 人だかりの中を縫って進んで、どうにかカウンターに辿り着くことができた。
「アーチャー、ごめん、遅くな――」
「言い訳はあとだ! 配膳を頼む」
「あ、りょ、りょーかい!」
 たまたま近くにいたアーチャーにカウンター越しで謝ろうとすれば、すぐに指示が飛んでくる。
(よかった。普通に話せる)
 あれからすぐにレイシフトしてしまったアーチャーと何も話せなかったから、ほんとは少し緊張していた。
(忙しくてよかった)
 会話の糸口にすら困っていたから、とにかく現状をどうにかするために忙しく動けることが何より有難い。
 だからだろうか。俺は大切なことを話すきっかけを、完全に失ってしまっていることに、気づきもしなかった。



◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆

 今日もか……。
 このところ、士郎と話すこともままならない。
 避けられているわけではないのだが、話しはじめるとサーヴァントたちが割り込んできて、結局、士郎と二人で話す時間にはならない。
 おかげで部屋へ誘うこともできずにいる。
 突然のレイシフトで、……まあ、レイシフトはいつも突然なのだが、あの日、疲れているだろうと眠らせた士郎を置き去りにしたままだった。
(カルデアに戻ってから、放置する結果になったことを謝ろうと思っていたのだが……)
 私がレイシフトに赴いている間に、士郎はサーヴァントだけではなくカルデアのスタッフたちとも懇意になったようだ。手の空いた士郎をスタッフたちが食事に誘うことがほぼ毎日で、ついでとばかりに、その場で保全関連や何かしらの打ち合わせをしている。
 以前は全くなかったというのに、レイシフトから帰還してみれば、士郎は私と話をするよりも彼らと話す方が多くなっていた。
(決して悪いことではない……)
 士郎がカルデアに馴染むのはいいことだ。ここに居ると決めた士郎には、自身の居場所というものを確立してもらいたいと思う。
(だが……)
 士郎と抱き合ったのは、あの、風呂を借りた夜以来で、ずっとご無沙汰だ。
 仕方がないことなのだが、私が厨房を片付け、すべてを終わらせるのは遅い時間になっており、士郎を訪ねることもできない。
 以前から行っていた保全業務や雑用に加え、カルデアの設備の修繕をも担っているため士郎は忙しい。無理をさせて仕事に支障が出ては申し訳が立たない。したがって、本っ当にご無沙汰になってしまっている。
「はあ……」
 進展したとは思う。士郎は私と顔を合わせても逃げることはないし、普通に話し、笑顔で応えてくれる。ただ、それは他の者にも同様に向けられているものでもあって……。
「よう、弓兵」
「む。君か」
 ランサーのクー・フーリンが、なんでもいいから食わしてくれ、と、カウンターに寄りかかってきた。
「本当に、なんでもいいのだな?」
 薄く笑って訊いてやると、
「う……」
 少したじろいでいる。そんな様子を見れば、過去の大英雄も人間味に満ち溢れているものだな、と、どうでもいい感慨に耽ってしまう。
 あー、だか、うー、だか、唸るクー・フーリンの答えを、何くれと作業をしながら待ってやった。半端な時間だけに、あまり食材が残っていない。腐れ縁のようなこの男に、なんでもいいと言われれば、本当に適当な物しか作る気がしない。それを察したのかなんなんか、クー・フーリンは、ちゃんとしたものをくれ、と言い直した。
「はじめからそう言え」
「んっとに、めんどくせぇなぁ、てめえは!」
「ほほう。注文はキャンセルということだな」
「て、てめっ!」
「おとなしく待っていろ、すぐに、」
 存分に厭味な笑みを浮かべてやれば、クー・フーリンは、ちょいちょいと手招きする。
「なんだ」
 仕方なくカウンターに近づけば、
「んで、お前、シロウとはどーなんだ?」
「は? いきなりだな。……見ての通りだが」
 小声で何を訊くのかと思えば、そんなことか。
「見ての通りって……、恋人にはなったのかよ?」
「ああ」
「そうは見えねえぞ?」
「む……」
 確かに、よくある恋人像のようにイチャついているわけではない。
 ただ、我々がベタベタするというのは、見た目的に少し問題がある気がするため、表立ってすることは今後もないだろう。士郎も嫌がりそうだし……。
 だが、それにしても、我々が話すことといえば厨房や食堂のことばかりで、なんら恋人らしい内容ではない。
 これは、ちょっと、問題があるのでは?
「……士郎は忙しいのでな」
 疑問符が頭の中を占めていたが、なんとなく負けん気を出してクー・フーリンに答えておくことにした。
「いや、忙しいとかじゃなく…………。あのよー、シロウはいつも、誰彼かに囲まれてるんだぞ? 恋人だからってお前は安心してても、そんなもん関係ねえって奴も中にはいるかもし――」
「わかっている! だが、進展しそうになればレイシフトで、戻ってくれば見ての通りの状態で、時間を取ろうにも取れないのだっ!」
 クー・フーリンに苛立ちをぶつけても、なんの解決にもならないというのに、いちいち私が気にしていることをはっきりと言うものだから、ついつい口調が荒くなってしまう。
「あー……、まあ、それは仕方ねーけど。でも、シロウもお前のことを好いてるんだろ? だったら、もっと、」
「そうなのだが、アレは鈍いだろう。それに、私の言うことを半分も信じていない。その上、奥ゆかしいと言えば聞こえはいいが、超奥手だ。いや、奥手と言えるのか? 私を誘ってきたこともあるのだから、一概に奥手というのではないのかもしれない。だが、士郎はいつも乗っかられていて……」
「お……お前……」
 あからさまに哀しげな表情になったクー・フーリンにハッとする。ついつい心の声が漏れていたようだ。
作品名:BLUE MOMENT15 作家名:さやけ