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BLUE MOMENT15

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「今のは聞かなかったことにしておいてくれ、士郎の名誉のためにも……。それから、憐みの目で見るのはよしてくれ。どうにかしなければと、私もわかっている。君に憐れまれるのも心配されるのも心外だ」
「心配なんざしてねえ。あのよー、もしかして、シロウはお前と恋人だとは思ってないんじゃねーか?」
「そんなわけがないだろう! 私はきちんと言ったぞ!」
 クー・フーリンに訴えたとて仕方がないのだが、確かに士郎の私に対する態度は、他の者に対するものとなんら代わり映えがしない。それが恋人に対する態度なのか? と疑問がさらに増える。
(まさか、な……)
 自分で自分を励まそうと思うものの、拭えない不安感が脳裏をよぎる。
「もう世話してやれねーぞって、言ったよな? おれたち」
「ああ、重々承知している」
 忠告はしたぞと言い、クー・フーリンはまだ何か言いたげにしつつも、結局は何も言わずにカウンターを離れていった。
「わかって……いるのだ…………」
 調理に戻りつつ不貞腐れてこぼす。
 士郎とは一度、きちんと話さなければならないと心底思っている。
 これからどうしたいのかや、厨房にはどの程度の頻度で手伝いに来れるのかや……、いや、そんなことよりも、とにかく二人きりになりたい。正直、ベタベタしたい。恋人になったあかつきには、という、それなりのビジョンが私にもあったし……。
(ぶっちゃけ、士郎が足りない……)
 魔力不足でもないのに起こるこの渇望は、やはり士郎を求めているということだと思う。
(触れていたい……)
 他愛ないことであっても話をしたい。それから、動くのも億劫になるほど抱き合いたい。
 普通の、恋人となった者たちがやることを、士郎とやってみたいと思う。
 だというのに、会話すら難しい状況で、我々に何が育まれるというのか……。
「何か、いい案はないものか……」
 独り言ちて、ひと気のまばらな食堂を見渡す。少し前、隅の方のテーブルで、士郎がスタッフの数人と食事をしていた。にこやかに受け答えをする姿を目にして、私だけが必要なわけではないのだと思い知る羽目に陥った。
(胸が……灼ける……)
 ムカムカと胸やけのような感じが拭えなくて氷水を飲む。思いがけず口に入った氷を噛み砕けば、がりっ、と音が響き、それなりの衝撃を奥歯に感じ、自分がかなり苛立っていることに初めて気づいた。
(そうか、私は……)
 嫉妬しているのだ。士郎と過ごすスタッフやサーヴァントたちに。
(ひどい独占欲だな……)
 以前、クー・フーリンが言っていた、“囲っている”という言葉は、やはり正解だった。
(私は、士郎を閉じ込め、私だけを見ていろと言いたいのだろうな……)
 実際にできるわけがないことだが、自身がそんな危険性を持っていることを改めて知った。
(やはり、まずい……)
 自分自身もこの状況も、放置してはいけないものだと再認識したところで、解決策は浮かんでこなかった。



◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇

 数枚の配管や設備の施工図をめくりつつ現場へ向かう。
 忙しいことはいいことだ。余計なことを考えなくてすむ。
 それに、ここのスタッフと話し込むのも悪くない。世間話とかは得意じゃないけど、アーチャーと二人になるよりはずっといい。
「は……」
 避けているわけじゃない。ただ、タイミングが合わないだけだ。
「それだけ……」
 アーチャーも忙しい。レイシフトに赴いて、カルデアに戻ったら、また厨房の監督役だし。
(これでいいんだ……)
 また俺は間違いを犯してしまうから、二人きりにならない方がいい。
「寒……」
 吐く息が白くなっていることに気づく。
「この先、だよな」
 廊下の先を見れば、照明が途中から点いていない。暗い廊下はそこで行き止まりなのかどうかもよく見えない。
 カルデアの施設の一階には、修復が間に合わず、まだ手が付けられていないところがある。
 爆発事故、というより事件になるんだろうけど、その後はずっと人理修復のために働いていたカルデアのスタッフたちでは、ここまで手が回らなかったんだそうだ。
 だから、防護扉で塞いだまま、その向こうは手も付けられず、空調も整えられない状況だ。外よりは少しマシなだけで、雪山の寒さはほとんど防げていない。準備しておいた防寒具一式を思わず見つめる。
「気温、何度だろ……」
 現場はこの廊下の先の防護扉の向こうだ。現場まではまだ距離があるのに、吸い込んだ空気が冷たくて鼻の奥が疼く。
(寒いな……)
 ふと、早足で闊歩していた足が止まった。寒いと感じると、ついつい付随して、俺は寂しさを思い出してしまう。この癖は、これからもカルデアに居るために、どうにかしないといけないことの一つだ。
「アーチャーは……」
 どう思っていたんだろう。
 あのとき、どんなつもりで俺を眠らせたんだ……?
 眠ってしまった恋人に何も言わず、部屋に置いていったりすることは平気なんだろうか。
 俺なら、好きな人と少しでも長くいたいと思ってしまう。どんなに次の予定が詰まっていても、一分一秒でも長くって……。
 だけど、アーチャーは手間のかかる解錠をして、あの部屋を出ていった。
 俺なら、起こして開けてもらう。それで、ちゃんと部屋を出ることを伝えて……。
(俺の睡眠を優先したってことなのか……?)
 だとしたら、俺はお門違いに腹を立てたということになる。
「でも……」
 アーチャーの気遣いを喜べない自分がいる。
(あ、いや、そもそも、恋人じゃないから……か……?)
 あの夜、恋人にって話になったけど、結論はどうなったんだっけ?
 話していた内容を忘れたわけじゃない。だけど、最終的に恋人になるとか、そういうはっきりとした話にはならなかった。
(じゃあ……違うのか……)
 恋人になる可能性はまだあるんだろうか?
 俺はまだ、アーチャーに好きだと言ってもらえるんだろうか?
 話をしたいけど、決定的な答えを告げられるのが恐い。
 なら、このまま、遠巻きでもいいからアーチャーを見ていられれば……。
 時々話をしたりして、そうやって、当たり障りのない関係でいれば……。
(その方が、ずっといい……)
 また間違いを犯してアーチャーに決定的に嫌われるよりは、深入りしない程度で、少し仲がいい程度で……。
「っ…………」
 目の前が、暗くなってきた。
 視力が良くなったはずの左目を片手で押さえる。これは、視力云々のことじゃない。事実見えている。たぶん、気持ちの問題。ここに居ると決めた俺の気持ちが揺れているからだ。
「早く……、仕事、しないと……」
 余計なことに気づきそうな自分の気を逸らす。俺にはやることがあるんだ、と意気込む。空元気もいいところだ、ほんと……。
「全然、終わらないしな……」
 このところ、仕事に時間がかかっているのは事実だ。アーチャーたちが帰還する前の忙しいときでさえ、二日くらいで仕上げていた配管の修繕が、どうしてか三日もかかるようになっている。
 食堂との掛け持ちだし、疲れているのもある。でも、掛け持ちだってことなら、以前の方が忙しかった。作業の遅延は、アーチャーがレイシフトから戻ってからだから、たぶん……。
作品名:BLUE MOMENT15 作家名:さやけ