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BLUE MOMENT15

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「ダメだな、仕事に私情持ち込んでちゃ……」
 のろのろと歩き出した。止まっていた足はきちんと動く。
「大丈夫だ、ちょっと疲れが溜まっているだけだ」
 自分を誤魔化そうとしている。わかっているけど、そうでもしないと俺はダメになりそうだ。
「大丈夫……」
 アーチャーが誰と仲良くしていても、誰かと穏やかに談笑していても、俺は、それをアイツの一面なんだ、と眺めて喜んでいればいい。
「それだけで、十分だ……」
 胸の苦しさはいつか消える。人間は慣れる生き物だって、誰かが言っていた。だから、俺もこんな苦しさには、すぐに慣れるんだ、きっと……。



◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆

 この状態がいいわけがないことくらい、私にも嫌というほどわかっている。だが、どう切り出せばいいものか、私自身、この不安感がどこから来るのかがわかっていない以上、士郎を問い詰めることもできない。
 これでは曖昧な笑みに躱されて、うやむやになるだけだ。
「何か……、決定的な確証が欲しいのだが……」
 士郎はそつのない態度で私と接している手前、取り付く島がない。どこかおかしいと思いながら、決定打が掴めないために、突っ込んで訊けない。
 士郎は恙なく過ごしている。
 日々を修繕と雑用、所長代理の手伝いに時間を費やしているらしく、早朝から夜遅くまで忙しく過ごしている。その合間には食堂を手伝いに来て、私とも普通に接し、何くれと話をする。
 レイシフトから戻ってきた翌朝、厨房と食堂は、汚れはもちろん、埃一つない状態で綺麗に整頓されており、一切ストレスなく使えるよう、調理器具も食材もきちんと設置されていた。
 思わず感嘆の声を上げそうになったのは、まるでクリーニング業者が入ったのでは、と思う仕上がりだったからだ。
 こんな真似ができるのは一人しか思い浮かばなかったが、念のため、誰が厨房を預かっていたのかとスタッフに訊けば、士郎だと答えが返ってきた。予想通りではあったが、完璧すぎて少し違和感を覚えたのは気のせいではないと思う。
 士郎は忙しそうではあるが、カルデアで穏やかに過ごしている。自身の存在の理由を求めることもなく、身を切るような無茶もしていない。
 それに、疲れを感じたら休んでいる、と所長代理も太鼓判を押していた。
 “彼は、見違えるように落ち着いたね!”と、士郎のことを心配していた所長代理は安心しきっている。
(本当に、そうなのだろうか……)
 その変わりようが、完璧すぎる気がして少し引っかかる。
 気持ちの整理がついたというのならそれまでだが、本当に士郎は今、当初の通りの、“カルデアで過ごしていたい”と思ったように過ごすことができているのだろうか?
(話をしたいが……)
 時間的な余裕がないのもあるが、いつもその場に第三者がいるため、あまり突っ込んだ話ができないでいる。部屋に誘えばいいのだが、互いに忙しい身では、時間を擦り合わせるのがなかなか難しい。
 士郎は私を避けているわけではないし、いつでも顔を見て話すことができる。焦ることはないのだが、よくよく思い返してみれば、込み入った話はせず、当たり障りのないことばかりを話していた気がする。それこそ上っ面だけの、どうでもいいような話を……。
(おかしくはないか?)
 今さらながら疑問が浮かぶ。
 私が士郎と話せる時間は限られている。そして、私が厨房に詰めているために、場所が厨房や食堂になることが多い。
 その上、士郎が空き時間だと言って食堂に来るのは、食堂が忙しくなる時間帯。
 手伝いという意味ではそれでいい。だが、私との時間を取るためと考えれば、食堂や厨房は不向きだ。何しろ、まともに話す時間など取れないのだから。
 では、なぜ、士郎はその時間帯にしか来ないのか。
(それは、私と二人きりで話すことを避けようとしているから……)
 込み入った話をされては困る、そういうことではないのか?
 夜中とまではいかないものの、食堂の手伝いを終えてからも士郎は修繕作業に勤しんでいるらしい。毎夜、作業を終えるのは十一時前後だと言っていた。そんな時間になるのであれば、私は遠慮するしかなくなる。
 それを見越して士郎は……?
「……っ…………」
 これは、避けられている、というのと同じではないのか。
(士郎は故意か無意識に私を避けようとしているのでは……?)
 現状を踏まえれば、そういう結論にしか向かわない。
「あの……、たわけ!」
 思わずこぼし、ようやく私は動き出すことにした。クー・フーリンに言わせれば、お前も鈍すぎる、とおそらく馬鹿にされることだろう。だが、鈍かろうがなんだろうが、気づけば即行動に移す。ここまできて二の足を踏む道理はないのだ。したがって、早速、今夜から様子を窺ってみることに決めた。

 厨房を片づけ、食堂を消灯して士郎の部屋へ向かう。気は逸るものの、怒鳴り込んだりはせず、きちんとノックをする。が、返事はなかった。
 居留守の可能性もあるとは思いつつも、霊体でしばらく待ってみれば、それほど長く待つこともなく、カルデアのスタッフと何か書面を確認しながら廊下を歩いてくる姿が見て取れる。
 また明日、と挨拶を交わし、スタッフと別れ、自室に入った士郎は朝まで出てくることはなかった。
 次の日も、その次の日も、また次の日も、四日間、士郎の動向を観察してみたが、特に変わった様子はない。
(思い過ごしだっただろうか……)
 私が考え過ぎていたのか?
 私の不安が要らぬ焦燥を駆り立てているだけなのだろうか?
 だが、私の考えは間違ってはいないはずだ。しかし、士郎に動きはない……。
(これは、長期戦を覚悟する必要があるかもしれないな……)
 自身に焦るなと言い聞かせて厨房へ向かった。



 悶々としながら白玉粉を丸め、煮立った湯の中に放り込んでいく。
 “今日のデザートは和風でいきますっ!”と意気込んでしまった源頼光のために、私は昼過ぎから大量の白玉を作るはめに陥っている。
「善哉と抹茶パフェ、みたらし団子、ああ、わらび餅も用意しなければ……」
 一人厨房でメニューを反芻して、ブツブツと独り言をこぼしながら準備に勤しむ。
「あれ? アーチャー、一人か?」
 声に振り向くと、厨房に片足を突っ込んだ士郎が、あからさまに、“まずったな”というような顔をしている。
「ああ、今日は、皆まだだな」
 その顔に気づかないフリで答えた。
 やはり、と確信を得ても、避けられている事実がわかったところで喜べるわけもない。気落ちしながらも、捏ねた白玉粉を丸める作業に没頭することにした。
(厨房に私だけだと知ったら、士郎はなんだかんだと理由をつけて去っていくだろう……)
 私に引き留める術はない。避けられる理由を訊きたいと思うが、その理由が私に対処できないようなことだった場合、どうすればいいのか。
 自身の傷に塩を塗る趣味はない。それに、士郎との関係が今すぐに終わってしまうのは、どうにも避けたい。
(何か、対策を立ててからで……)
 必死になって士郎との関係を続けようとしている自分自身が、少し滑稽に思えた。
(馬鹿か、オレは……)
 その気のない者をいつまでも欲しがるなど……。
「アーチャー?」
「え?」
作品名:BLUE MOMENT15 作家名:さやけ