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BLUE MOMENT15

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 このままそっと離れようかと思うのに、足が動かない。身体がアーチャーの傍に行きたがっているみたいだ。
 これじゃあアーチャーに気づかれるのも時間の問題だと思う。
(ここは、腹を決めなきゃな……)
 深呼吸をして、意を決して、そのままアーチャーに声をかけた。

 アーチャーと白玉団子を作った。
 少しだけど、他愛ない話ができた。
 ……うれしかった。
 ますますアーチャーが好きだという気持ちがいっぱいになって、それでいて、やっぱり俺は、間違いを犯している気がする。
 アーチャーに、妬いているのか、と図星をさされて、浮かれていた自分を抑えるのに必死だった。なんでもない話題に戻そうと思うのに、頭が真っ白になって何も言えなくなったから、アーチャーはおかしな奴だと思っただろう……。
 夕食時の手伝いが終わって、逃げるように仕事に戻った。
 ギリギリと万力で押しつぶされていくように、ずっと胸が軋んでいる。
 凍てついたコンクリートに膝をついて、作業に取りかかろうと思うのに、身体が全然いうことをきかない。
 作業もしないのに、ここにいたって仕方がないから部屋に戻ることにした。しばらくぼんやりして、思い出したように風呂にも入った。
 なのに、身体は温まらなかった。ベッドに横になっても眠気が来なくて、縋る気持ちで一階の窓に向かった。
 寒くて寒くて、なのに部屋に戻る気も起きなくて、飽くことなく暗い窓の外を見つめる。
 時々風に押し付けられるようにして、白い雪がガラスにへばり付いている。だけど、それも強い風に吹き飛ばされて見えなくなった。
「いつまで続ければ……」
 いつまでって、アーチャーが座に還るまでだろうな。
 俺が言ったんじゃないか、カルデアで守護者じゃないアーチャーを見ていたいって。
「だけど……」
 苦しいばかりだ。
 そっとガラス窓に指先を触れれば、冷たさが末端から流れてきて、俺のすべてを冷やしていく。
「さむい……」
 違う。
 寂しい、だ。
 俺はいまだに寒いと嘘をつく。
 アーチャーと二人で過ごす時間が取れなくて寂しいんだ。だけど、寂しいと言葉にしてしまったら、現実味を帯びてしまって……、ますます寂しさを感じてしまう。
「俺は……」
 どうすればいいんだ?
 結局、恋人だとはっきり言われたわけじゃない。
 あの時、烙印のようだと言えば、そういうつもりじゃないってアーチャーは言って、そのままなんだかうやむやになった。
 どうしてあのとき俺は、素直にうれしいと言って受け入れなかったんだろう。
 恐かったんだろうか、後ろめたかったんだろうか。
 アーチャーのように、誰にでも恋人なんだと胸を張って宣言できる勇気がなかったからだろうか。
「……さむい…………」
 アーチャーの姿を見ているだけでいいと思ったのに、俺は欲をかいてしまった。
(だから、罰が当たったんだ……)
 つい、この間まで触れることのできた温もりに、俺はもう、指一本触れることができなくなった。
(アーチャー……)
 好きだと思うだけで満足だと思ったのに……。
 守護者としてではないアーチャーを見ているだけで満足するつもりだったのに……。
 次から次へと欲は深まっていくばかりだ。
「…………」
 窓の外の暗闇に舞う白い雪がきれいだと思うのに、なんだか可哀想に思えて、やるせなくなって目を伏せた。
「……さむいよ…………」
 誰に向かって吐いているんだろう……。
「はは……」
 誰か、なんてわかりきっている。
 バカバカしくなるほど、俺はアーチャーにそう言いたいらしい。
 だけど、言わない。こんなことを訴える資格は、俺にはない。
 さむいと言って誤魔化して、さみしいと真実(ほんとう)のことを言えない俺には、何も望むことなんかできない。
(アーチャー……)
 ガラスに頭を預けて瞼を下ろした。
 昼過ぎに見たアーチャーの姿が浮かんで、喜んでいる自分が少し可笑しかった。



「疲れているようだな」
「え?」
 食堂のテーブルを拭いていた俺に、アーチャーが突然声をかけてきた。そろそろ仕事に戻ろうと思っていたのに、テーブルくらいは拭いていこうなんて考えていて出遅れてしまった。おかげでアーチャーに声をかけられる始末だ。
「うん、ちょっと、な」
 何を言われるのかと、内心ビクビクしながら答える。
「無理してここを手伝うことはない。お前は少し休んで――」
「平気だ!」
「士郎?」
 しまった。つい、大きな声を出してしまった。
 休めと言われても休む気はない。アーチャーが俺の体調を気遣ってくれていることはわかっている。でも、食堂の手伝いをしに来ないと、アーチャーの姿を見ることができないから、どんなに忙しくてもこれだけは続けたい。
「ひ、一晩寝れば、疲れなんて、すぐに……」
 嘘だ。全然眠れないのに。
 きっとアーチャーにはお見通しなんだよな、俺が疲れ切っていることなんて。
 確かに、自分でもわかっていた。
 こんなんじゃ、いつ作業中に手違いを起こしてしまうかわからない。俺がケガをするのはいいけど、カルデアの人たちが俺のせいでケガなんかしたら……。
 それはやっぱりダメだ。ここはアーチャーに従う方がいい。だけど、俺は、アーチャーを見ていたい……。
「士郎、今日はもういい。送っていこう」
「え? あ、いや、いいって、俺、」
 迷っているうちにアーチャーに腕を取られ、持っていた布巾はブーティカに奪われ、食堂から追い立てられるように出される。もう一秒たりともアーチャーは俺を食堂に居させてはくれないらしい。
「いいよ、一人で行ける。アーチャーは食堂を、」
「かまわない。お前を部屋に送り届けるくらい、たいしたロスでもない」
「……ごめん」
 半ばアーチャーに腕を抱えられて、やっとのことで歩いている自分に気づき、素直に謝った。
「修繕作業が忙しいのだろう?」
「あ、うん。そう……」
 忙しいというより、俺がグズグズしているから時間がかかっているだけなんだけどな……。
「疲れが溜まっているのだろう?」
「ま、まあ……」
「ならば、もう少しセーブしろ。お前はサーヴァントではなく普通の人間なのだぞ」
「うん……」
 アーチャーの言うことはいちいちもっともで頷くことしかできない。反論できない、いや、反論なんてする気もない。
 素直に頷いたけど、それきり会話はなくなった。
(何を話せばいいんだろう……?)
 黙っているのも気まずいし、何か言った方がいいんだろうけど、盛り上がるような話題も思いつかない。下手なことを言って、またアーチャーに苦言を呈されるのはやっぱり辛い……。
「そら、着いたぞ」
「え?」
 グダグダと考えている間に俺が借りている部屋に着いていた。
「あ、あり、がとう、な……」
 アーチャーが俺の腕を放す。よろけて扉に片手をつけば、かちり、と解錠する音が聞こえる。
 扉を引き開け、部屋に入れば、
「ではな」
 アーチャーの声が俺を見送る。なんだか名残惜しくて振り返った。
「あの、アーチャ、っ!」
 声が詰まった。アーチャーと目が合う。
 部屋の前で俺を見送って、閉まっていく扉の向こうに……。
(アーチャー? なんで……)
 寂しそうな顔で俺を見ていた。
作品名:BLUE MOMENT15 作家名:さやけ