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BLUE MOMENT15

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(どうしてそんな顔を、しているんだ……? それって……、俺が、そんな顔を、させているって、こと、なのか?)
 閉まった扉が施錠される前に引き開ける。まだそこに在った腕を掴んだ。
「っ……」
 驚く鈍色の瞳は俺を見つめていて、
「あのっ、」
 何を言えばいいのかもわからないまま思いきり引っ張る。話すこともできなかったのに、俺はアーチャーを室内に引き込んでいた。目の前に立つアーチャーの背後で施錠された音がする。
「なんで……っ!」
 何を訊けばいいのかわからない。アーチャーも目を瞠ったまま、何も言わない。
「アーチャー、ごめん! 俺、アンタにそんな顔、させるつもりはなかったんだ、なのに、」
「そんな顔、とは、どんな顔だ」
「え? どんなって、その……」
 寂しそう、なんて、言っていいのか……?
 俺にそう見えただけで、アーチャーはとくに何も感じていないのかもしれない。咄嗟に口走ったことを、今さら引っ込めるわけにはいかない。でも、すごく寂しそうで……、一人にしちゃいけないように見えて……。
「…………はぁ。その気もないのに、私を簡単に部屋に入れるな。お前は本当に無防備だな」
 苛立ったように言ったアーチャーは、俺に背を向ける。
「ロックを解除してくれ。まったく、生体認証など、不便極まりないな」
 俺とまともに話もしないで、挙句、ここの扉のシステムに文句を言って、アーチャーは出ていこうとしている。
(なんで……?)
 アーチャーは、何も話をしてくれないのか?
 もう俺とは向き合ってくれないのか?
 ほんとのところはわからないけど、あんな寂しそうな顔で俺を見送ろうとしたクセに?
(わからない……)
 だけど、やっぱり、このまま行かせてはダメだ!



◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆

「ちょっと、待てよ! 話はまだ終わって――」
「終わらせなければならないだろう!」
「な、なんでだよっ!」
 声を荒げた私につられたのか、士郎も強く言い返してくる。
「いつまでも私がここにいれば、お前の身が危ういからだ!」
「え? な、んで……?」
「はぁ、まったく……。お前は、私がどうしたいのかを知っているはずだろう! だというのに……。不用意に私を部屋に入れるな!」
 強い口調ではっきりと言えば、士郎は要領を得ない表情で戸惑っている。
「私の言っている意味はわかるか?」
「っ、え……、っと……?」
 ますます困惑している士郎に再度ため息をこぼしかければ、
「あの、とりあえず、さ……」
 茶でもどうだ、と小さな笑みを見せる。
「っ……」
 すこん、と天井が抜けるように怒りが突き抜けた。
(その顔は、誰にでも見せる…………っ!)
 苛立ちがわだかまって胸糞悪い。
 士郎との時間が取れない私は、ずっと遠巻きに士郎を見ていることしかできなかった。そのときによく見かけていた顔だ。士郎が私以外の者たちと過ごす和やかな時間にいつも見ていた、その、小さな笑顔。
(ふざけるな……)
 私を、彼らと同じ、十把一絡げにするのか……。
 苛立ちは、さらにとぐろを巻いて肚の底に溜まっていく。
「同じ顔だな……」
「え?」
 低く呟いた言葉が、士郎には理解できなかったようだ。
「同じ笑みを浮かべて、私にもそんな上辺だけで……」
「アーチャー?」
 恋人にもこいつは、そんな上っ面だけの、良い顔をするのか。
「……っざけるな」
「え?」
 ほとんど声にならなかったからか、士郎には聞き取れなかったようだ。
 すぅ、と息を吸い、はっきりと声にする。
「そのツラ、二度と見せるな!」
 目を剥いた士郎に背を向ける。
「開けろ」
「……あの、」
「早くしろ!」
 鋭く言えば、士郎は私の脇をすり抜け、扉に触れ、そのまま引き開けた。
 士郎の部屋から出れば、低酸素の場所から出てきたように胸の痞えが治まる。
(顔を、見ることもできなかった……)
 突然怒鳴った私に、士郎はワケがわからなかっただろう。
 だが、今、この苛立ちを士郎に説明などできる気がしない。そして、あの部屋にいれば、私は士郎に何をするかわからない。
 この苛立ちの原因はおそらく嫉妬であり、ひどい独占欲だ。
 その解消法となれば、私には一つしか手段がない。
 だが、その行為は、士郎にとって何より避けたいことだ。いい加減、セックスを好きになれ、とも言えないし、私とだけならばいいだろう、などと勝手なことを押し付けるわけにもいかない。
 何しろ、士郎には他人の望みを叶えようと無理をしてしまう傾向がある。
 いつも、私がヤりたいと言えば、結局のところ受け入れている。セックスが嫌いだと言いつつ、いつも私が士郎を引き返せないところまで追い詰めるから、士郎は私を受け入れているだけだというのに、セックスが嫌いだと言いながらも受け入れるのだから、結局たいして嫌いでもないのではと、これは口先だけではないのかと、勝手なことを思っていた。が、それは、はじめだけのことで、今は全くそんなことは思わない。
 士郎は、自身が意に沿えない者を重視する。
 セックスを拒めば私が嫌な思いをする、だからセックスに応じなければならない、そんなふうに思ってしまう。どうにかして私の溜飲を下ろそうと、士郎は自分にできることは何かと考え、そうして私の望むことを丸呑みするように受け入れるのだ。
「たわけ……」
 衛宮士郎が他人を優先する性なのは重々承知している。
 私とて士郎をとやかく言えるような立場でないのは明らかだ。だが、士郎は何か、もっと妄信的に自身を投げ出さなければと考えているように思えて仕方がない。
(本当に困った奴だな……)
 明日も疲れきった顔をして食堂に来るならば、すぐに追い返してやろうと意気込み、私は厨房に戻った。
 だが、士郎を追い返す必要はなかった。
 翌日から士郎は食堂に来なくなった。



*** *** ***

(本当に好きなんだなー……)
 藤丸立香は視線の先の横顔を見て、そんなことを思った。
 テーブルを片づけ、いくつかの食器が載ったトレイを持ったまま、琥珀色の瞳が見つめているのは、厨房で忙しく働くエミヤだ。
(だけど、なんだって、あんなに寂しそうな顔をしているんだろう?)
 衛宮士郎がカルデアに戻ってきて、エミヤとはうまくいっているはずだと思っていた立香には、今の状況がいまいちよくわからない。
「えーっと……」
 一度、頭の中を整理しよう、と立香はレイシフトの前のことを思い起こす。
 エミヤとなんらかのいざこざのために、カルデアを出て冬木の現地調査をしていた士郎は、突然、カルデアに戻ってきた。しかも迎えに行ったのはエミヤだと聞く。
 それをダ・ヴィンチから聞いたとき、立香は思わず唖然としてしまったのだ。なぜ士郎がカルデアを離れる原因となったエミヤを迎えに行かせたのか、とダ・ヴィンチに抗議したほどだ。
「それでもね、彼らは切っても切り離せないんだよ」
 そう言ってダ・ヴィンチは、士郎のためなのだと立香を宥めた。どこが士郎のためなのか、と立香はダ・ヴィンチの言葉を鵜呑みにはしていなかったが、士郎がエミヤの部屋を訪ねたときに確信した。
(士郎さん、エミヤのこと……)
作品名:BLUE MOMENT15 作家名:さやけ