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BLUE MOMENT16

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「……さむ…………い、のは……」
「ああ、寒いのは?」
「……………………………………さみしい…………」
「っ……」
 寂しい……、だと?
 なぜだ?
 少なくとも私は常ではないとしても傍にいたというのに、か?
 士郎はそれほどに人恋しいというのか?
 私だけでは足りない、と……?
「…………」
 いや、そういうことではないのだろう。人に囲まれていれば満たされるような単純な話ではないのかもしれない。
 見知らぬ世界に放り出された心許なさと、それを誰にも理解されないだろうという孤独感、そして、ある程度の年齢を重ねていることによる矜持や今までの自身の仕事に対するプライド、そういうものがあるために誰にも打ち明けることができず、その胸のうちに溜め込んだ弱さは、おそらく士郎の奥底に沈殿し続けたはずだ。
 寂しいと言えず、寒いとこぼして、士郎はカルデアでの日々をやり過ごしていたということなのか?
(そんな苦しさを抱えた士郎に気づくこともできず、私は……)
 やりきれない。
 私は士郎を知りたいと思い、その深層心理にまで土足で踏み込んでおきながら、なんら士郎を理解できていなかった。
 士郎の心はきっと、ずっと、さみしい、と叫び続けていたのだろう。
(自身の居た世界から弾かれて、帰る場所も、行く先も失って……)
 だから、士郎はただ、ここに留まっているだけの存在だということが自分自身で納得できず、自身の存在を証明することに躍起になり、私を求めた。
 同じエミヤシロウなら、何かしらの突破口が見つかるかもしれないという期待もあったのかもしれない。
 理想を失った士郎が、理想を果てまで突き詰めた私をどんな思いで見ていたのか。
 悔しさ、憧憬、やるせなさ、嫉妬、畏れ、いろいろな感情が綯い交ぜになり、士郎にはどれがどう、という区別も付けられないほどに、混沌としてしまっていたかもしれない。
(そんな私を前にして、士郎が素直に何もかもを享受できるはずなどなかったというのに……)
 何も気づかず、何もわかろうとせず、ただただ士郎が欲しいと、頑是ない子供のように私は駄々をこねていただけだった。
 甘やかしてやるなどと意気込んでおいて、その実、私は士郎を苦しめただけではないのか……?
「士郎……」
 顔を覆った手に触れれば、強張って身を縮めたが、それ以上の動きはない。それをさいわいと、手首を掴み、そっと顔から剥がした。冷たい皮膚が、士郎の身体が冷えきっていることを物語っている。
「士郎、すまない」
 ぴくり、と頭が揺れ、顔を上げた士郎は、驚いたような色を乗せた琥珀の瞳で私を見つめる。
「私がもっと深くお前を理解できていれば……」
 少し首を傾けた士郎の仕草は、どうにも幼い。
「……こんなに苦しめずにすんだというのに」
 二度、三度と士郎が瞬くと、濡れた睫毛から小さな水滴が散った。
「なんで、アンタが謝るんだ……?」
 不思議そうに士郎は私に訊ねてくる。
「私がお前を何も理解していな……、いや、理解しようとしなかったからだ」
「…………ご、ごめ……、よく、わからなく、て……」
 本当に困惑した表情をしていることから、逃げでも誤魔化しでもないとわかる。
「士郎が謝ることではない。私がお前のことを理解できなかったから、士郎は要らぬことで悩み、傷ついたのだ」
 士郎はぼんやりと私の言葉を聞いているが、脳が寝ているのか、思考力をどこかで落としてきたのか、それらしい反応をまったく示さない。
「まあ、今はわからなくていい。士郎が理解できたと言うまで、何度でも言うから」
 少し居心地が悪そうな顔で瞬いていた士郎は、不意に私を真っ直ぐに見つめた。
「一つ、訊いても、いいか?」
「ああ」
「…………」
 開きかけた唇は一度引き結ばれ、再び開いた唇は、何も言葉を発しない。
「士郎? 何を訊きたいんだ?」
 気は逸るものの焦らせないよう、極力穏やかな声を選ぶ。
「あの……」
「なんだ?」
「……お、俺は…………、アーチャー、俺は、なに?」
 震える声が訊ねてくる。なんと答えるべきか、本当ならば悩むところだ。この世界に突然現れた者だとか、そういう現状のことならば、いくらでもつらつらと説明臭く述べることはできる。
 だが、今、士郎に必要なのは私にとっての、士郎の存在意義だ。
「衛宮士郎、私の恋人だ」
 したがって、今度ははっきりと言い切った。そして、もう二度とうやむやになったなどと言わせない。
「士郎? どうした?」
 少しくらい喜んでくれるかと思ったが、全くその気配はない。ぼんやりとしていて、何も言っても来ない。正直、気持ちはだだ下がりだ。
 やがて、呆けたようにぼんやりとしていた士郎の、濡れた琥珀色の瞳が瞼に隠れ、
「そう……なんだ……っ…………」
 他人事のような呟きをこぼした唇から、嗚咽が漏れてくる。
「士郎、お前は間違ってなどいない。間違っていたのは私の方だ」
「ち、が……、アー、チャ、は、」
 嗚咽交じりに否定する士郎をそっと抱き寄せれば、身体を預けてきた。もう拒まれていないということに安堵して、さらなる愛しさが込み上げる。
「すまなかった。お前はいつも、他人に心地好い言葉ばかりを吐くのだ、と所長代理から何度も聞いていたというのに、まさか私にまでとは思わなかった……。お前にとって私は元を同じくする同一の存在ではなく、全くの他人という認識だったのだな……」
 濡れた目尻を舐めて額にキスを落とす。が、今さらそんなことにも身を硬くする士郎にやるせなくなった。
「俺は…………間違えて、ばかりだ……から…………」
「いいや。あながち間違いともいえない。士郎は初めから私を自身と同一の存在と見ていなかった。ということは、私は他のサーヴァントやカルデアのスタッフに比べれば特別な存在だった、ということだろう?」
 他の者と十把一絡げにされていると思っていたが、他と同等の存在であるというのに、士郎は私とだけセックスをしていた。
 その意味を考えれば、自ずと自身の存在が士郎のどこを占めているかなど丸わかりだ。
 ましてや士郎はセックスが嫌いだ。だというのに、嫌いな行為でもできてしまう私との関係は、もはや、他の追随を許さぬほどにかけ離れている、ということなのだ。
 そんなことにようやく気づいている私は、士郎のことをとやかく言える立場ではない。私もクー・フーリンあたりに言わせれば、鈍すぎる、という部類に入るのだろう。
 座り込んで、私に身体を預けたままの士郎は、時折、ひくりひくり、としゃくり上げていたが、そのうちに私の腕の中で眠ってしまった。
 抱き上げてベッドに運び、そのまま私も士郎を抱き込んで布団を被る。
 冷え切った身体を温めてやりたい。それに、士郎が言った、起きたらいなかった、という言葉が私には少なからず刺さっている。
 それは、直近のレイシフトに向かう前、士郎の部屋で過ごし、眠る士郎を起こさないようにと配慮したつもりの私の行為。
作品名:BLUE MOMENT16 作家名:さやけ