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その先へ・・・3

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(3)



1905年。
平穏な一年とは、決して言えない一年だった。
後年振り返ってみると、きっと一つのターニングポイントになるのであろう年であった事は間違いない。
いまだ蠢く不穏な種をはらみつつ、それでも人々は来るべき新しい年に希望を馳せていた。
しかし……
もう間もなく新年を迎えるというのに、ペテルスブルグはまだ落ち着きを取り戻していなかった。
モスクワ蜂起と呼ばれる反乱に加担した者たちの公開での刑の宣告が間もなく行われるのだ。



今度は何人なのだろう?
誰がいるのだろう?
知っている人はいるのか?
息子は……?
恋人はいないだろうか?

わたしたち……、おれたちの為に……


新年を迎える賑わいとは対照的に、人々の心には暗い澱の様なものがずしりと埋まっている。



ユスーポフ家でも、新年を迎える準備に皆余念が無かった。
邸内はきらびやかに飾りたてられ、侯爵夫人たるアデール姫が宮廷から連れてきた侍女達がここぞとばかりに振りまく香水の匂いでむせ返るようになる。
その割に侯爵夫人は夜ごと催されるパーティーに参加し、家族で穏やかに新年を迎えるつもりは毛頭ないらしい。

レオニードもモスクワから戻って以来、何か重要な案件を抱えているらしく邸にはあまり戻ってこない。
邸内に戻ってきても書斎にこもりっきりになってしまい、夫人はもちろん姉弟ともあまり顔を合わせない日が続いた。

ヴェーラは、普通であれば侯爵夫人が取り仕切る雑事を執事と相談しながら淡々とこなしている。
その忙しさが、今の彼女の気持ちを支えているようであった。

そんな中で、リュドミールは家庭教師から多少のお小言をもらいながらロシア語の勉強に勤しんでいた。
時々訪れる天気の良い穏やかな日には、体力づくりの為にフットボールの練習をすることもあった。
忙しくて相手をしてやれない小さな弟の為、レオニードが執事に命じてリュドミールのフットボール練習場を即席で作ってやったのだ。
練習場と言っても、少年が走り回れるスペースの雪かきをしてくれただけの簡単なものだ。
それでもリュドミールは飛び跳ねて喜び、時間が出来ると練習場でボールを一人操った。
壁に向かってボールを蹴り、跳ね返ってくるボールを追いかけてまた蹴る。
時々後ろにそらしてしまうボールを追いかけてもとに戻すと、また壁に向かって蹴る。
ただ、単調であまり変化が無い『壁フットボール』を一人で続けるには、小さなリュドミールには限界があった。
「あ~あ、つまらないな」
ユリウスと一緒にボールを追いかけていた事が思い出されて、今がとてつもなくつまらない。
ボン!と雪の上をめがけてボールを大きく蹴り、邸内へ戻ろうとした時……。
「フットボール、好き……なの?」
聞き覚えのある声が聞こえてきた。
リュドミールは慌てて声がする方を見る。
雪に反射した光が眩しくて思わず目を細めた。
その視線の先には、透き通ってしまいそうな金髪の天使が立っていた。
「天使さま!!」
驚いたリュドミールがしっかりと瞳を見開き見つめると、天使はユリウスへと姿を変えた。
「え?……ユリ……ウス?!」
リュドミールは走り寄った。
「うわぁ!ユリウス!」
「……きみは……リュドミール……だったっけ?」
「そうだよ。ねぇ、もう元気になったの?」

少し前、リュドミールは兄と姉に呼ばれ、ユリウスがケガがもとでこれまでの記憶が無くなってしまったことを知らされた。
姉の隣に座っていたユリウスを見ると、幼いながらも彼女の様子がこれまでとは違う事がわかった。
鋭い目つきで睨んでいた兄のことを伏し目がちで縋りつくように見つめていたし、おどおどと不安げで、自分の事もわからない様子に少なからずショックを受けたものだった。

「あれ、フットボール……だよね」
リュドミールの質問には答えず、雪の上に転がるボールを見つめていた。
「そうだよ。フットボールの事はわかるの?」
「うん」
「へぇ。ねぇ、一緒に出来る?フットボールやろうよ!」
「え、でも、どうしたらいいか分からないよ……」
「大丈夫だよ!わからなければ、今度はぼくが教えてあげるよ!ねぇ、早く早く!!」
リュドミールはユリウスの手を取り庭へ誘い出した。
「ちょ、ちょっと……あの……」
ユリウスはリュドミールに引っ張られるまま庭に出た。
「よおっし!いくよぉっ!もう、負けないんだから!」


作品名:その先へ・・・3 作家名:chibita