その先へ・・・3
結果はリュドミールの惨敗だった。
初めこそボールの扱いに戸惑っていたユリウスだったが、何度か繰り返す内に自然と体と足が動き出し、不思議なほど軽々とボールを操れる様になった。
ケガが治ったばかり。しかもこれまでの事を忘れてしまったと言われていたので、自分の方が圧倒的に優勢だろうと思っていたリュドミールは目を丸くした。
「驚いた!すごいよ!ユリウス。前とぜんぜん変わらないや!もしかして思い出したの?」
十分に体力が回復していないユリウスは、肩を上下させ息が上がっていたが、とても生き生きとして見えた。
「ううん。……でも不思議なんだ。自然に体が動くんだ。なんでだろう」
「ふうん。フットボールが好きだからじゃない?」
「えっ?」
「ユリウス、前に言ってたよ。フットボールが好きだって」
「そう……ぼくが、フットボールが好き……」
「好きなものは覚えているんじゃない?」
「好きなものは覚えている……?」
「うん」
「そんな簡単なものかな?」
「簡単だよ!だって、今できたじゃない。ピアノだってそうだよ。そういえばさっきピアノ弾いてたでしょ?」
「うん」
リュドミールがロシア語の勉強をしている時、音楽室から微かにピアノの音が漏れ聞こえてきたのだった。
ユリウスが弾いている!と、とっさに思い駆けだしそうになるのを 家庭教師にとどめられていたのだ。
「前と同じように弾けていたたよ!ユリウスは、ピアノも好きだったんだよ」
「ぼく、ピアノも好きだったの?」
「そうだよ。とっても上手だよ。また弾いてよ!」
「ねぇ、ぼく、他に何が好きだって言ってた?教えて!」
「いいよ!本を読むのも好きだったよ。いつも読んでた。木登りも好きだよ。一緒に登ってねえさまに叱られた。あ、魚釣りも好きなんだって。これは一緒に出来なかったけど」
「それから?」
「うーん……、あ、そうだ。ユリウスが教えてくれた不思議な窓の話があるよ」
「えっ?なに?」
「あのねぇ」
その時、ヴェーラが慌てた様子でやってきて、二人に向かって声をかけた。
「まぁ、リュドミール!ダメじゃない。まだユリウスは回復途上なのよ。さぁ、おはいりなさい。そんな恰好で風邪をひくわ!おにいさまが二人を呼んでいるから急いでね」
「はぁい。さ、行こう!ユリウス!」
リュドミールは小さな手でユリウスの手をとり、引っ張って行った。