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自分らしく
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彼方から 第三部 第三話

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「ジェイダ左大公達とも話し合ったんだ。わたしはこの、占者の力を使って、まず、行方不明になったこの国の大臣達を捜しに行く」
 その言葉と共に引き締まってゆく。
 彼女の瞳には確かな決意の光が、見える。
「幸いにも、あたしゃもう、国専占者じゃないんだよ。どこへ行こうと、何をしようと、自由なわけさ」
 だが直ぐに、周囲の人たちが必要以上に重く、負担に思わないよう気遣ったのか、へらっとした笑みを見せながら、そうも言ってくる。
 しかし、彼女の決意は本物なのだろう――
「その他の国もみんな、今、ザーゴやグゼナと似たような状況なんだ」
 両足で、力強く大地を踏み締めるように立ち……
「争いに向けて流れ出した、この世界の動きを押しとどめることが出来ず、追いやられ、消えていった多くの人物達」
 意志を固く、強く保つかのように拳を握り締め――
「そんな彼らも捜し出し、みんなが連絡を取り合えるようにするつもりなんだ」
 そして改めて、皆をその強い光を宿した瞳で見渡し……
「あんた達――一緒にやってくれるかい?」
 優しく、穏やかに問い掛けていた。

 沈黙が、流れてゆく……
 それは、否定を意味するものではなく、一人一人が、彼女の言葉を自分の中で消化する為の……その意味を、理解する為の――間。

「考えてみておくれ、選択は任せるよ。急がないからさ」
 ゼーナはガーヤと同じような、大らかで温かい笑みを皆に向け、
「ノリコの方も、まだ、訳の分からない問題を抱えているしね」
 自身もそれなりに大変であるはずなのに、心遣いを見せてくれる。

 ――あ、そうだ
 ――あたし……正体不明の奴に狙われたんだっけ

 ゼーナに言われて、ノリコは今更のように、自分が置かれた状況を思い出した。

 ――それにしても、スケールのでかい話しだなァ
 ――そんな時にあたしなんて、イザークの顔色一つで一喜一憂してたりして……

 なんとも緊張感のない自身が、この場にはそぐわない様な、少し、情けない思いがする。
 それでも、気になるものは仕方がない。
 ノリコは、隣に腰掛けるイザークの横顔を、チラリと盗み見ていた。
 どこか……空の一点を見詰めているイザーク。
 その横顔からは、何を考え、感じ、思っているのか、ノリコには見当もつかなかった。
 そんな彼女を、そしてイザークの行動を、バーナダムは静かに見やっていた。

          ***

「面白れぇな……」
 流れる沈黙の中、
「ナーダのご機嫌取ってるより、面白れぇぜ」
 バラゴが戦士の顔つきを見せ、不敵な笑みと共に呟く。
 彼の呟きに触発されたかのように、アゴルはジーナの頭に優しく手を置くと、
「【天上鬼】と【目覚め】のことは、どう――お考えですか?」
 ゼーナに敬意を表しながら、訊ねていた。

 イザークの体が、誰も気づくことが出来ぬほど小さく、ほんの一瞬だけ、反応する。

 ――あ……
 ――前にジェイダさんが話してたアレだな

 ノリコも反応を見せたがそれは……ガーヤの店に左大公達が訪れた際のことを思い出しただけに過ぎない。
 イザークの『それ』とは、かなり意味合いが異なる……
 ゼーナはゆっくりと、アゴルの方に向き直り、
「そうだねェ……」
 彼の発した【天上鬼】と【目覚め】――その二つの単語の持つ意味を、深く考えるかのように少し、黙した。
「不気味な存在だねェ、正体も居所も分からない。それがこの先どうなって、どんなことをこの世で行うのか……」
 穏やかな笑みを見せながら、
「占いで伝えられている、不吉な予言が気になるけど――でも、わたしは……」
 東屋の外、晴れ渡る空を見上げ、
「さっきも言ったように、未来とは変化していくものだと思うから……決まってしまった未来なんてないと、思うから……」
 皆に、そして自分自身に言い聞かせるように――
「些細なことでも……今、手元にある自分の出来ることを使命と考えて――やっていこうと思ってるんだ」
 そう、締め括っていた。

 アゴルは、ゼーナの言葉を胸に留め置くように目を伏せながら聞き入り……そっと二人を――イザークとノリコを見やっていた。

          ***

 ――うん、そう

 彼女の言葉に、その想いに、共感する。

 ――あたしもそう思って、今日まで来たんだっけ

 言葉を覚えようと、そう思った時のことが蘇ってくる。
 言葉を覚えれば、こんな自分でも、出来ることがある。
 自分の出来ることが分かる――と。

 ――あたし
 ――なんだかそれを、忘れていた……

 日々の生活に埋もれ、いつしか当たり前のようになり、改めて『想い』を確かめることなど、ここ最近はなかったことだ。
 今、手元にある出来ることをやる――それは、至極普通で当然のことのように思えるが、事が些細になると後回しにしがちなことでもある。
 『使命』とは、思わないし思えない。
 『些細』なことに対しては……

 これまで、どんなことでも――そう、どんな小さなことでも、自分の出来ることが眼の前にあれば、それを一生懸命にやって来たはずだった、そのつもりだった。
 いつの間にか、本当に『つもり』になってしまっていたのかもしれない。
 あの日のあの想いを、忘れてしまっていた……

 ノリコは、ゼーナの想い、言葉に、大切なことを思い出させてもらっていた。

          ***

  『決まってしまった未来なんてない』

  『未来を決めるのは、自分』

 彼女の言葉が、静かに心の表面を打つ。
 未来を描くことの出来なかった自身の心の底に、波紋を広げながら沈んでゆく。
 今は、その言葉に確信は持てない。
 けれど、確実に揺さぶられている……心が。
 求めることを諦めかけていた心が、揺さぶられる。

 未来が決まったものではないのなら――
 行く先を決めるのは自分であるのなら――
 希望は、あるのか――
 抗う、その方法が……

 荒れた海の底、波立つ水面を見ているだけでは気付くことの出来ない、深く静かで、確かな流れ。
 その大きく力強い流れが、イザークの心に変化と光を、齎そうとしていた。

          ***
 
 ――ん?

 ここ半年程の騒ぎで、ゼーナはすっかり忘れ去っていたが……

 ――そう言えば……

 アゴルが振ってきた話題でふと、思い起こした。

 ――【天上鬼】と【目覚め】を占った時と
 ――あの二人を占った時の映像……
 ――なんだか似てる……

 そう思い、ふと、二人を振り返る。
 もしも今、『破裂』していなければ、もう一度、『二人』を占ってみたかった。
 それに、その『破裂』……ここ二十年ほど、なったことなどなかった……
 二十年ほど――二十年ほど前……あの時『破裂』してしまったのは、『何を』占った為だったろうか……
 
 東屋の中、並んで座る二人を見やりながら、ゼーナは二十年ほど前、『破裂』してしまった占いのことが気になり始めていた。

          *************

 ――その夜――

「でも、口惜しいわ! 旅に出るってことは、ワーザロッテの言いなりに、ここを出てくってことだもの!」