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BLUE MOMENT17

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 アーチャーは意外とあっさり手を離した。バスタオルの隙間から見上げれば、不機嫌な眉間のシワを刻んだ顔がある。
「なんだよ?」
「紅茶を淹れるが、飲むか?」
「え? あ、うん」
 思わず頷いていた。断れるような感じじゃなかったし、断ることもないと思ったし、何より断りたくなかった。
 アーチャーの作ったものを……、たとえ紅茶一杯でもいいから口にしたかった。
(俺……、そうとうアーチャーに参ってる……)
 今さらって気もするけど、やっと素直に認めることができる。俺が、どうしようもなく、アーチャーを好きなんだということを。

 ベッドに胡坐をかいて、ぼんやりとアーチャーを眺める。
 手際よく紅茶の準備をするアーチャーを見ているのは、やっぱりいいものだなとしみじみ思う。アーチャーは掃除屋なんかしてるより、こういうことをしている方がずっと似合っている。
(見ていられるんだな、まだ……)
 守護者じゃないアーチャーを、俺はまだ見ていることができる。それが何よりうれしい。
 飽きもせずその様を眺めていると、こちらを振り返ったアーチャーがベッドに近づいてきた。ティーバッグしかないのか、とかいう文句とため息を聞かされながらマグカップを手渡される。
(熱々だ……)
 紅茶は熱湯で淹れるから当たり前だけど、すぐに口を付けると火傷をしそうだ。
 飲みごろになるまでマグカップで両手を温めていれば、俺の背後に陣取ったアーチャーに抱き込まれた。
(あったかい……)
 紅茶もアーチャーも。
 俺がずっと欲しかった温もりが、勿体ないくらいに垂れ流されている気がする。
 アーチャーが傍にいるのは気恥ずかしいけど、すごく安心だ。
 ちょっと身構えていたけど、過敏になってしまった背中でアーチャーを感じているのに、以前ほど変に熱くなったりしない。これは、アーチャーに慣れてきたってことか、それとも、皮膚が正常に戻ってきたのか。
 治ってくるんなら、それにこしたことはないよな。あんな変な身体はちょっと嫌だったし……。
(それにしても、ねむ……)
 自覚はなかったけど、ずっと張り詰めていたんだろう、アーチャーの温もり、というか熱を感じると条件反射みたいに瞼が重くなってしまう。
(けっこう寝たのにな……)
 丸一日寝ていたってアーチャーは言っていたから、睡眠は十分のはずだけど……。
 重くなってくる瞼を何度も意識して上げる。眠気をどうにかしようと紅茶を啜り、ティーバッグなのに美味いなとか、さすがだな、とか思いながら、飲みごろに冷めた紅茶を、こくこくと水でも流し込むように飲み干した。
「士郎、」
 俺がうとうとしはじめたのがわかったのか、アーチャーは飲み終えたマグカップをそっと俺の手から奪った。俺はと言えば、アーチャーに身体を預けて、もうひと眠りする算段だ。
「士郎、少し、いいか?」
「んえ? な、なに?」
 寝たらダメだったみたいだ。
 慌てて姿勢を正そうとすれば、緊張するなとでもいうように二の腕をさすられる。
「士郎、この部屋にはお前しか出入りができない。私はそれが心配だ」
「え?」
 急にはじまった話にどうにかついていく。
「中で何かあっても、士郎が扉に触れなければどうすることもできない。もし施錠された状態で士郎の身に何かが起こっても、誰も助けに入ることができないというのは、やはり……」
「あ、う、うん……、そうかも……」
 何かに襲われることはないかもしれないけど、急病とかで俺が意識を失くしたりしたら、ほんとにマズいことになる。
「だから、士郎。扉の生体認証に私のものも加えていいという許可をしてくれないか?」
 アーチャーは静かに話す。まるで子守歌みたいだ。眠気に負けてしまいそうになるけど、寝てはダメだ。ちゃんと話を聞かないと……。
「ア、アーチャーの、認証、を?」
「ああ。所長代理に一応打診をしているが、士郎の許可が必要だと言われてな。それで今、士郎に頼んでいるのだが」
「あ、あの、えっと……」
 アーチャーは、俺のことを心配して、緊急時の対処に困るからって言っている。
 そうだな、アーチャーの言うことはもっともだ。それを俺は感謝して、もちろんそうしてくれって、言わなきゃダメなのに……。
 なのに、どうして俺は不貞腐れたような気分になっているんだろう?
 アーチャーは俺の身体を心配してくれているんだぞ?
 喜ばないといけないのに、なんで俺はこんな……?
 こんなの最低だ。アーチャーの気遣いをどうして俺は喜ばないんだ……。
「……その、士郎。理由は、急病などの緊急事態のことばかりではなくて、だな」
「へ?」
「緊急の時はもちろんだが、それ以外で……、その……」
「はあ」
 緊急以外って?
 アーチャーはなんの話をしているんだ?
 自分でもずいぶん間抜けな声を上げたと思う。実際、ぽかん、としてアーチャーにもたれていただけだし……。
「士郎、私は、その……、“合鍵”が、欲しい」
「…………」
 合鍵……?
 でも、俺の部屋に鍵はなくて……、俺の生体認証だから、扉に触れるだけでよくて……。
「合か……っ、ふぁっ? い、いや、え? な、なん、え? アーチャー? だ、ダイジョブ、か?」
 思わず上半身ごと振り向いて確認してしまう。
「……いたって正気だ」
 むっとしたアーチャーは子供みたいに拗ねた表情をした。
「え、えと……、そ、その……、うーっんと……」
「そ、それで! どうなのだ!」
 アーチャーが……、照れ隠しに怒った口調になってる……。
 びっくりだ。アーチャーのこんな顔、初めてかもしれない。
「あの……、うん」
「は? うん、では、わから…………、まさか、い、いいのか?」
「うん、いい」
「おい! もう少し考える時間が要るのではないのか!」
 オッケーしたのに、なんでアーチャーは、そんな忠告みたいなこと言うんだろ?
 合鍵が欲しいって、他でもないアーチャーが言うんなら、俺は二つ返事でオッケーだ。
「考えることなんて、ないよ」
 だって、俺は、アンタの恋人なんだろ?
「士…………」
 口に出す勇気はまだないけど、そのつもりで言い切れば、アーチャーは目を丸くして、ちょっと不貞腐れたような顔をして、それから、わざとらしくため息をついた。
「やっとわかったか、この鈍感め」
 小言みたいな言い方だけど、それが照れ臭さから生まれたものだとわかったから素直に頷く。
「これで、所長代理に胸を張って頼める」
 アーチャーはうれしそうに笑って、俺をぎゅうっと抱きしめた。
「こ、こら、苦しいって、」
「あ。すまない、つい力が……」
 すぐに腕を緩めて、アーチャーは謝る。
(別にいいんだけどさ……)
 窒息させる意図なんてないのはわかってるし、好きな人にキツく抱きしめられるのが嫌な奴なんていないと思うし……。
 だけど、やっぱり照れ臭いのもあって、苦しいなんて言って、ちょっともがいてしまう。
「じゃ、じゃあ、ダ・ヴィンチのところに行こうか」
「い、今から、か?」
「うん。早い方がいいだろ?」
「まあ、そうだが……。もう少し休んでからの方がいいのではないか?」
 アーチャーは俺の体調を気遣ってくれる。
「丸一日寝てたんだから、平気だ」
作品名:BLUE MOMENT17 作家名:さやけ