はじまりのあの日~一夏の恋の物語1~
「おはよ~うがっくん」
うっわ、コノ声超嬉しい。目をこすりながら、リンが起きてきた。時計を見れば、時刻は五時
「おはよう、リン。はやいじゃない。お、お着替えも済ませたの」
「お手伝いのために、早起き、早起き~。うん、身支度整えた~」
といって、俺に抱きついてくる、簡単な部屋着のリン。ああ、なんつうかわいさ。抱きかえしたい、ヨコシマな衝動をおさえつつ
「ありがと、リン。じゃ~お手伝いお願いしようじゃない。まずリビングのテーブル拭いて、キャスターでこのめだまやき艦隊運んで~」
「こころえたっ」
破顔して、キャスターを取りに行くリン。あ~あ、かわいい
「も~、ちょっと傷ついちゃうな~。殿だけだもん、お手伝いの名前に呼ばれたの~」
「お前は十分幸せ者じゃない、カイト。愛する奥様がいてさ。このくらいの役得、いいじゃない」
眉を下げるダチ。言葉通り、幸せ者め、俺だって羨ましい
「がっくん、蠅帳、被せた方がイイよね。持って行く~」
「お利口さ~ん、さすがリン」
そう、まだ羽虫が飛ぶ季節。防虫重要。キャスターにめだまやきを載せ、蠅帳抱えて、運ぶ『嫁』
「まぁ、そだね~。このくらいの事で不満言ったら、バチが当たっちゃうか。オレはめ~ちゃんと結ばれて、許されてるワケだから。殿が来てからだもんね、リンが料理、し始めたの」
「ぅふ、だって、がっくんと一緒にしたいから。がっくんと一緒にお料理するから、楽しいの」
ちょっと頬を染めて言ってくれるリン。凄まじくかわいい
「あ~あっ、もうっ、オノロケちゃってさっ。殿っ、解んないでしょ、妹を取られちゃった、お兄ちゃんの無念~」
悔しがりながら、でも笑顔だな、カイト。そのお兄ちゃんに
「カ~イ兄~っ、いいじゃな~いっ、カイ兄にはめー姉が居るんだしっ。それに、がっくんだって取られちゃってるんだよ、めぐ姉。勇馬兄にさぁ。リリ姉だって、キヨテル先生に夢中じゃな~い」
はじめ笑顔で、もっともなことを言うリン。しかも、俺まで気遣って下さり、ありがとう。口調も真似てな~い。ただ後半
「わたしとがっくん、成れてないんだよ、恋人に。仲良しさんでいてくれるのは嬉しいけど。わたしとがっくん、恋人はダメなんだよ」
やや尻すぼみ、痛そうな笑顔。堪えてる顔。我慢させてるじゃない、俺。ごめんね、リン、年齢大人の
「俺のせいだ。こんなに離れた大年増、純粋少女をカドワカシテ。辛いなぁ、リ~ン。本当にすまない」
「謝っちゃ、ヤ。がっくん、わたしはがっくんが好き。どんながっくんでも」
俺が何時も言ってる台詞、返してくれる、やさしい子
「さ~、ご飯の準備しよ~お。ごめ~ん、変な流れ作っちゃって~。リ、リン、お醤油も持って行って~」
ワザと声高に謝ってくるカイト。醤油入れをキャスターに載せる
「ん、じゃあ、置いてくるね、がっくん、カイ兄」
「戻ったら、一緒にご飯、作ろうじゃない」
俺が出来る、この子を癒してあげられる方法の一つ。頭撫で撫で。笑顔になって、目玉焼きと行く、リン
「ごめんね、殿。余計な事言っちゃって」
「俺はいい。何処まで行っても、反則してるのは俺じゃない」
申し訳なさそうに、眉を下げるカイト。俺、リンが行った方を観る
「けどさ、あの子は気にしてるじゃない。早く大人に成りたい、そんな想いが伝わってくるわけ」
「でも成れない。事実、まだ子供っぽいトコロあるもんね、リン。精一杯、背伸びしてるけどね」
そ~う、さすがカイ兄、わかってるじゃない
「リンが思い描いてる『大人像』は、俺達『大人(笑)』の大人じゃあない。明確には解らないけど、きっとズレがあるじゃない。その差が埋まる日まで、リンがそこに近付く日まで。最低限、俺があの子を『大人』と思える日まで。俺とリンは今のまま」
「そっか、ホントにゴメンね、兄ちゃん。辛い、よね、その状態」
申し訳なさそうに上目遣い、するなよカイト。可愛いじゃない
「こんな馬鹿げた恋愛劇、大人と子供の恋物語。巻き込んじゃった俺に責任がある。断る事も出来たじゃない、あの日。でも、断れなかった、俺は」
そうだろう、だって気がついちゃったから
「純粋少女に恋してる、不埒な自分に気付いたから。俺は好きなんだよ、リンが。どうしても断れなかった、その『好き』の対象から告白されて。弱いじゃない、俺。もしかしたら、リンの将来、奪っちゃうかもしれないってのにさ」
「殿はさ。考えなかったの『断る事』でリンが傷つくって」
ん、そんな可能性もあったか。でも考えなかったじゃない
「あの場で断っても、きっと『間違えだった』って気付いてくれる。そんな風にも考えた、チラッと。それでも断る事が出きなかった。本当に、俺は」
「殿、リンのことだから、オレ、きっと間違ってないと思ってる。リンがね、殿を好きになったこと。本人以外はホントのことは解らない。でもさ」
カイト、まぐろカマが入ったタッパ、蓋閉めながら
「あの子が決めたことだから、きっと間違ってないと思う。殿が来るまでの三年間、俺達は一緒に過ごした。五歳の姉弟が、自分の意志でオーディション受けて。親元離れて、やって来て。弱音も吐かずに、一生懸命歌って、さ」
そうだ、それは、俺の知らない物語。考えてみれば凄いじゃない、五歳で、しっかり意志がある。へこたれない、打たれ強さを持っている
「ここまで、何一つ間違えてないと思うんだ、双子ちゃん。いや、失敗とかは、いくらでもあったケドね。オレやめ~ちゃんにお説教されて、泣いちゃうとかさ」
誕生日、忘れたりな、カイト
「でもね、間違ってないんだよ『人生の選択』は。今、リンレン、大好きな人達に囲まれて、大好きな歌を歌って。今、すごく幸せな人生だと思うんだ」
すごい説得力じゃない、さすが『カイ兄』解っていらっしゃる
「オレが15の時なんて、リンに全然及ばない」
俺も全く及んでない。そうな、あの子の領域に到達できた、そう感じたのは、少なくとも25を過ぎてから。このPROJECTに、参加出来てから
「そのリンが選んだ、殿を。14歳で『生涯の伴侶』を見つけた。普通じゃあ考えられない。でも、オレ思うの『リンが選んだ殿だから、きっと正しい事だろな』って」
そうで在って欲しい。そして俺が、そういう存在で有りたいと思う。誰よりも、俺自身が
「だから、俺もみんなも応援する。殿とリンを」
「有難い(ありがたい)話じゃない。普通『援護』さえされない、間柄だ」
「うん、でもね、殿」
ダチの声のオクターブが下がる。より一層マジバナ(真面目話)か。俺も、惣菜収納を止め、カイトを観る。微笑みと怒り、その中間の顔。一番のマジバナをするときの、真顔
「『絶対に間違ってない』って言えない。だって物事に『絶対』なんて無いんだから。で、ね、殿。殿が『しんどくなってきた』って言ったから、オレ言う。殿が『見境(みさかい)』無くしたら、それこそリンの将来、総て奪っちゃうからね。そうなったら、オレは許さない『14歳のお母さん』なんて物語があったくらいだから」
よく言ってくれた。さすがは俺のマブダチだ
作品名:はじまりのあの日~一夏の恋の物語1~ 作家名:代打の代打