はじまりのあの日~一夏の恋の物語1~
「それだ、俺が一番恐れるのは。カイト、お前が恐いんじゃない。世間様の『制裁』が恐いわけでもない。まぁ、お前に嫌われるのは恐いか、親友、敵にはしたくない」
「オレも、殿と仲良しでいたいもん」
カイト、困った顔した。複雑な問題
「俺が恐れることは『リンを疵つける事』どの意味合いにおいても『最大限』疵つけること。俺は誰よりも、それを望まない。俺が一番、忌み嫌う行為『疵つけたくない』誰よりも愛しい、リンを。だから俺は耐える。やせ我慢も男の修行。地元、越後出身、偉大な元帥様のお言葉だ」
俺がどんな顔したか解らない。自分の顔、見えないじゃない
「殿」
でも、どんな顔してたか、カイトの顔で察することはできた。今度は誰より、相手を思いやる時の微笑みだった
「辛いんだね。リンと恋人に、成れないの」
「辛いな。でもいいじゃない。俺の傍には、みんながいる。大好きなリンが居る」
「~、辛いな~ぁ、観てるの」
そう思ってくれるだけで、まだ救われるじゃない、カイト。でも乗り越えるしかない。俺はリンと添い遂げる。何時か解らないけど、そう成れる日まで
「辛い(からい)辛い(つらい)同じ文字で読みが違う。俺は辛い(からい)の大好きだ」
話題のフリ方に、困惑するカイト。ちょっと聴いてくれない
「でも、辛い(つらい)のは好きじゃない。リンが好き、けど、好きな子が『少女』だから、恋人は許されない。俺は『大人』だから。正直辛い。大嫌いな辛さ(つらさ)を、耐えて、超えていくしかない。まだイイじゃない、みんなから『乗り越えて』なんて応援されるだけ。本当なら許されるわけがない」
カイトの顔が、優しくなる。それが結構、嬉しいじゃない
「同じ字じゃないけどさ、似てない『辛い(つらい)』と『幸せ』って」
「あ、言われてみれば確かに」
可愛い顔する、マブダチ
「『激辛(げきから)』って、食べられない人からすると『何が良くて食べてるんだ』って思うらしい」
「うん、そう思う。オレ、辛いのは苦手じゃあないケド、激辛はちょっと無理。殿が言う通り」
肯定に、やっぱりそうなのか、と納得、激辛好きの俺
「激辛好きの俺もさ『耐えて』食べてるトコロもあるじゃない。でも、それが何でか美味しいわけ。辛っっっいっ、舌痛い、汗止まらない。結構壮絶になってるの、だけど不思議に美味しい。一種の変人じゃない。激辛好き、全員がそうじゃない、かもしれないけど。結構辛い(つらい)のに、激辛食べてると幸せ感じる」
「はっははははっ、そうなんだ。ああ、でもそっか、オレもあるかも。甘い物大好きだけどさ、そこに、ちょっと苦みが欲しい時がある。濃厚アイスと、特濃エスプレッソとか、オレ大好き。その組み合わせ、オレ幸せ」
この辺りが『大人』なんじゃない。俺はそうでもなかったけど、子供って重ねるじゃない。甘い物に、甘い物。甘いケーキに、甘い飲み物、とか
「だから、俺は耐える。大好きな子が傍に居て『辛い(つらい)』けど、大好きな子が、俺を好きでいてくれるから『辛み(からみ)』に耐えるのと同じ。大好きな『辛み(からみ)』に耐える『辛さ(つらさ)』を超えていくのと同じ」
天井を見上げてみる。なぜ見上げるのか、俺自身解んないけど
「甘々少女が、苦みを楽しめるその日まで。俺は『辛さ(つらさ)』を楽しもうじゃない『辛さ(からさ)』を耐えて楽しむように。それを『幸せ』に変えながら」
「『辛さ(つらさ)』を耐えて『幸せ』に、か。殿ってすごいね。そんな風に考えられるんだ」
考えようじゃない、無理矢理にでも。惣菜納めを再開しながら
「全部楽しまなきゃ、損じゃない、人生。リンと、お前と、メンバーと。一度っきりの人生じゃない。大好きなおまえ達と。誰よりも愛おしいリンと。苦も楽も、全部楽しんでやろうじゃな~い」
楽しめれば勝ち、勝手に思ってやろうじゃない。楽しむが勝ち、苦も楽も。人生そのもの四苦八苦、そんな考えだってあるくらいだ。ならその四苦八苦、全部楽しもうじゃない
「がっく~ん、カイに~ぃ、何話してたの~、わたし抜きで~っ。何か盛り上がってたみたいの声っ。気になる~、聞かせてよ~ぉ」
幸せの声が聞こえる。辛さ(つらさ)の対象、幸せの代償。好きになった、俺が悪い、仕方ない。苦みも辛み(からみ)も知らない子。純粋少女、大好きなリンが、目玉焼き艦隊を置き終えてやって来る
「大げさな話じゃないよ~。ふふ、リンの事、殿に聞いてたの。ね、と~の」
「お前話をややこしくしようとしてな~い」
イタズラッコになるカイト。そのフリじゃ、どう話そうじゃない、リンの事、リンに。華咲く笑顔のリン。朝から俺、幸せじゃな~い
作品名:はじまりのあの日~一夏の恋の物語1~ 作家名:代打の代打