檻2
「……仕方ないね」
今の状況で帝人を怒らせるのは得策ではないと判断した臨也はため息をつき、トレイに乗った皿へ顔を寄せる。ぴちゃぴちゃと音を立てて水を飲む臨也の姿を、帝人は目を細めて見下ろし頭を撫でる。
「臨也さん、そんなことを平気で出来るような貴方のことを好きになるのは僕くらいですからね」
帝人から告げられた言葉に驚き、臨也は思わず顔を上げる。自分の頭をなで続ける帝人を見上げると水を飲むのをやめて口を開く。
「帝人君はオレのことが好きなの?」
「ええ、好きですよ。愛しているって言っても良いです」
澱みなくはっきりと言い切る帝人の顔を驚いたように見上げると、帝人もまた臨也の目を覗き込む。
「……てっきり何か君に恨みを買ったのかと思ったよ」
自分に好意をもっての行動なら対処の方法もあると臨也は気を良くするが、その考えを読み取ったように帝人の唇に笑みが浮かぶ。
「恨み? 別に正臣のことは気にしてませんよ。園原さんを巻き込んだりダラーズをけしかけたことは少し怒ってますけどね」
続けて告げられた言葉が臨也の背中に背筋に冷たいモノを走らせる。
「帝人君、なんだかいろいろ詳しいみたいだけど……」
「臨也さんが大変そうだったんで、頼るのやめて自分で調べてみたんですよ」
淡々とした声音で答えると臨也の髪を掴んで顔を近づける。
「臨也さんって実はとっても勤勉な人だったんですね」
囁く声だけは優しげに掴んだ髪に口付ける。
「安心してください。怪我をさせたりはしませんし、一生大切に飼ってあげますから」
臨也の髪から手を離すと、帝人はベッドからも降りドアへと向かいながら振り返る。
「あとでご飯持ってきますね」
帝人は冷たい表情から一変して優しげな笑みを浮かべると臨也にひとこと声をかけて部屋を出る。ガチャっと鍵をかける音がすると臨也は大きく息を吐きベッドの上へと倒れこむ。
「あんな子供に……っ」
臨也の言葉を信じきっていると思っていた帝人に、自分の行動を把握された上に気圧されたことを悔しそうに唇を噛み、脱出の方法に頭を働かせ始める。