檻2
しばらくして部屋のドアをノックする音が小さくすると、返事を待たずに食事をトレイに乗せて帝人が入ってくる。その姿を目にすると臨也は帝人の気を惹こうと自分が出来る一番の笑顔を浮かべた。
「ねえ、帝人君。食事くらい普通に食べてもいいよね?」
「ダメですよ。ペットが手を使ったらおかしいでしょう」
臨也の言葉に呆れたように首を振って言葉を返す。食べやすいようにと一口大に切り分けて、浅い皿に入れた食事のトレイを臨也のすぐ側へと置く。
「食事抜きを試したいならそれでも良いですよ」
葛藤しているような臨也の表情を見てベッドに腰掛けると、帝人は手持ち無沙汰から臨也の頭を撫でる。
「一食や二食くらい抜いたって平気だけど……」
臨也のことを好きだという帝人の気持ちを操れば良いと、撫でてくるその手に甘えるように擦り寄る。臨也の行動にキラリと帝人の瞳が青く光ったように見えると、帝人は臨也の髪を掴み目を覗き込む。
「僕のことを好きな振りはしないでください」
「オレは、帝人君のことちゃんと好きだよ」
髪を掴まれた痛みに顔をしかめるが、嘘ではないのだと伝えて笑おうとする。
「僕のこと“も”でしょう」
わかっているのだと言うように冷めた目で笑うと、臨也の頭を押さえ食器に近づける。
「食べたくないのなら貴方が弱るまで本当に食事抜きにしますよ」
帝人の言葉に臨也は、自分の言葉は逆効果になると諦めたようにため息を落とし渋々食事に口を寄せる。口だけでは食べにくいと不満を表情に出す臨也を、帝人は楽しげに見下ろす。
「臨也さんってプライド高いですけど、でも普通の人とは違うところに発揮しますね」
渋々とはいえ食事を始めた臨也の行動を分析するように淡々と話し出し、視線を合わせようとベッドから降りて屈み込む。
「今、君に逆らってどうなるのかな」
汚れてしまった口元を気持ち悪そうにシーツで拭い、射殺したいと言うような鋭い眼差しを向ける。
「かわいいなあ、臨也さん。だから好きなんです」
臨也の殺気の篭った視線も気にしたことなく、クスクスと声だけは楽しげに笑うと残りもきちんと食べるようにと軽くトレイの上の食器を叩く。