miss you 9
「艦長！νガンダムがアクシズに取りつきました！」
オペレーターの言葉にブライトがアクシズを映し出すモニターを見上げる。
「何処だ！」
「前方です！」
「アムロ⁉︎」
「νガンダム…アクシズを押し返そうとしています！」
「何だと⁉︎馬鹿な事を！やめさせろ！」
「νガンダム、応答しません！」
「アムロ！答えろ！おい！アムロ！」
おそらくこちらの声は聞こえているだろうが返事を返さない。
「あの馬鹿！」
◇
「ごめん、ブライト…でも、何がなんでもアクシズを止めないと！」
ガタガタと振動するコックピットの中で、アムロはアームレイカーを強く握りスラスターを全開にする。
「クソ！止まれ」
激しい振動に肩の傷が痛み始めるが、それに構う事なく最大出力でアクシズを押し返す。
「νガンダム！お前の力はこんなもんじゃ無い！石ころくらい押し返せ！」
しかし、当然ながらモビルスーツ一機の力ではアクシズの勢いが止まるは筈も無く、じわじわと摩擦熱でアクシズの表面が赤く染まり始める。
「クソっ！ダメか⁉︎」
その時、地球からいく筋もの光がアクシズに向かって近付いて来る。
「何だ？」
その光達は何十機ものモビルスーツだった。
連邦のジェガンがアムロが取り付いているアクシズの下へと回り込み、同じ様にアクシズを押し始める。
「何だ？何だって言うんだ！」
気付けば、そこにはネオ・ジオンのギラ・ドーガの姿まであった。
「無茶だよ！やめてくれ、爆装してる機体だってあるじゃ無いか！」
アムロが叫ぶその横で、爆走していたギラ・ドーガが爆発する。
「ああ！ダメだ！離れろ」
叫ぶアムロに対して、パイロット達は口々に地球を守る為だと、やる価値はあると答える。
この時、敵味方関係なく吹き飛ばされそうな機体を助け合い、パイロット達の心が一つとなってアクシズを押し返す事に集中していた。
気付けば、アムロや周囲のモビルスーツの周りから緑色の光が溢れ出し、アクシズを包み込み始めた。
「何だ？この光…サイコフレームの共振か？」
「その様だな」
アムロの声に答える様に、シャアの声が響く。
「シャア⁉︎」
「相変わらず君は無茶な事をする」
横を見れば、シャアのサザビーがアクシズに取り付いていた。
「シャア！貴方まで！っていうか無事だったのか？」
「なんだ、こちらの様子に気付いていたのか？」
「当たりまえだ！貴方が指揮する動きじゃなかった！」
「ふふ、そうか。少しは心配してくれたか？」
「馬鹿言うな、貴方がクーデター如きでどうにかなるなんて思っちゃいないよ！どうせある程度予測して備えていたんだろ」
「当然だ。内部の膿みを取り除くチャンスは逃すわけにはいかん」
「それに巻き込まれるこっちの身にもなれ！」
「ああ、そう言えば怪我大丈夫か？」
「私は大した事ない！それよりもジョルジョが…！」
「…それは自業自得だろう」
「何だと⁉︎貴様！」
「私から君を奪う者は誰であっても許さない」
「…っ」
「アムロ、君は私のものだ。何があろうと手離す気はない」
「馬鹿野郎！大体今そんな事言ってる場合か！」
「ああ、少々厄介な事になったな」
「少々じゃないだろう！クソっ爆破の勢いが強すぎた」
「想定外の事は起こるものだ」
「呑気な事言ってんじゃないよ！」
二人が言い合いをしている合間にも何機ものモビルスーツが吹き飛ばされていく。
「ああ！クソっ、もうみんな下がれ！こんな事に付き合う必要はない！」
アムロの身体から緑色の光が一層大きく溢れ出し、νガンダムの機体を覆う。
そして、激しく膨らんだ光が弾けると、周囲のモビルスーツ達がその光に弾き飛ばされアクシズから離れていく。
「凄まじいな」
「貴方も離れろ！」
「言っただろう。何があろうと君を手離さないと」
シャアの身体からも緑色の光が溢れ出し、サザビーを包み込む。
「このまま、君と共に死ぬのも悪くない」
「ふざけるな！貴方父親になるんだろう！そんな無責任な事を言うな！」
「……っ…」
アムロの叫びにシャアの時が一瞬止まる。
そして、そのブルーの瞳に優しい光が灯る。
「…そうか…父親か…それは諦める訳にはいかんな」
「そうだよ！」
「君は…産んでくれるのか？」
「当たりまえだだろう！何言ってるんだ！」
「私の子だぞ、それは即ちジオンの子だ。それでもか？」
「そんな事は関係ない！」
「……そうか…」
シャアの顔に笑みが浮かぶ。
「では、こんな事はさっさと終わらせて君を抱き締めよう」
シャアの身体を包み込んでいた緑色の光が大きく膨れ上がり、アムロから放たれた光混じり合って一層大きく美しく光り輝く。
そして、その光がアクシズを完全に包み込み、そこから伸びた光が地球へと伸びていき地球をも包み込んだ。
◇◇◇
シンと静まり返った空間。
気付けば、アムロはνガンダムのシートに凭れ掛かり気絶していたらしい。
あれ程激しく振動し、ノーマルスーツを焼くほどだった熱も収まり、コックピット内は信じられない程静まり返っていた。
「どうしたんだ…アクシズは…どうなった？」
軋む身体を起こし、周りを見回すが、カメラが全て死んでいるのか外の様子が何も見えない。
「カメラはダメか…でも酸素はある…システム全てが死んだ訳じゃないか…」
生命維持に関わる部分がなんとか生きている事にホッと肩を撫で下ろす。
しかし、ラー・カイラムに自力で帰艦は難しそうだと思いながら立ち上がる。
「痛っ」
その瞬間、左肩に激しい痛みが走り、グラリと身体が揺れてそのまま直ぐにシートに座り込む。
「傷口が開いたか…」
ノーマルスーツ内の湿った感触と痛みに顔を顰める。
「シャアは…シャアはどうした？無事なのか？」
痛む肩を押さえながらも、外に出て状況を確かめようとコックピット内に浮いているヘルメットを掴む。
その時、微かに自分を呼ぶ声が頭に響いた。
「シャア⁉︎」
耳元に手を当て、もう一度その声に耳を澄ます。
すると、再び自分を呼ぶ声が聞こえた。
それは、間違いなくシャアの声。
「シャア！無事か⁉︎」
アムロが叫ぶと、その声が相手にも聞こえたのか、ホッと安堵の息を吐く気配を感じる。
そして、もう一度声が聞こえる。
《アムロ、無事か？》
今度は、接触通信ではっきりと耳に声が届く。
目の前にシャアのサザビーがいる証拠だ。
その事に、アムロも安堵し小さく息を吐く。
「ああ、無事だ。貴方は？」
《私も大丈夫だ。君の機体は動かせるか？》
その問いに、コンソールパネルを操作してみるが、やはり動力系は動きそうもなかった。
「ダメみたいだ。貴方の方は？」
《こちらはどうにか動きそうだ》
「…流石は総帥専用機」
ネオ・ジオンの技術を全て注ぎ込んだ最高の機体。安全性や防御性にも桁外れに優れているなと少し嫉妬の様なものを感じる。
《君の場合は無茶をし過ぎだ、それに君は機動性を求めるあまり、安全性を二の次にした設計にしていないか？》
痛いところを突かれウッと唸る。
「…うるさいな」
《ところでアムロ、ノーマルスーツに損傷はないか？》
そう聞かれ、少し不貞腐れながらも全身を確認する。
「大丈夫だ。問題ない」
《それならば此方に移動して来い。今、ハッチを開ける》
「分かった」
作品名：miss you 9 作家名：koyuho